カイケツ
情報掲載日:2020年6月22日
トヨタの「問題解決」でコロナに負けない強いNPOへ
トヨタ財団は6月18日、「第5期 トヨタNPOカレッジ『カイケツ』」を開講しました。社会課題の解決に取り組むNPOにトヨタ自動車の「問題解決」手法を伝え、組織力の強化に役立ててもらうのが目的です。今期は12団体から16人が参加。半年間のグループワークや対策の実行を通じて、それぞれが抱える問題の解決を目指します。(オルタナ編集部=吉田広子)
「『改善』という風土のないところに『改革』はない。絶え間ない改善の風土をつくり、維持していくことが、創造活動そのものである」
トヨタ自動車に42年間勤め、TQM(品質管理)の推進に従事してきた古谷健夫講師(クオリティ・クリエイション代表)は、豊田章一郎・トヨタ自動車名誉会長の言葉を紹介し、問題解決について説明しました。
「世の中にコンサルタントはたくさんいますが、うまくいかないことも多い。コンサルタントがいる間はうまくまわっても、離れると元の状態に戻ってしまう。受け手側が自ら問題を解決し、それを維持できる状態になければ、本当の改善にはつながりません」
トヨタの問題解決は「テーマ選定」「現状把握」「目標設定」「要因解析」「対策立案」「対策実行」「効果確認」「標準化と管理の定着」の8ステップから成ります。カイケツではそれをNPOに伝えることで、組織力を高めてもらうことを目指しています。
「私はNPOの皆さんとの交流を通して社会の課題を知りました。皆さんに世界で活躍してもらえるように、少しでも役に立ちたい。トヨタでも長年取り組んできましたが、やるべきことをきっちりやるということは、実はとても難しいのです。最初から完璧を目指さなくていい。常に何かうまくいかないことがあるのが日常。SDCA(日常管理維持向上活動)のサイクルをまわすことで良い状態に近づいていきます」
引きこもりに社会の「入り口」を
社会課題解決の担い手であるNPOは、目の前の問題や困った人たちを助けることで手一杯になり、マネジメントに手が回らないことも多いのが実情です。
そこでトヨタ財団は2016年、成金を拠出するだけでなく、問題解決力を身に付けてもらおうと「トヨタNPOカレッジ『カイケツ』」を開始しました。今期は古谷講師のほか、元トヨタ自動車でのぞみ経営研究所の中野昭男所長、日野自動車TQM推進室の鈴木直人主査が講師を務めています。
カイケツに参加するNPO法人コネクトスポット(愛知県岡崎市)は、「年齢や障がいにかかわらず、誰もがその人らしく共に生きる地域の実現」を目指し、障がい福祉サービスを提供しています。
理事長の山下祐司さんは、作業療法士として精神科病院で働くなかで、「社会全体が生きづらくなっているのではないかと感じた」と言います。そして、取り残されている人たちが地域の担い手として自己実現できる社会をつくろうと、2018年4月にコネクトスポットを設立しました。
「設立から2年が経ち、人材育成や経営の課題を感じるようになりました。思いを持つ仲間で何とかやってきましたが、組織基盤を安定させ、次のステージに進むためにカイケツへの参加を決めました」
最近は引きこもりの相談も多く、家と社会の「入口」になるような居場所づくりにも力を入れています。「学校や職場以外にも、社会にもっと居場所があっていい。誰も取り残されることのないまちづくりを進めていきたいです」(山下さん)。
北海道の読書環境を整備したい
北海道で読書環境の整備を進めるのは北海道ブックシェアリング(江別市)。学校図書館の蔵書率や公共図書館の設置率が低く、読書環境ワーストレベルの北海道で、「だれもが豊かな読書機会を享受できる北海道にしよう」と、2008年に設立されました。
代表理事の荒井宏明さんは「広い北海道で読書環境を整備するために機動力をアップさせたい」との思いからカイケツに参加。「道内の図書室には『コンピューター』という言葉もない古い百科事典が並んでいます。読書経験の少ない子どもたちは、体系的に学ぶという基礎的な力が乏しく、ITなども使えない場合が多い」と、危機感を募らせます。
新型コロナウイルスの影響で書店の閉店も相次ぎ、読書環境はさらに厳しくなりました。荒井さんは、読書機会の不平等を解消し、時代にあった蔵書にするために、各地で図書の専門家の掘り起こしを進めていきます。
カイケツは全6回のワークショップ形式の講座で、次回は7月16日に開かれます。2021年1月に開催予定の報告会では、問題解決の成果を発表します。