情報掲載日:2024年12月19日
その国際的な助成事業は、東南アジア諸国連合(ASEAN)が1967年に発足して間もない時期に、東南アジアから開始されました。
以降今日に至るまで、助成プログラムの形をさまざま変えながらも、トヨタ財団が助成する事業あるいは研究活動は、
東南アジア諸国のどこかで、絶えることなく続けられています。
2024年のトヨタ財団の設立50周年を記念し、日本—ASEAN関係の新たな時代を見据え、
長期的・世界的な視点から日本—ASEANの相互協力について、特に民間財団の役割という視点で考えるシンポジウムを開催しました。
場所:国際文化会館岩崎小彌太記念ホール(東京都港区六本木5‐11‐16)
言語:日本語・英語(日英同時通訳)
参加者:招待制・100名程度
トヨタ財団50周年記念動画
トヨタ財団50年の歩みと未来
当日のシンポジウムでは、国際助成を中心としたトヨタ財団の50年の活動を
オープニングムービーとしてまとめた動画を公開しました。
YouTubeチャンネルにも掲載しましたので、ぜひご覧ください。
英語版も後日公開予定です。
トヨタ財団50周年記念シンポジウム 開催報告
日本-ASEANの相互協力のこれまでとこれから
2024年10月25日、東京都港区にある国際文化会館にて、「日本-ASEANの相互協力のこれまでとこれから」をテーマとしたトヨタ財団50周年記念シンポジウムを開催しました。
1974年の設立以来、トヨタ財団は国際的な助成活動を行ってきました。本シンポジウムは、現在まで継続的に助成の対象地域としている東南アジア諸国と日本の長期的な協力関係を振り返りつつ、未来に向けた新たな可能性を探ることを目的として行われました。
本シンポジウムには、主に2010年代以降に、東南アジアと関わるプロジェクトを実施した国内外の助成対象者を招待し、約100名の参加を得ました。シンポジウムはマクロな視点、ミクロな視点、議論の振り返りと総括、という3つのセッションで構成され、さまざまな専門と経験を持つ研究者やソーシャルセクター関係者が集まるなかで、活発な議論と意見交換がなされました。
マクロな視点:日本と東南アジアの変化
最初のセッション「変化する国際情勢のなかでの日本・ASEAN関係」では、京都大学公共政策大学院教授であり、トヨタ財団研究助成プログラム選考委員長である中西寛氏がモデレーターを務め、チュラロンコーン大学タイ安全保障国際問題研究所長のポンピスット・ブッサバーラット氏と神戸市外国語大学准教授の木場紗綾氏が登壇しました。
中西氏は、日本とASEANの対話が1973年から続き、トヨタ財団の歴史もASEANと共に歩んできたと述べ、パンデミックや紛争を背景に、今が転機を迎えていると論じました。
ポンピスット氏は、ASEAN諸国と日本の信頼関係の歴史とデータを示し、インド太平洋地域の地政学的リスクや米中対立がASEANの立場に与える影響を分析。福田ドクトリンを基にした信頼や経済協力の役割が重要と述べ、日本が経済・安全保障の両面でASEANにとって欠かせないパートナーであることを指摘しました。
木場氏は自身の東南アジア研究の経験から、ASEAN共通の安全保障課題や、民主主義の後退・権威主義の台頭への対応、若手研究者の関心分野に触れました。東南アジアの枠組みを超えてアジア全体で対応できる課題や、米中対立に対する異なる認識に配慮する重要性が議論されました。
質疑応答では、モデレーターの中西氏や参加者から積極的な質問や意見が寄せられました。ASEANの安全保障政策、インドや米国との関係、台湾有事への対応についての質問に対してポンピスット氏は、南シナ海や台湾有事に対してASEANは中国と対立せず、現状維持を優先する姿勢があるとの考えを示しました。また、インドは中国の影響力に対抗するためASEANとの連携を強化し、将来の経済的・政治的影響力の向上が期待されていると述べました。
木場氏は、ASEANにおいて安全保障(security)が含む範囲は広いことから、軍事戦略や国軍改革といったデリケートな議論だけでなく、災害救援やジェンダー平等など柔らかいテーマが協力のエントリー・ポイントになると強調しました。
最後に、ポンピスット氏は米中の対立に関連して、ASEANが独自の枠組みで一定の役割を果たすなか、日本は第三の選択肢として重要な位置を占め、慎重な立場が求められると指摘し、木場氏は、さまざまな実務家・研究者や若い世代にオープンな議論の場を提供する必要があると述べました。
ミクロな視点:基盤になるのはお互いの信頼
午後のセッション2「日本・ASEAN諸国の協働による市民社会の推進」では、市民社会のエンパワーメントに焦点を当て、東京大学東洋文化研究所教授であり、トヨタ財団国際助成プログラム選考委員長の園田茂人氏がモデレーターを務めました。メコン・マイグレーション・ネットワークの針間礼子氏、明治大学の藤本穣彦氏、ルジャック都市研究センターのエリサ・スタヌジャジャ氏が登壇し、トヨタ財団の助成を得て実施したプロジェクトを通じて得られた知見について触れました。
針間氏は、メコン地域の市民社会組織(CSO)による移民労働者の権利擁護活動について語り、ASEAN諸国間の移民問題への協力や政策整備の重要性を具体的な自身の事例とともに紹介しました。
