公益財団法人トヨタ財団

財団の取り組み

会長ごあいさつ

ごあいさつ

公益財団法人 トヨタ財団 会長 小平 信因

2025年の年初のご挨拶を申し上げます。昨年トヨタ財団は設立50周年を迎え、それを記念して、人間社会の50年後を展望する記念助成、日本とASEANの間の協力を主題とするシンポジウム、過去50年間の活動を振り返る特設サイトの開設等一連の事業を実施いたしました。ご協力をいただきました皆様に改めて感謝申し上げます。

第二次世界大戦から80年、世界は多くの困難な課題に直面しています。長年にわたり世界経済の繁栄を支えてきた国際秩序は崩壊の危機にあり、それにかわる新たな秩序への展望は未だ開けていません。SNSの急速な広がりと相まって民主主義国を中心に国により相違はあるものの国内の政治情勢は不透明さと不安定さを増し、中国やロシア等も国内に多くの問題を抱え、それらが国際情勢に大きな影響を及ぼしています。

一方でChatGPTに代表されるAIを始めとするデジタル技術の進展はすさまじく、一年前には不可能と考えられていたことが次の年には可能になっている状況と言っても過言ではありません。デジタル技術は既に経済社会や日常生活のあらゆる分野に深く浸透しており、今後もAIの急速な進歩が継続していくことが確実な中、一部識者が唱えるように2045年がAIが人類を超える「シンギュラリティ」となるかどうかはともかく、遠からず人類は「果たして人間とはなんであろうか、人類はAIを使いこなして行けるのか」との根源的な問いに向き合うことになるのではないかと思われます。

翻って日本をみると、1991年のバブル崩壊から長く続いた停滞からようやく脱出しつつありますが、この30年の間に日本の国際的な地位と競争力は大きく低下し、「先端技術国日本」のイメージは消えました。昨年11月にスイスのIMDが公表した世界デジタル競争力ランキングでは、日本は対象67カ国・地域中31位の評価でした。デジタル技術を生かすためには既存の仕組みや仕事の進め方を大胆に見直しながら導入を進めることが必要ですが、日本でのそうした取り組みは遅れています。また、デジタル技術の展開においては問題が生じたら迅速に対応するという「利用しながら改善する」ことが重要ですが、導入時のトラブルに耳目が集中し技術の利用自体を避ける傾向も見られます。

日本は本格的な「人口減少時代」に突入しました。現在1億2400万人の総人口はこのまま推移すると年間100万人のペースで減っていき、2100年の人口は6300万人、高齢化率は40%を超えると推計されています。人口が減少して行く中で、これまで「当たり前」と考えられていたことがどんどん当たり前ではなくなっていくことが予想されますが、既にその一部は様々な分野や地域で現実の問題として顕在化しています。

そうした状況の下、希望のもてる持続可能な日本を次世代に引き継いでいくためには、これまでの思い込みから脱却し、既にそこにある現実とこれから起きるであろう「不都合な真実」を直視し、長期的な展望をもって早め早めに手を打っていくことが求められます。

「人への投資」を抜本的に拡充して人材を育て社会全体として継続的に付加価値を高めること、様々な制度や仕組みを見直しつつデジタル・AI技術を最大限に有効活用すること、政府や地方自治体等公的部門のリソースの限界を認識し共助・互助を拡充していくこと、外国人材の活躍のための環境整備など、数多くの多様な課題に向き合い、知見や経験を共有しながら社会全体で柔軟・迅速に対応していくことが重要になります。

こうした問題意識に立って、近年トヨタ財団は、国内助成における「新たな自治型社会」のテーマ設定、「先端技術」特定課題と「外国人材」特定課題の創設、人材育成を目的とする東京大学未来ビジョン研究センターとの協働プログラムの開始、2024年度からの「人口減少」特定課題の創設、非営利団体間の知見・経験共有のためのネットワークのハブ機能としての試みなどいくつかの新たな取り組みに挑戦してきました。

常に変革を続けてきた50年の歴史を基盤として、本年からトヨタ財団は、次の50年に向けての歩みを始めます。トヨタ財団は一貫して未来志向の助成・活動を行ってきていますが、これからもより一層の社会への貢献をめざして、先見、先駆、先導という理念のもと常に先取りをした助成・事業活動を行って参ります。

今後とも皆様の厳しくも温かなご指導とご鞭撻をいただければ幸いです。

2025年1月
公益財団法人 トヨタ財団
会長 小平 信因

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