カイケツ
情報掲載日：2022年8月1日
トヨタの問題解決手法でNPOのマネジメントを改善する
トヨタ財団は7月27日、トヨタ自動車の問題解決手法をNPO向けに伝える連続講座「第6期トヨタNPOカレッジ『カイケツ』」の成果発表会を行いました。同講座は、社会課題解決の担い手である非営利組織のマネジメントを改善し、より大きな成果を出してもらうことが目的です。約7カ月間かけて取り組んできた問題解決のプロセスをA3用紙1枚にまとめ、6団体がその成果を報告しました。
トヨタの問題解決は、「テーマ選定」「現状把握」「目標設定」「要因解析」「対策立案」「対策実行」「効果の確認」「標準化と管理の定着」の8ステップからなり、参加団体は問題解決のプロセスをA3用紙1枚にまとめていきます。
トヨタ財団の山本晃宏常務理事は、成果発表会で「これまで、約90団体にカイケツを受講してもらいました。今回取り組んだ問題を解決しても、別の日常業務の課題が出てくるはずです。これからも問題解決の手法を業務に生かしていってほしい」と激励しました。
成果発表会では、6団体が問題解決の成果を報告しました。
業務過多の理事長の残業がゼロに
NPO法人あきた結いネット（秋田市）は、住居提供や就労支援などホームレス支援を行っています。カイケツでは、「理事長の業務時間を削減する」をテーマに掲げ、業務過多が常態化していた理事長が理事長にしかできないタスクや、新事業の準備といった業務に集中できる環境づくりを目指しました。
現状把握するなかで、「職員対応」に多くの時間を費やしていることが判明。そこで、業務改善システム「キントーン」を導入し、情報共有の徹底や各職員のタスクを明確化していきました。その結果、6～7月は理事長の超過勤務時間（残業・休日出勤）がゼロになりました。菅原啓汰さんは「理事長だけではなく、法人全体の効率化や負担軽減にもつながり、タスク循環が円滑化しました」と話します。
認知症高齢者のケア・プログラムを改善へ
都城三股農福連携協議会（宮崎県都城市）は、テーマに「『認知機能改善ケア・プログラム』参加者の満足度向上」を掲げ、問題解決を進めてきました。同団体は、認知症高齢者を対象にしたプログラムを行っていますが、屋内作業の場合、当事者の満足度が著しく低下することがあったといいます。
そこで、なぜ満足度が低くなるのか要因を解析し、現在は秋期に向けてプログラムの改善を行っています。岡元一徳さんは、「満足度が低いことに関して、これまで他責になっていたことに気付きました。データをしっかり取り、振り返ることの重要性を認識しました」と感想を語りました。
助成金に頼らない収益源を確立したい
特定非営利活動法人ゆどうふ（東京都町田市）は、ひきこもりなど生きづらさを抱えた若者やその家族を支援する活動を行っています。収益源の多くを助成金が占めることから、「外部財源に依存しない収益源の確立」を目指し、自主事業として、相手に配慮しつつ自分の思いをしっかり伝えていくコミュニケーション「アサーション」を学ぶ講座を本格展開することになりました。
そこで、カイケツでは、アサーション講座を年33回できる体制を構築することを目標に設定しました。職員の業務量の多さや目的意識の共有不足といった課題が浮き彫りになり、現在はタスクの優先順位や、効率的に事業を進める体制づくりに取り組んでいます。辻岡秀夫さんは、「アサーション事業を成功させるために、継続して問題解決に取り組んでいきたい」と意気込みます。
3団体を担当した中野昭男講師（のぞみ経営研究所代表）は、「みなさんの成長を感じました。問題が起きれば、すぐ『対策』をしたくなるが、ステップが重要。『現状把握』をしたうえで、『要因解析』し、その原因を取り除く『対策』をすることが大切です。それが、的を射た対策につながるのです。これから問題が発生しても、組織としてみんなで取り組んでいく風土ができたようで良かった」と評価しました。
種子島で「やりたい」を表現できる文化づくり