藤本氏は、小規模水力発電を通じた地域のエネルギー開発事例を紹介し、住民主導のエネルギーや福祉への取り組みが地域の変革に与える影響を強調しました。
エリサ氏の発表は、インドネシアにおける持続可能な都市開発の取り組みや、地域コミュニティの参加による都市環境の改善についてのものでした。市民社会のエンパワーメントにどのように寄与するか、社会へのインパクトに触れ、特に、自由な住民参加の重要性を訴えました。
セッション全体を通じ、具体的なプロジェクト紹介や信頼関係構築への取り組みが確認され、市民社会のエンパワーメントが地域の持続可能な発展にどのように寄与するのかが議論されました。質疑応答では、国際的なプロジェクトの成功の秘訣やパートナーとの信頼関係の構築について、各々の経験の意見交換がされました。
針間氏は、各団体の立場によって意見が異なる中での信頼関係の維持を強調し、歴史的に築かれた関係が若者に引き継がれていることを述べました。
藤本氏は、プロジェクトの成功とそれに伴う資金運用の課題について触れ、マネタイズがうまく行くことで持続可能性を高める反面、コミュニティの分断につながる可能性を指摘しました。
エリサ氏は、日本、ドイツ、アメリカのパートナーシップの違いに言及し、日本の一貫性が長期的なコラボレーションに寄与していると評価しました。また、アートを用いた対話促進の取り組み事例を紹介し、コミュニティとの信頼関係構築のために、お互いを尊重すること、自然体でいることの重要性を説きました。
最後に、園田氏が市民社会の重要性について述べ、プロジェクトを通じた信頼構築の事例をビジネスシーンでも発信していくことが大切という意見を示しました。
次の50年に向けた信頼関係の構築
最後のセッション3「日本 ・ASEAN 関係の展望:民間財団への期待」では、特に民間財団が今後果たすべき役割について総括的な議論が行われました。このセッションはトヨタ財団理事長の羽田正がモデレーターを務めました。中西氏と園田氏が各々モデレーターを務めたセッションを振り返り、国際交流基金理事の佐藤百合氏、笹川平和財団平和構築グループ長の中山万帆氏が、日本とASEANの長期的な協力関係を深化させるためのアプローチや、民間財団の役割についてコメントを述べました。
佐藤氏は、日本とASEAN諸国との文化交流や学術的な連携が将来の協力関係における基盤であり、日本とASEANが共通の課題に取り組むだけでなく、他の地域も巻き込む姿勢が必要であると述べ、日本に対する信頼の蓄積を次の50年に向けてどう活かせるかが鍵であると強調しました。
中山氏は、過去数十年の日-ASEAN 協働の成功事例を踏まえながら、日本だからこそ協働が可能な分野やアプローチを丁寧に特定する必要性に触れつつ、民間財団にはこれらの課題に対して積極的に支援を行う、協働の旗振り役となってほしいと期待を示しました。また、発展しつつある ASEAN 域内の財団を含めプログラムオフィサー間での知見・経験の共有も重要であると述べました。
中西氏は、研究者の中には徐々に変化が生まれているものの、日本の政治や行政においては、進んでいる日本とそれに続くアジア諸国という概念がいまだに残っており、社会全体への波及が遅れているとの見解を示しました。
園田氏は、これまでの日本とASEANとの信頼関係をどのように持続させるかが課題であるとし、ASEANをプラットフォームとした多様なステークホルダーの巻き込みの重要性を挙げました。
羽田理事長は、日本の若者が海外、とりわけ東南アジアへの関心を持つ機会が減少していることを懸念し、交流を通じて国際的視野を広げる重要性を指摘しました。そして、佐藤氏より、財団プログラムオフィサー同士の連携の場の創出、成功と失敗の経験を共有することが有益であると提案がありました。それに対し、トヨタ財団プログラムオフィサーの利根は、これまでの長い助成活動で培ってきた人脈の上に今の活動があり、その信頼関係の継承が重要との考えを述べました。
意見交換を通じて、日本とASEAN諸国の協力には、信頼関係と民間の役割が不可欠であることが述べられ、変化する国際的な潮流を掴み、その枠組みを活用すること、そして異なる主体の連携を進めることが、これからの日本と国際社会にとって重要なポイントであることが共有されました。
閉会の挨拶では、羽田理事長から、トヨタ財団が今後も日本とASEAN諸国との協力関係を支援し、地域社会の発展に貢献していくという強い意志が示されました。
人のつながりの再確認と新たな出会い
ランチやコーヒーブレイク、夕食レセプションでは、参加者同士の積極的な交流が図られ、繋がりがさらに深まりました。また、志を共有する助成プロジェクト関係者同士の新たな出会いも生まれ、シンポジウムが今後の協力関係を深める一助となったことが確認されました。
このシンポジウムは、日本とASEANの関係を深く理解し、今後の発展のために民間財団が果たすべき役割を再確認する貴重な機会となりました。トヨタ財団は今後も世の中の情勢を見極め、先を見据えながら、国際的な観点から価値のある多様なアプローチでの助成活動を継続していきます。
トヨタ財団50周年記念シンポジウムの記録