国内助成プログラム
国内助成プログラム「一般枠」の選考について
選考委員長 萩原なつ子
「未来の担い手と創造する持続可能なコミュニティ― 地域に開かれた仕事づくりを通じて―」
未来の担い手と創造する持続可能なコミュニティ― 地域に開かれた仕事づくりを通じて―」
国内助成プログラムは、昨年度に引き続き「未来の担い手と創造する持続可能なコミュニティ― 地域に開かれた仕事づくりを通じて ―」というテーマのもと公募を行いました。
本プログラムでは、加速度的に高齢化が進展する中、地域に暮らす一人一人が地域課題の担い手として主体的に活動できる「仕事」づくりが重要であるという考えのもと、若い世代とともに地域課題の解決につながる仕事づくりに取り組む事業や、そうした仕事の担い手となる人材を育てるプロジェクトを対象としています。
また、本年度は、事業に対して助成を行う「そだてる助成」(昨年度名称「活動助成」より変更)に加えて、地域課題の解決のための調査および事業戦略立案など、本格的に事業を実施する前の段階に対して助成を行う「しらべる助成」の枠組みを新設しました。課題解決の実現のためには、課題の構造、地域のニーズの把握が必要であるという考えのもと設定したものです。
応募状況
本年度は、9月1日から9月30日まで公募を実施し、「しらべる助成」199件、「そだてる助成」240件(2015年度「活動助成」280件)の応募がありました。
プロジェクト責任者の平均年齢は、「そだてる助成」45.3歳、「しらべる助成」45.9歳であり、1/3以上が20~30代からの応募と、プログラムの趣旨の一つである「未来の担い手」である若い世代から多数の応募をいただきました。また、昨年度より応募金額の上限を撤廃していますが、応募金額の平均は、そだてる助成で822万円/2年間と、昨年度の活動助成の応募金額平均599万円と比較するとかなり金額が大きくなっています。
選考の結果
選考委員会では、応募の趣旨と募集要項で設定した選考基準に基づき、6名の委員による6時間にわたる議論が展開されました。「しらべる助成」では、①調査の仮説が明確であるか、②調査後に実施しようとする事業がイメージできているかという点が特に大きな論点となりました。
「そだてる助成」では、①解決したい地域課題に対して適切な戦略が計画できているか、②助成期間終了後の運営について計画されているかという点が重視されました。
その結果、国内助成プログラムとして「しらべる助成」16件・1,565万円、「そだてる助成」10件・6,955万円を助成対象候補として決定いたしました。
助成対象候補となったプロジェクトについていくつか特徴的なものをここに紹介します。
「しらべる助成」
D16-LR-0066 中村 正(NPO法人きょうとNPOセンター 京都府)
「福祉現場で企業人が活躍 ―副業規制緩和による新たな就労機会の創出」
「福祉職」は、慢性的に人材が不足しており、その抜本的な改革と改善のために京都府内の中小企業を対象として企業人が福祉現場で活躍するための仕組みづくりをめざす事業の実施に向けた調査。京都府内の中小企業を対象に事業実施に向けたニーズと課題を明らかにすることを目的としています。
福祉人材確保という全国的に大きな課題の解決策となり得る事業に向けての調査である点が評価されました。事業を実施するためには、実行可能な企業の存在が不可欠なため、調査を通じての関係構築や中小企業の抱える課題への対応策の提示も期待したいという意見が出されていました。
「そだてる助成」
D16-L-0019 守随 智子(困難を抱える若者と殺処分ゼロ推進委員会 愛知県名古屋市・西尾市)
「若者と動物の共生事業 ―困難を抱える若者と目指す『殺処分ゼロ』―」
愛知県内で再非行防止に取り組むNPO、ニート・ひきこもり・児童養護施設出身者の自立支援に取り組むNPO、殺処分ゼロの推進に取り組むNPOの三者が協働し、困難を抱える若者が、保護された犬を譲渡先の家庭に移譲するまでの間のしつけの担い手となる事業。殺処分ゼロ、若者の自立支援という二つの課題の解決を目的としています。二つの深刻な課題を組み合わせて解決に挑む点、事業実施とあわせて犬を飼育することが社会的自立へどのように貢献するか効果測定にも取り組む点などが評価されました。
最後に全体を通しての意見交換を行いました。「戦略は弱いが、現場における実行力、巻き込み力が高く成果をあげる人もいる。書類では読み解けない部分をどう評価し、応援していくか」、「しらべる助成について、調査仮説が弱い事業が多い。調査は仮説が重要。適切な支援が必要である」、「調査も事業も必ず地域内やステークホルダーに向けての報告会を開催してほしい」といった意見があげられていました。
最後に
昨年の5月4日に総務省統計局から発表された「人口推計」において、15歳以下の子どもの数が1982年以来連続して減少していることが発表され、改めて日本の高齢社会の現状が浮き彫りにされました。加えて「高齢者の高齢化」も日本社会の抱える課題として注目を集め、この課題の解決に向けて、すでに各方面でさまざまな試みが始まっています。高齢者が元気に活躍できる「健康長寿社会」の構築もそのひとつです。健康長寿社会の構築にとって、本プログラムのテーマである「未来の担い手と創造する持続可能なコミュニティ―地域に開かれた仕事づくりを通じて―」はまさに必要不可欠な取り組みとなるでしょう。
「そだてる助成」には嬉しいことに今年は昨年よりもさらに若手の方々を主体とした団体による応募が増え、未来の担い手が良い意味での現状に対する危機意識をもち、地域づくりへの「本気」が垣間見えるような提案が全国から寄せられました。また今年新たに加えた、地域の課題を発見し、そこから事業に結びつけるための「調査・研究」に助成をするという「しらべる助成」は、トヨタ財団が初めて市民の研究活動に助成したプログラム「市民研究コンクール“身近な環境をみつめよう”」(1979~1997年)がお手本となっています。地域の課題解決には、まずは地域の事を知る、見る、聞く、調べるという原点を大事にしたいという思いが込められています。こちらにもたくさんの応募をいただきました。
この分野において高い専門性を有し、個性豊かな3名の新しい選考委員を迎えた初めての選考委員会は、予定時間をオーバーしての「白熱教室」さながらの、活発で有意義な議論がなされました。選考委員全員が納得できる選考ができたのではないかと自負しています。助成対象となられた助成団体のみなさんには、それぞれの活動地域において、地域課題の解決に向けて、頑張っていただきたいと思います。
また、助成対象とならなかったプロジェクトの中にも「ぜひ現地に行ってみたいね」「話を聞いてみたいね」という声もあがりました。「地域の事は人任せにはできない。誰がやるの? 自分でしょう!」という気持ちを大切に、調査・研究活動や事業を継続的に展開していただくことを期待しています。再度チャレンジを心からお待ちしております。