公益財団法人トヨタ財団

トヨタNPOカレッジ「カイケツ」

2021年度「トヨタNPOカレッジ『カイケツ』」説明会レポート

kaiketsu
カイケツ


情報掲載日:2021年10月28日

トヨタの問題解決手法でNPOのマネジメント向上へ

トヨタ財団は10月21日、トヨタ自動車の問題解決手法をNPO向けに伝える連続講座「トヨタNPOカレッジ『カイケツ』」の説明会を開きました。同講座は、社会課題解決の担い手である非営利組織のマネジメントを改善し、より大きな成果を出してもらうことが目的です。2022年1月に始まる第6期(2021年度)は、11月15日まで受講者を募集しています。

トヨタ財団は、助成金を拠出するだけでなく、NPOに問題解決力を身に付けてもらうことを目的に、2016年から「トヨタNPOカレッジ『カイケツ』」を開催しています。

トヨタの問題解決は、「テーマ選定」「現状把握」「目標設定」「要因解析」「対策立案」「対策実行」「効果の確認」「標準化と管理の定着」の8ステップで構成されています。取り上げるテーマは、「代表者に仕事が集中する」「業務効率が悪い」「業務品質がばらつく」といった、事業を進めていくうえで発生する問題です。

魚の骨図とも呼ばれる「特性要因図」の一例
魚の骨図とも呼ばれる「特性要因図」の一例
(2016年度「カイケツ」の実績から)

問題解決手法としてよく知られているのが、「魚の骨図(フィッシュボーン)」と「なぜなぜ分析」。8ステップの4つ目、問題を発生させている要因を探る「要因解析」の一環で活用されています。

特性要因図は、まず、右端に特性(結果)を記入。次に、4M(人、機械・設備、方法、材料)で分類しながら、魚の骨のように要因を書き出していきます。この時に、「なぜ、なぜ」を5回繰り返しながら、要因を分解していくのがポイントです。

「カイケツ」では、こうしたプログラムを通して、約7カ月間かけて問題解決のプロセスを学び、その内容をA3用紙1枚にまとめていきます。少人数のグループワークが中心で、NPO同士横のつながりもできます。

講師は長年品質管理に携わってきた古谷健夫氏(クオリティ・クリエイション代表取締役)、鈴木直人氏(元日野自動車株式会社TQM推進室室長)、中野昭男氏(のぞみ経営研究所代表)が務めます。

「自分がやった方が早い」では成長しない

説明会では講座の概要紹介のほか、第5期(2020年度)の受講者が体験談を語りました。

受講者の1人、NPO法人presents(東京・足立)代表理事の佐々木隆紘さんは、思いを共にする理学療法士の仲間らと2017年にNPOを設立。子育て支援や子どもの居場所づくりを通じて、子どもの自己肯定感を育むことを目指して活動を続けています。2021年8月には東京都足立区に地域の拠り所として「駄菓子屋かしづき」をオープンしました。

presentsのスタッフは、副業的に携わっているため、代表の佐々木さんに業務が集中しがちで、その問題意識からカイケツに参加しました。「カイケツ」では、隙間時間でも取り組みやすい「広報業務」を題材に、「全スタッフの広報業務を強化するための仕組みの構築」を問題解決のテーマに掲げました。

佐々木さんは「広報業務が不十分」という問題を「代表」「スタッフ」「システム」の3つに分けて要因解析を行いました。

NPO法人presentsの佐々木隆紘さん(右上)、 中部品質管理協会の細見純子さん(右下)、 かぬま市民活動サポーターズの渡邉博和さん(左下)、 トヨタ財団国内助成グループの武藤良太さん
NPO法人presentsの佐々木隆紘さん(右上)、
中部品質管理協会の細見純子さん(右下)、
かぬま市民活動サポーターズの渡邉博和さん(左下)、
トヨタ財団国内助成グループの武藤良太さん

佐々木さんは「外部の課題に集中していて、これまであまり組織内部に目を向けていませんでした。なぜ自分に業務が集中するのかを考えるなかで、『自分でやった方が早い』と思い、勝手に動いてしまっていたことにも気付きました。そうすると、組織として成長できなくなってしまう。スタッフの現状把握もできておらず、コミュニケーションが不足していました」と振り返ります。

対策として、定期ミーティングや個別面談をしたり、目的意識を共有する場を持ったりしたことで、少しずつ活性化してきたと言います。

「長く法人運営をしていくためのマネジメントを学ぶことができました。グループワークでは、抱えている問題について、うまく言語化できていないことや混乱しているところを講師が丁寧に整理してくれました。参加しているほかの団体の問題も、自分事として考えることで、『8ステップ』を体得できました。相談相手がいない人にも『カイケツ』をすすめたい」(佐々木さん)

佐々木さんがまとめたA3資料
佐々木さんがまとめたA3資料

対策の前に「真因の追求」を

かぬま市民活動サポーターズ(栃木県鹿沼市)は、市民活動の拠点「かぬま市民活動広場ふらっと」を運営する非営利活動団体として組織されました。中間支援組織として、NPOや市民団体、企業や行政の協働を促進し、市民主体のまちづくりを目指しています。

最近では、ひきこもる中高年の子と高齢の親が孤立する「8050(はちまるごーまる)問題」にも取り組んでいます。

かぬま市民活動サポーターズの渡邉博和さんは、「中間支援組織として事業の受託を行っていますが、行政からの委託費削減や各事業の見直しもあって、さまざまな問題が顕在化していました。ですが、なかなか計画的な見直しができていませんでした。カイケツは組織を見直す機会になり、『トヨタ』という看板も組織内で説得力を持つと思い、参加することを決めました」。

渡邊さんは、スタッフの多くが課題を感じていた「情報紙作成業務の見直し」をテーマに問題解決に取り組みました。情報紙作成業務は、委託費だけでは採算が取れず、赤字になってしまっており、業務ごとの作業時間を計測していくことにしました。

その結果、紙面制作のなかで最も時間を使っていたのは記事作り。なかでも入力作業に月480分かかり、それを月240分に短縮することを目指しました。工程管理版の作成や編集ソフトの導入などで、月273分まで削減できたと言います。

渡邊さんがまとめたA3資料
渡邊さんがまとめたA3資料

渡邊さんは「これまでは問題を感じると、要因を考える前に、ぱっと思い付いた対策を講じていました。それでは根本的な解決につながらず、問題を引き起こしている『真の要因』を徹底的に考えることの重要性を実感しました。カイケツの講師のアドバイスは的確で分かりやすかった。問題の大小関係なく、カイケツで学んだ手法はこれからも応用できそう」と話します。

2022年1月に始まる第6期(2021年度)カイケツは、11月15日まで受講者を募集しています。

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