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助成対象者からの寄稿・「私」のまなざし

「私」のまなざし◎先進国が享受する豊かさはどこからくるのか

モザンビークのサバンナ地域に位置するマカベニコミュニティは、リンポポ国立公園から2013年に強制退去させられ、現在再定住コミュニティとして生計活動を再建中。 モザンビークのサバンナ地域に位置するマカベニコミュニティは、リンポポ国立公園から2013年に強制退去させられ、現在再定住コミュニティとして生計活動を再建中。

著者名:大築 圭(ユトレヒト大学地球科学部准教授)

[助成プログラム]
2017年度 研究助成プログラム
[助成題目]
資本主義フロンティア周縁におけるコミュニティ再生――モザンビークにおける強制移住に関する民族誌的事例研究――
[代表者]
大築 圭(ユトレヒト大学地球科学部准教授)

先進国が享受する豊かさはどこからくるのか

再定住先に初めてひかれた水道 再定住先に初めてひかれた水道

2017年度から2年間(実質的にはコロナ禍の影響で3年間)、トヨタ財団の研究助成を受けて、「資本主義フロンティア周縁におけるコミュニティ再生─モザンビークにおける強制移住に関する民族誌的事例研究─」という研究プロジェクトをやらせていただきました。

平たく言うと、モザンビークの南西部、南アフリカとの国境にあるリンポポ国立公園から強制移住させられた人々の生活再建について調査するというプロジェクトです。なぜモザンビーク? なぜリンポポ国立公園? なぜ強制移住? と思われるかもしれません。ひとつひとつ答えることで、私の研究者としての想いを綴ってみたいと思います。

モザンビークに行くようになったのは、最初は偶然でした。もともとオランダのワーゲニンゲン大学で開発社会学の博士号を取り、オランダで研究職を探していたところ、2015年に、ユトレヒト大学の地球科学部がモザンビークでの社会包括的なビジネスモデル(Inclusive Business Model)に関する研究プロジェクトに携わることができるパートタイムの研究者を募集しているのを知りました。その時私は子どもが生まれたばかり、でも研究活動にまた戻りたい状態だったので、パートタイムという条件が都合よく思えて応募しました。

もともと博士課程でブラジルのアマゾン地域の持続可能な開発に関する研究に従事していたので、モザンビークの公用語であるポルトガル語ができるということもあり、すぐに雇用が決まりました。パートタイムといっても、オランダではあまり仕事をしなくてもいいからモザンビークに行ってほしいという契約で、パートナーの協力もあって、モザンビークでのフィールドワークに年に数回出かけるようになりました。

水道が故障し7キロ離れた川で水をくむ女性達 水道が故障し7キロ離れた川で水をくむ女性達

博士課程の研究では、アマゾンの森林保護を叫ぶだけでは、開発、および森林破壊に従事する人々やアグリビジネスを推進したい政治家の共感が得られず、森林破壊に勤しむ人たちが森林保護を通して生計を立てられるようにするための方策を考える必要があることが分かりました。また、そのためには、アマゾン地域の地政学、およびさまざまな生業に携わる住民の生き方をよく理解し、政策に反映する必要があるという論文を出しました。この考えは、モザンビークに行くようになってさらに強くなりました。

ユトレヒト大学の研究プロジェクトではリンポポ国立公園周辺のコミュニティの生計活動に資するビジネスモデルについて調査を行っていました。リンポポ国立公園は、野生動物および植生の保護、サファリ観光開発を目的として2001年に設立されましたが、近接する南アフリカのクルーガー国立公園と違い、1万人近い人々が国立公園内に居住しており、野生動物はほぼ絶滅していました。

そこで、モザンビーク政府と公園への主な出資元である南アフリカ平和公園財団およびドイツ開発銀行は7000人を公園外に移住させ、野生動物をクルーガーからモザンビーク側に移送することでサファリ観光開発を進めることにしたのです。2021年現在、5000人が公園の外の森林地帯や都市部に再定住していますが、彼らの生業は、本来狩猟採集、年一度の雨期にたよった農業、家畜経営です。

しかし狩猟は禁止、再定住先での土地は確保に時間がかかり、また干ばつも頻繁に起こるようになり、公園側が約束したインフラ整備の遅れも相まって、生計活動はなかなか再建されず、炭焼きによる森林破壊や公園内での違法狩猟など、結局環境保全に逆行する結果になっていたのです。トヨタ財団の研究プロジェクトはこの再定住の状況を詳細に調査することに焦点を置きました。

著者と調査協力者との記念撮影 著者と調査協力者との記念撮影

一見全く異なる熱帯雨林アマゾンとアフリカのサバンナ地域が似ているのは、環境保全と一口に言っても、その環境に暮らす人々がいる限り、その人たちの生き方、とくに生計活動とそれを可能または不可能にする政治体制を理解し、少しずつ持続可能な社会を目指す方向に動かないと、結局環境破壊が加速してしまうということです。特に、強制移住・再定住という、保全対象になる環境に暮らす住民の反発を招く方法を最初から取るならば、政府や投資元、援助機関などは覚悟を決めて長期的に再定住を支援する必要があります。

現在、世界中で2030年の持続可能な開発目標達成の必要性が叫ばれていますが、それと同時に環境保全、持続可能でクリーンなエネルギー創出(水力発電のためのダムや原子力発電所など)や新たな鉱山および都市インフラ開発に伴う強制移住がさまざまな形をとって行われています。強制移住が起こるということは、再定住コミュニティが世界中で広がっているということで、私はこれらのコミュニティの再生を持続可能なものにすることが結果的に持続可能な開発を包括的に進めることにつながると考えています。

ここで包括的というのは、グローバルな目標達成のために犠牲を払う人々が出ることがないようにするということです。そのためには政府だけではなく、特に途上国に出資・援助する開発銀行、ビジネス、短期的に介入するNGOや我々研究者が、自らの役割を明らかにし、犠牲を伴う環境保全や持続可能な開発についての見地を広め、対策を練ることが必要です。

今現在の私の役割は、モザンビークという世界の最貧国、その隅っこにあるリンポポ国立公園からさらに追いやられた人たちの置かれた状況を発信することで、欧米や日本にいる私たちの豊かさがどこからくるのかを考える契機にすることだと思います。

公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No.37掲載
発行日:2021年10月28日

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