一般社団法人LOCAL-HOOD（鹿児島県中種子町）の代表理事・湯目由華さんは、地域おこし協力隊として、種子島に移住。「種子島ではチャレンジしにくい」という声を聞いたことがきっかけとなり、種子島のまちづくりについて語り合うイベント「たねがしまスープ」を運営しています。
イベント自体は成功しているものの、運営スタッフの満足度がばらばらで、達成感を得られる仕組みづくりを行いたいという思いで、カイケツに参加。現状把握として、初めてスタッフのアンケートを取ったところ、満足度は10点満点中6.2点で、「スタッフ同士を知る機会がない」「質問しにくい」とった声が上がりました。業務をセクションに分けたり、隔週で打ち合わせの機会を設けたりするようになったことで、「相談しやすい雰囲気になり、アイデアがたくさん生まれるようになってきた」と、湯目さんは手応えを語ります。
担当した鈴木直人講師（元日野自動車TQM推進室室長）は、「やりがいの向上という難しいテーマでした。人の心情を数字で表すのは難しいのですが、数値で表すからこそ、成果が見えてきます。『わいわいがやがや』とチームワークで解決に導いていったのが良かった」と評価しました。
日本で暮らす外国人と日本人ボランティアをつなぐ
特定非営利活動法人アジア人文文化交流促進協会（JII、東京・目黒）の理事・事務局長のヤン・ミャオさんは、中国・北京出身で、20年ほど前から日本で暮らしています。JIIは、2019年に「おとなりさん・ファミリーフレンド・プログラム」（OFP）を立ち上げ、地域に住むおとなりさん（日本人ボランティア）とペアを組み、日本での生活になじみやすくするための支援を行っています。
しかし、マッチングするまでの期間が30日～78日とばらつき、コーディネーターの運営管理業務も煩雑でした。そこで、カイケツでは、「参加者規模の増加に対応するためのOFP運営効率の改善」をテーマに設定。重複タスクを減らしたり、データベースシステムを導入したりすることで、マッチング期間を短縮し、参加者数を増やすことに成功しました。
ヤンさんは「日本で暮らす外国人の多くは『情報不足』と『孤立』の問題を抱えています。カイケツに参加して現状を認識できたことが良かった。団体への期待が高まるなかで、前もって規模拡大の対応の準備ができたことにとても感謝しています」と述べました。
市民団体と顔の見える関係を築く
認定特定非営利活動法人愛知ネット（愛知県安城市）は、災害時に活動する市民団体と顔の見える関係を築くことを目的に、指定管理者として愛知県内で4つの市民活動センターの運営を行っています。
協働の推進の結果としてマッチング件数が増やすため、カイケツでは、「相談者の満足度＆マッチング件数をアップしよう」をテーマにしました。相談フォロー率100％を目指し、相談記録のフォーマット改正やマニュアル作成に取り組んでいます。
増田貴子さんは、「相談相手が自らパートナー探しを求めてくることは多くありませんが、子ども食堂の実施など、パートナーが必要になってくる場合もあります。そうした判断は、丁寧なヒアリングや相談後のフォローによって分かることが多いということを認識できました。そうした問題意識をスタッフとも現状を共有できたことが良かった」と振り返ります。
担当した古谷健夫講師（クオリティ・クリエイション代表取締役）は、「最終的に『システムを導入する』という対策になるかもしれませんが、まずは現状を『見える化』し、何が問題かをとらえておくことが必要です。愛知ネットは、顧客満足度に取り組んできましたが、顧客の満足度が上がれば、職員の満足度も上がるはず」と言います。
「皆さんには、カイケツを問題解決の『型』を学んでもらいましたが、今後は応用しながら、本質的に取り組まなければならない課題に取り組んでいってほしい。実際には続けていくことは難しく、しばらくすると元に戻ってしまうこともあります。『PDCA』から『SDCA』へ、つまり標準化（Standardize）していくという流れが重要。社会課題に取り組んでいる素晴らしいNPOが、より効率的に業務をまわして、力を発揮し、日本全体が良くなるように盛り上げていってほしい」（古谷講師）
