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助成対象者からの寄稿

未来への扉を開きその先へ歩みを進める

Sambor Prei Kuk遺跡群周辺の伝統的建築の家屋 Sambor Prei Kuk遺跡群周辺の伝統的建築の家屋。DOOR to ASIAカンボジアでは、伝統的デザインや建築を受け継いでいくことが地域に暮らす人にとっての喜び・誇りにつながるような提案をしました。© Miguel Jeronimo IG:migueljeronimophotographyこのリンクは別ウィンドウで開きます

著者◉ 矢部幹治(DOOR to ASIA)

[助成プログラム]
2019年度 国際助成プログラム
[助成題目]
デザイナー滞在型事業を通じた 地域の中間プレイヤー育成と国やセクターを超えた学び合いのプラットフォーム創出
[代表者]
友廣裕一(一般社団法人つむぎや 代表理事)

未来への扉を開きその先へ歩みを進める

敢えて開催しない期間

DOOR to ASIA(以下DTA)は、2015年に東北の三陸地方で始まった、国を超えた相互の信頼関係を大事にするデザイナーズ・イン・レジデンス。アジア各国のデザイナー達が一定期間、一つの地域に滞在し、その地域に眠っている可能性を一緒に見つけ、デザインを通じて事業者/コミュニティとの間に小さくても確かな、未来の「扉」を開くプログラムです。東北から日本各地、そしてアジアの地域での開催により、信頼の輪が少しづつ広がっています。

各地域で実施する中で、「外と内をつなげる人」、地域の事業者や住民の価値観を理解し、持っている資源を大切に活用するため、外部人材とのコーディネートができる「中間プレーヤー」の存在が、地域と寄り添っていく上で重要な役割を担うことに気づきました。

トヨタ財団との取り組みでは、国内外デザイナー滞在型事業を通じて、地域の「中間プレーヤー」の育成と国やセクターを超えた学び合いのプラットフォーム創出に取り組んでいます。

当初インドネシア・カンボジアでの2か国でのプログラムを予定していましたが、2020年からのコロナウイルス感染拡大の影響で、渡航・滞在での密なコミュニケーションを大事にしている我々のプログラムは、延期または実施方法の再考を余儀なくされました。我々プロジェクトチームの中でも、「オンラインで本当の交流ができるのか」「今までと同じ交流が達成できるか」という意見や、チームの中での生活の優先順位の変化がありました。

今まで、DTAの輪を広げることばかりを考えていたのかもしれません。料理で例えるとこういうことだったのだと思います「食材に味が染み込むのは、熱が与えられているときではなく『温度が下がるとき』。冷めていく(放っておく)時間が長ければ長いほど、味は染み込む」。敢えて開催しない(放っておく)期間は、今振り返るととても重要だったのだと思います。

みんなで一緒に考えていくDTAカンボジア

オンラインイベント「Knock! Knock!」

2021年、各国で地域・住民のために「今できること」にチャレンジしているDTAは、過去参加した仲間たちを紹介し、コロナ禍でのクリエイティブの役割をシェアする、オンラインイベント「Knock! Knock!」を開催しました。各回、タイ・インドネシア・カンボジア・フィリピン・インド・シンガポール・マレーシアと、国ごとに違った状況・課題、チャレンジ、また様々なアイディアをシェアしてくれました。共通するのは「誰かの想いのため」「今できる最良のこと」。お互いに刺激を受け、アイディアを通して相互扶助、双方向の交流をオンラインでも見出すことができました。

会を重ね、お互いの理解が深まり、2022年頭からカンボジアに10年以上住む吉川舞さんを通して見えるカンボジアの可能性を紹介していきました。また吉川さんは、コンポントムのSambor Village hotelの運営を引き継ぐことになり、場所を持って地域と関わる、新しい役割を担うようになりました。彼女が信じるもの・拠点・自身の役割・どんな仲間がいるのか、生きていく術を持っているマスターや、その術や知恵をどのように伝えていくかなど、たくさん会話をみんなで重ねてきました。

しかしながら、ひとまずやってみようという思いから始まったオンラインイベント「Knock! Knock!」その目的やゴールは、当然初めから見えていた訳ではありません。日本側のメンバーそれぞれの生活の優先順位の変化などがあり、開催を続けていくのが難しい時期もありました。日程、テーマ、国の選定、登壇者の選定、内容の確認・リハーサル、発信、集客など……、力になってくれたのは海外の仲間たちでした。今思うと、自分のモチベーションは、「きっとまた一緒に会える日が来る」「交流を絶やしたくない」でした。この期間は「冷めていく(放っておく)時間が長ければ長いほど、味は染み込む」だったと思います。

