カイケツ
情報掲載日:2019年5月29日
人手不足にどう向き合うか:トヨタNPOカレッジ「カイケツ」
トヨタ財団は5月14日、トヨタ自動車の問題解決手法をNPO向けに伝えるトヨタNPOカレッジ「カイケツ」を開き、第1ステップである「テーマ選定」を行いました。テーマ選定は、改善したい問題を1文にまとめるステップ。「何に対して」「何を」「どうしたいか」を具体的に設定していきます。
石巻で川開き祭りを盛り上げる
毎年8月初旬、石巻市では石巻最大の伝統行事、川開き祭りが開かれます。この祭りを彩るのが、七夕飾り。しかし、東日本大震災の影響で2010年を最後に途絶えてしまっていました。
それを2015年に復活させたのが、石巻でまちづくりに取り組む一般社団法人ISHINOMAKI2.0(石巻市)です。ISHINOMAKI2.0は2011年から、川開き祭りに合わせ「STAND UP WEEK」と題した連続イベントを実施。期間中は、復興バーや無料野外映画上映会、音楽ライブ、街づくりシンポジウムなど、さまざまなイベントで盛り上がります。
ISHINOMAKI2.0事務局の斉藤誠太郎さんは「市街地を彩る七夕飾りや子どもたちの鼓笛隊は、石巻の人にとってとても大切な原風景。これがあることで、まちの安心感や誇りにもつながる」と話します。
ところが、各種イベントを実施する一方で、スタッフの業務負荷や精神的な負担も増えていきました。それぞれのイベントを各担当者が運営する体制で、進捗管理もばらばら。斉藤さんは、石巻を盛り上げるためにも、運営体制を安定させたいと思い、カイケツに参加しました。
細見純子講師(中部品質管理協会企画部次長)は、「イベントの内容や担当は違っても、フライヤーの作成や告知など、共通している業務があるはず」とアドバイス。そこで、「共通業務の標準化」をテーマに選定し、どのようにチームで業務を最適化できるかを探っていくことになりました。
人が増えれば問題は解決するのか
NPOが抱える課題に多いのが、慢性的な人手不足。常勤職員、非常勤職員、学生インターン、ボランティアなど、勤務形態がばらばらなことも多く、カイケツに参加するNPOからも「いつも忙しい」「スタッフが疲弊している」といった声が多く挙がります。
そうしたなかで、中野昭男講師(のぞみ経営研究所所長)は、「人が増えたら本当に問題が解決するのだろうか」と投げかけます。「増員した人材が活躍できる組織になっているのか」「人が足りないことで、具体的にどのような問題が起きているのか」、まずは深く掘り下げることが重要だと言います。
瀬戸内海東部にある豊島(てしま)から参加するのは、豊島ナオミ荘施設長の丹生裕一朗さんと豊島巡回診療所の看護師小澤詠子さん。少子高齢化が進むなか、住み慣れた地域で最後まで暮らせる環境を維持し、望まない島外流出を防ぐための活動を続けています。
豊島ナオミ荘は島唯一の特別養護老人ホームで、現在30人が入所。カイケツのワークショップでは、抱えている課題として「厨房の人員不足」「管理事務局の残業」「情報伝達不足による配膳ミス」「宅配弁当導入による食費の増加」などを挙げました。
これに対し、中野講師は「『厨房の人員不足』は『結果』ではなく『原因』」と説明します。人材不足によって、結果的にどんな問題が起きているのか、原因と結果を整理して考えることが大切だとアドバイス。次回以降で、ありたい姿に対し、現状はどのような状態にあるのかを探っていくことになりました。
施設長の丹生さんは「これからも住民から必要とされる場所であり続けたいし、使命感を持って価値を提供できる介護施設を運営していきたい」と意気込みを語ります。
組織内の「対話」が重要
トヨタ財団は2016年、社会課題解決の担い手であるNPOに問題解決力を身に付けてもらうことを目的に「カイケツ」を開始しました。
カイケツはグループワークが中心で、参加者同士が情報交換したり、悩みを共有したりできるのも特徴です。議論した内容を組織内に持ち帰ってもらい、問題解決を実践するための「対話」を重要視しています。
次回(第3回)のカイケツは6月13日に開催され、問題を解決するための2つめのステップ「現状把握」を行います。