カイケツ
情報掲載日:2019年6月24日
事実に基づいた「現状把握」が問題解決に導く
トヨタ財団は6月13日、トヨタ自動車の問題解決手法をNPO向けに伝えるトヨタNPOカレッジ「カイケツ」を開き、第2ステップである「現状把握」を行いました。現状把握は、現在の姿を客観的かつ定量的に認識するステップ。参加者はデータを持ち寄り、ありたい姿(目標)と現状のギャップを明確にしていきます。
職場の安心感をどう数値化するか
発達障害の傾向がある大学生をサポートする「BeU」は、「誰もが個性を最大限に発揮できる世の中へ」をビジョンに、定期的な当事者会の開催や講演活動、キャリア見学会などの活動を展開しています。
共同代表の小林暉さんは、団体の方向性の見直しを検討する必要性を感じ、カイケツに参加しました。小林さんは「当事者の困りごとに対応するということだけでなく、当事者の周囲の環境を変えていくことを重視し、一人ひとりの個性が尊重される社会を目指したい」と話します。
現状把握のディスカッションでは、活動の対象や社会的なニーズを明らかにし、それに応じた対応の検討を進めていきます。
活動の対象としては、(1)当事者と(2)その周囲の社会環境という2つが考えられます。(2)のなかには例えば、就職先の企業側のニーズを踏まえ、適切に職場環境を整えていく存在が求められています。
元トヨタ自動車の古谷健夫講師(クオリティ・クリエイション社長)は、「企業など組織のなかで心理的な安全性を高め、自己実現の場を提供することは重要な課題。一方で、『個性が尊重される』という多様性をどう評価し、数値化するかが重要なポイント」と説明します。
ディスカッションの中では、社内の心理的安全性を数値化して業務改善に結びつける調査研究が参考になるとの意見も出されました。小林さんはそうした点を踏まえ、「マイナスをプラスにしていく社会環境の拡大など目指す方向性を再検討し、組織のなかで共有していきたい」と話しました。
古谷講師は「これまでの実績を生かしながら、事業内容をつくっていく視点が重要」とアドバイスしました。
ビジョンと業務の紐づけを
静岡県三島市を拠点に、映画制作・上映事業や人材育成事業を展開する「みしまびと」は、「地域の未来をつくる人をつくる」というビジョンを掲げます。2016年には市民参加型映画「惑う After the Rain」を完成させ、各地で上映会を行っています。
事務局長の村上萌さんは、「なぜ、誰のために活動を行うのかという組織の根幹の部分を、より明確に言語化すべきではないか」という課題を感じているといいます。
みしまびとでは映画の完成後、次に取り組むべきミッションを模索するなかで、コミュニティカフェやコワーキングスペースなどを併設し、地域の未来をつくる人を育てる拠点として「みしま未来研究所」を設立。高校生向け起業家育成プログラムを展開するなど、人材育成に取り組んでいます。
様々な活動を展開するなかで、目指す姿やミッションを改めて再定義する必要があるのではないかという課題です。
古谷講師は、「どこかで活動の棚おろしを行い、団体としての位置づけや視点を再確認する作業が重要。個々のアクションプランがどのようにビジョンとつながっているのかということを、紙の上で見えるように紐づけることで、活動のグランドデザインを描くことにつながる」と話しました。
村上さんは「個々の活動に関わるスタッフも、どのような思いで参加しているのか、ビジョンに紐づいた形で改めて共有していきたい」と指摘。古谷講師は「取り組みの進捗を現状と比較し、計っていく視点が求められる」と応じ、目標と現状とのギャップ(問題)を明らかにする現状把握の視点が求められるとしました。
次回は解決に向けた「要因解析」ステップへ
日程の最後には、各チームでディスカッションして焦点となった課題や重要なポイントを共有しました。
トヨタ財団は2016年、社会課題解決の担い手であるNPOに問題解決力を身に付けてもらうことを目的に「カイケツ」を開始しました。
古谷講師のほか、日野自動車TQM推進室の鈴木直人主査、元トヨタ自動車でのぞみ経営研究所の中野昭男所長、中部品質管理協会企画部の細見純子次長の4人が講師を務めています。
次回(第4回)のカイケツは7月18日に開催され、問題を解決するための3つめのステップ「要因解析」を行います。