カイケツ
情報掲載日:2016年4月7日
トヨタがNPOの成長を後押し、NPOカレッジ「カイケツ」始動へ
トヨタ財団は2016年5月、NPO法人など非営利組織のマネジメント能力を高めることを目的に、連続講座トヨタNPOカレッジ「カイケツ」を開講する。3月1日、トヨタ自動車東京本社で開かれたキックオフシンポジウムには、当初の定員を大幅に超える約250人が全国から集まった。
続いて、古谷健夫・トヨタ自動車業務品質改善部主査が「トヨタの問題解決─問題解決の実践で、よりよい社会の実現を」と題した講演を行った。
トヨタの問題解決 ─問題解決の実践で、よりよい社会の実現を
◉ 古谷健夫(トヨタ自動車 業務品質改善部主査)
私が一番お伝えしたいことは、「品質」という言葉です。「品質」の持つ意味は、トヨタ自動車ならば、普通、車の品質、製品の品質となりますが、他にもサービスや組織、経営、オペレーションシステムも対象になります。 「成果」を上げることは、「品質」を良くするということです。そして、「品質」が良くなることは「マネジメント」が機能しているということです。つまり、「品質管理とはマネジメントである」と言えます。
「マネジメント」の基本は「PDCA」サイクルです。このサイクルを回すことが、「改善」すること、問題を「解決」することにつながります。
機織り機に原点
トヨタ自動車はどのように問題を解決してきたのでしょうか。トヨタ自動車の始祖・豊田佐吉は、発明王と言われていました。佐吉は、明治時代の当時から「商品テストをしてから世の中に出せ」と繰り返し言っていました。
佐吉の息子、豊田喜一郎は、トヨタ自動車を作った人です。彼は、お客様の要望をきちんと聞いてから、商品を作るように指示しました。加えて、製造業務のプロセスを監査し、改善することも指示しました。良い仕事をすれば良い製品ができるからです。 発明王・佐吉は、自動機織り機を発明しました。画期的だったことは、経糸、緯糸がどれか一本でも切れたら機械が止まる仕組みを発明したことです。
それまでは、たとえ糸が切れても機械は動き続けていたため、品質の悪い商品が大量にできてしまいました。それを糸が切れると機械が止まるようにしたことで、問題を改善することができました。機織り機をずっと見張る必要もなくなり、生産性も格段に上がりました。このように品質を工程で造りこむことをトヨタでは「自工程完結」と呼んでいます。
トヨタ生産方式( TPS:ToyotaProduction System)では、必要なモノを必要な分だけ提供して無駄を出さないという「ジャスト・インタイム」と、設備や作業に異常があったら自らラインを止める「自働化」の2つを基本的な考えとしています。これによって良いものを、安くタイムリーにお客様に届けるという生産工程を組み立てました。
1960年ころになると、組織が大きくなり、生産台数が増え、従業員の数も倍増しました。そのため、組織間の連携が悪くなり、人の教育も追いつかなくなり、品質向上の対応が悪くなるという事態がおきてきました。
そこで、1961年に「TQC: TotalQuality Control」( 現在のTQM : TotalQuality Management)を導入し、全員で総合的に品質を良くしていく取り組みを始めました。
TQCでは、個々の工程で品質の造りこみを徹底しました。この取り組みによって、1964年、新型コロナは飛躍的に成功し、デミング賞を受賞しました。TQCによって、品質意識が向上し、原価意識・問題意識が高まり、標準化が促進されたのです。
異常があったら止めるというTPSで問題を顕在化させ、TQCで問題を解決するという、シナジー効果も発揮しました。 品質には2つの大きな特徴があります。1つは、品質の「よしあし・ねうち」を測るものさしは、受け取るお客様が持っているということです。提供する側が良いと思っても、受け取り側が良いと言わなければ、品質が良いとは言えません。
もう1つの特徴は、品質はばらついたり、変化したりするということです。
