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選考委員長 中村 安秀

1. 「継ぐ、つくる、つながる ―共に拓く地域の未来」

東日本大震災から1年半以上が経過し、現在もさまざまな支援活動が各地でおこなわれている。多くの地域にまたがる大規模な災害からの復興には、行政による支援のみならず、長期的な視点にもとづいた多方面からの重層的な取り組みが不可欠である。

 2012年度トヨタ財団では、国内助成プログラム(旧・地域社会プログラム)において、「人がつながり、地域が動く ―共に拓く私たちの未来」をテーマとして、東日本大震災対応「特定課題」枠を設け、震災からの復興をめざす意欲的な活動を助成することを決定した。

 2012年度は、被災地を取り巻く流動的な状況に鑑み、年2回(4月と8月)公募を行うこととした。「活動助成」として、東日本大震災の被災地域(青森、岩手、宮城、福島、茨城、千葉などの各県)または避難地域に居住地のある人びとが主体となり、生活再建および地域コミュニティ再生に向けた活動を助成する。外部からの支援団体が中心となる活動は対象とせず、当該地域の住民主体で多様なメンバーを巻き込んだものであれば、法人格の有無や実績は問わないことにした。なお、実施期間は1年以内と限定した。

 また、「地域間連携助成」として、被災地域の住民や団体が、他地域の住民や団体と連携し課題解決を目指す取り組み、住民同士の連携により地域間の協力関係や社会的波及効果が期待される取り組みを支援することとした。

 これらの活動を通じて得られた成果が、地域への想いや誇りを継ぎ、くらしの基盤づくりや新たな地域社会の創造の礎となり、それらの成果が人から人へ、そして地域から地域へとつながることを期待して、公募を開始した。

2. 東日本大震災対応「特定課題」

 東日本大震災対応「特定課題」の「活動助成」および「地域間連携助成」の募集期間は2012年8月1日から9月12日までとし、Web応募および郵送により企画書の受付けを行った。応募件数は「活動助成」121件、「地域間連携助成」24件であった。選考については、5名の識者からなる選考委員会において長時間にわたり慎重に討議を重ねた。
 ここでは、選考委員から高い評価を得たプロジェクトのいくつかを紹介したい。

「活動助成」
(1)警戒区域で生き延びた牛たちと畜産農家の戦い(700日の記録 -牛と共に生きる)
 半杭 一成(懸の森みどりファーム)
 福島第一原発事故を受け、20km圏内の畜産農家の住民は避難した。しかし、家畜は移動できなかった。畜産農家は2ヶ所の畜舎に牛を集め飼育を開始し、大学などと連携しながら、被爆した牛の生体経過を見守っている。
 被爆地における生体飼育の経過データは、私たちが後世に残すべきアーカイブの一つである(人類が二度と手にしてほしくないという思いとともに)。書物は、記録され保存されているかぎり、いつかは蘇る可能性を秘めている。ぜひ、シンポジウムなどを通じて詳細な記録を報告書としてまとめ、広く世界に発信してほしい。

(2)市民の交流・憩いの場となる竹駒地区商業拠点づくりプロジェクト
 橋詰 真司(陸前高田未来商店街)
 陸前高田市の仮設商店街において、市民を対象としたマーケティング調査を実施し、商店主を中心にワークショップを行い、市民が中心となった交流空間をつくっていきたいという思いがあふれるプロジェクトである。単なるイベント企画ではなく、長期的な展望をもった市民参加型の新しい街づくりの方法論を模索している。
 恒久的な市街地の復興計画の実施には、数年以上の期間を要するといわれている。確かに、仮設商店街は過渡的な存在である。しかし、時間的な区切りがあっても、現時点で市民が集うことのできる貴重な空間である。住民の自主的な参加を得て、最良の場を提供していきたいという、30歳代を中心としたメンバーの心意気に大いに期待したい。

「地域間連携助成」
(3)大震災で親を失った子どもたちの育ちを支える東北・福岡連携事業
 飯沼 一宇(プロジェクト「二都ものがたり」)
 親を失った子どもたちの健全な成長を図るためには、家庭擁護と長期にわたる専門的な支援が必要である。被災した遺児を養育する親族里親の支援、受け皿を広げる里親の普及など、広く市民社会の理解と支援が求められている。
 すでに、福岡で実践されている「子どもの村福岡」を見学して、「ぜひ東北にも実現を」という熱い思いから発したプロジェクト。福岡では、すでに、市民と企業の支援、行政のバックアップを受けて、社会的擁護が必要な子どもに対する支援が実践されている。仙台と福岡の人材から構成されるチームが協働して、親を失った子どもたちを支える仕組みづくりにつながることを期待したい。まさに、「地域間連携」にふさわしいプロジェクトである。

 ここであげたプロジェクト以外にも、多くの魅力的なプロジェクトが提案された。
 2012年10月15日に行われた選考委員会の審議により選ばれた案件について、その支出計画を慎重に再検討した結果、国内助成プログラム・東日本大震災対応「特定課題」の「活動助成」20件(助成金額合計4,350万円)、「地域間連携助成」5件(助成金額合計2,690万円)を助成対象候補として決定した。

3. 垣根のない協働支援体制づくり

 東日本大震災の被災地を訪問すると、県レベルや市町村レベルで、産業復興、雇用、街づくり、教育、保健医療、こころのケアなど、さまざまな会議が頻繁に実施されている。行政や外部支援者だけでなく、地元の市民団体の参加も活発である。震災前から存在していた団体だけでなく、震災後に新しく生まれた地元主体のNPOや企業も少なくない。ただ、そういう被災地の方々の声や思いが、国全体の行政や政治に十分にフィードバックされていないもどかしさを痛感する。
 
 21世紀になって、アジアで初めて新しく生まれた独立国東ティモールでは、垣根を越えた協働による国づくりが行われ、日本も積極的に協力してきた経緯がある。1999年の東ティモール紛争後の緊急人道支援においては、大使館、NGO、国連機関、国際協力機構(JICA)の間で、実践的かつ友好的な協働関係が樹立されていた。NGOと政府開発援助(ODA)の公的な連携システムが不十分な時代にあって、大使館を中心とした日本援助コミュニティが形成され、東ティモールの現場の声を外務省本省やJICA本部にフィードバックしていく柔軟な連携が構築されていた。まさに、現場主義が実践されていた。

 日本が貴重な税金を使っていままで海外で行ってきた国際緊急人道支援の経験や知恵を、もっと積極的に東日本大震災の復興に活用すべきではないだろうか。国際社会が長年の経験のなかで培ってきた援助の協働ネットワークの経験を活かして、東日本大震災からの復興においても、行政、市民、民間企業、NPO/NGOなどの垣根を越えた協働支援体制が構築されることを望みたい。そして、被災地の住民が主体となり多様なメンバーを巻き込んだ助成対象プロジェクトが地域における核となって、垣根のない協働体制が広がっていくことを期待したい。

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