開催に向けて不安もあった吉川さんに、フィリピン セブ島のデザイナーMark (Happy Garaje)から、「(吉川)舞は、自分で想い描いたことを信じてカンボジアに住み始め、そしてここまで切り開いてきたんだから、今回のDTAも同じだから自分で想い描いたことがきっとできるよ」という仲間を信じる気持ちが後押しになったはずです。

コロナ禍でたくさんのものが一度止まり、立ち止まった時、今まで気づかなかった大事なこと・考え・景色がそれぞれ見えたのではないでしょうか。2022年になって少しづつコロナの出口が見えてきて、「我々は以前と同じに戻っていくのか」、それとも「新しい道を作っていくのだろうか」。今だからこそみんなで一緒に考えていくDTAカンボジアを目指し、準備をはじめました。開催方法は、オンライン? 国内と国外で分けてハイブリッド? など話しておりましたが、4月頃から世界各国の渡航制限が解除されている中、「みんなで集まれる!」と、我々DTAが最大限の力になれるよう、滞在式での開催に向けて準備をし始めました。

観光業をメインにされていた吉川さんには、今までカンボジアのクリエイティブの仲間はいなかったそうです。不思議に旗を掲げると、周りの人が集まって来るようで、デザイナー・クリエイティブの仲間達が集まってきました。

「農・食」「精・魂」「住・景」「街・関」

世界遺産のSambor Prei Kuk 世界遺産のSambor Prei Kuk

今回舞台となったコンポントム州にはSambor Prei Kukという、1000年以上前に王都だった遺跡群があり、カンボジア国内で3番目に登録された世界遺産です。大都市から離れた地域だからこそ、土地に根ざした暮らしの姿や風景・生業・食など、固有のゆたかさに満ちた場所ですが、現代社会の加速度的な成長のなかではそうした「暮らしや土地に宿る物語や魂、哲学」は見えにくくなっているからこそ伝えずらく、忘れ去られる危機の中にあります。

こうした中でSambor Prei Kuk遺跡群には遺跡そのものの価値はもちろん、遺跡が属する地域の自然や暮らし、そのなかに宿る文化とのつながりという、この地域だからこそ伝えたい魅力があります。下記4つのテーマに導いてくれるキーパーソンを立て、地域の魅力を4チームに分けて一緒に発見してきました。

「農・食/土とともに暮らし続ける」「精・魂/土地の物語と生きる」「住・景/暮らしのなかに宿る魂」「街・関/まちの物語をつなぐ」

カンボジアの都市部や海外から訪れるクリエイターたちが、前半3日間でそれぞれの視点で見て体験し、発見した価値をどのように伝えていくのかのコミュニケーションデザインを、その後の2日間で提案をしていきました。国・専門性・視点の違いと共感する所から、さまざまなアイディアが生まれていきました。しかしアイディアの根底には、その地域・住民がプライドを持ち、一緒に育てていくことを大事に考えています。

パゴダ(寺院)での発表会 パゴダ(寺院)での発表会

コンポントムでの発表会では、地域の人が集まれる場所のパゴダ(寺院)で行いました。さまざまな世代の方々が同じ高さの床に座り、僧侶にも来て頂き、子どもたちが駆け回り、犬もいて、素晴らしい発表の機会となりました。

発表後、地域のキーパーソンの一人が、「この開いたドアをこれからどうするかが大事」と言ってくださいました。今年9月に、参加したカンボジアのクリエイティブチームが、また仲間を連れて地域の人々とワークショップなどを開催してくれました。これらのアイディアの種がどのように育っていくのかが楽しみです。

Tシャツを製作。クメール語で「どこ?」という意味で、村の人々と一緒に魅力を発見していく Tシャツを製作。クメール語で「どこ?」という意味で、村の人々と一緒に魅力を発見していく

外からの自分達に何ができるのだろうかは、過去のプログラムでもいつも心の中にありました。実は、今回我々のチーム(「住・景/暮らしのなかに宿る魂」)でホームステイをした際に、滞在先のお母さんと一緒に霊媒師に見てもらおうと、みんなで訪問しました。「外からの自分に何ができるのか」の質問を聞いてみたら、「自分が良いと思い、信じているものをちゃんと伝えれえば、きっとみんな理解してくれるはずだよ」と言ってくれました。当たり前のことかもしれませんが、なぜか、今まで信じていたものが間違っていなかったという気持ちになりました。

「冷めていく(放っておく)時間が長ければ長いほど、味は染み込む。」ように、時には時間をかけて、地域に深く染み込んでいくのだと思います。

公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No.40掲載(加筆web版)
発行日:2022年10月20日

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