4M (Man (Member), Machine, Method,Material)要因や、お客様の要求・期待が、ばらついたり、変化したりすると、お客様の要求に応えられません。お客様の期待に応える新たな価値をつくるためには、この2つに対応し続けることです。つまり、品質管理とは、ばらつきや変化との終わりのない戦いです。
いつもと違うことに気づくために
企業活動はお客様をつくっていくということです。そのためにはニーズに応え、価値を生み出さなければいけません。さらに、それを保証し続けること。このマネジメントを実践していくのは全て人です。一人ひとりが意識を持たないと回っていきません。これを質創造マネジメントといいます。「新たな価値をつくる」、「ばらつき・変化に対応する」、「品質への意識を高める」、この3つを実践する方法論がTQMにあります。
方針管理(PDCA・改善活動)、日常管理( S*DCA・維持向上)、そして、これらを支えるのが、マネジメントの考え方となります。
SDCAサイクルは標準化から始まります。組織には決めごとがあるので、決めごとに従って実践。結果を評価して、異常があれば標準に戻す─というサイクルがSDCAサイクルです。
SDCAは全ての組織にあります。いつもと違うことが組織の中に起こったときに、標準がないと改善は生まれません。いつもと違うことに気付くためにはいつもの状態が分かっていないといけないからです。正しい処置を行うために、現場とは別のところで改善の取り組みを行うサイクルが、PDCAです。企業の成果には、売上高や生産性、効率化などがあげられます。成果を出すためには、この2つのサイクルを回し続けることです。
喜びを感じながら働ける風土を
現場では、ばらつき・変化によって、不適合品が多い、苦情が多いなどさまざまな「問題」が発生します。「問題」とは、「現状の姿と目指す姿(お客様の声)の間にあるギャップ」と定義しています。
対策して克服する必要のあるギャップは、みんなで共有して解決しようと思えば、解決できます。ただし、自分がミスしたことを顕在化させるには勇気が必要です。そこでコミュニケーションが取れるオープンな職場の風土づくりが重要となります。 問題解決にはステップがあります。問題が発生してすぐに、対症療法的に対策・実行・命令を行ってもうまくいきません。時間がかかっても、まずは今の姿がどうなっているかをありのままに把握し、目指す姿を共有することが必要です。その方が、結局効率良く問題解決に結びつくからです。
ギャップを生じさせている原因を探ると、いろいろ出てきます。本当の原因にたどりつけば、対策してギャップを埋め、標準化します。トヨタ自動車では、5回の「なぜ」を繰り返します。たとえば、ゴミ箱に入らなかったコピー用紙が床に転がっていたとします。「なぜ捨てたのか」、「なぜコピーを取る必要があるのか」と繰り返し問うていくことで、もともとの書類の整理に問題があったという真の原因が分かるのです。
トヨタ自動車には、日常業務において徐々に改善していく「表準(おもてひょうじゅん)」という言葉があります。現状の姿をありのままに見える化して、改善しようという発想です。
たとえば、3か月に1回講演会を開催するとしましょう。最初に、タスクを日程表に書き出します。企画立案、パンフレット作成、参加者募集などのプロセスがあります。次は、足跡を残していきます。講師にお茶を出そうか、送り迎えはどうするか─など、次から次にやるべきことが出てきます。
実施段階で変更や追加になったことを日程表に追記していきます。ありのままに記録していくことで、次回改善すべきポイントが日程表の上で見える化されます。足跡は改善の宝庫です。そして、この改善点を標準化していきます。スタンダード(標準)は最初から完璧なものがあるのではなく、スパイラルアップして完成度を高めていくのです。
最後に、「Joy of Work(働く喜び)」という言葉があります。W・エドワード・デミング博士が第二次世界大戦後の焼け野原が広がる日本に品質管理を教えたときに、「Joy ofWork がなければSDCAもPDCAも回らない」と言いました。一人ひとりが成長を実感して、働く喜びを感じながら働ける風土をつくることで、SDCAもPDCAも回って問題が解決していくのです。