HOME  >  2018年以前の助成情報  >  国内助成プログラム  >  2012年度国内助成プログラム  >  2012年度国内助成プログラム(一般枠) 選後評

選考委員長 中村 安秀

1. 「人がつながり、地域が動く ―共に拓く地域の未来」

国内助成プログラム(旧・地域社会プログラム)では、日本国内における地域の再生・構築に向け、地域が直面する課題の解決をめざす、実践的な活動を支援してきた。

2012年度は、東日本大震災対応「特定課題」枠を設け、年2回の公募を行い、東日本大震災の被災地域における生活再建および地域コミュニティ再生に向けた活動や、被災地域の住民や団体が他地域の住民や団体と連携し課題解決をめざす取り組みを積極的に助成してきた。

今回は、被災地の復興をテーマとした「特定課題」ではなく、「一般枠」として「活動助成」と「地域間連携助成」というカテゴリーを設け、公募テーマを「人がつながり、地域が動く ―共に拓く地域の未来」と設定した。多様な個人、団体、組織がともに連携し、地域にくらす人びとの主体性とつながりを育み、課題の解決に向けて真正面から取り組む、持続的かつ意欲的なプロジェクトを広く公募した。「地域間連携助成」では、共通の課題を有している複数の地域が互いにノウハウを共有し、地域の枠を超えて課題解決に取り組む活動を対象としたいと考えた。

これらの活動を通じて得られた成果が、地域への想いや誇りを継ぎ、くらしの基盤づくりや新たな地域社会の創造の礎となり、それらの成果が人から人へとつながり、その結果、地域が動きだしてくれることを期待して、公募を開始した。

2. 国内助成プログラム「一般枠」 ―「活動助成」および「地域間連携助成」

国内助成プログラム「一般枠」の、「活動助成」と「地域間連携助成」の公募期間は2012年10月9日から11月19日まで、Webおよび郵送により企画書の受付を行った。

応募件数は「活動助成」433件、「地域間連携助成」75件にのぼった。東日本大震災対応「特定課題」の公募のあとを受け、2012年度はトヨタ財団国内助成プログラムとして3回目の公募であったにもかかわらず、多数の応募をいただいたことは、助成に関する高い関心を示していると考えられた。

魅力的で実践的なプロジェクトが多く、選考については5名の識者からなる選考委員会において長時間にわたり慎重に討議を重ねた。ここでは、選考委員から高い評価を得たプロジェクトのいくつかを紹介したい。

「活動助成」

地域で守る妊婦の安心プロジェクト ―地域の助産師・保健師の挑戦
野中 涼子(地域で守る妊婦の安心プロジェクトチーム:鹿児島)
鹿児島県徳之島は、合計特殊出生率が日本で最も高い子宝の島として知られている。しかし、分娩できる施設が減少し、安心して島で出産できる環境は危機的な状況になっている。地域の助産師・保健師が中心になって、離島で妊婦さんが安心して暮らせる地域づくりをめざす活動である。NPO法人「親子ネットワークがじゅまるの家」の代表である助産師を、モロッコで青年海外協力隊の経験をもつ助産師がサポートする。本来は行政が実施すべき事業であるとも考えられるが、文化のなかでお産を考えていきたいという市民や民間団体が先鞭をつけることにより、将来は地域の事業として定着することを期待したい。

 
自分事防災と、地域異世代交流で防災に強い町づくり防災ピクニックプロジェクト
ロー 紀子(チーム・異世代交流で防災に強い川崎:神奈川)
都市型ベットタウンでは、防災活動の重要性に異論を唱える人はないが、どこか他人事でなかなか普及が進まないという。昼食の代わりに非常食を試食したり、避難経路をみんなで歩いたりする「防災ピクニック」の企画は魅力的である。親子で楽しく取り組めるという切り口からはじめ、シニア世代には運営面での参画をお願いし、平常時にもつながる世代間の協働をひろげていきたいという。防災を行政任せにしないで、自分事として考えるという視点は重要である。ぜひ活動を成功させて他の地域にも広めてほしい。

「地域間連携助成」

中国地方の中山間地域において、買い物行動を軸に、あらゆる境界の壁を超える生活のしくみづくりプロジェクト
石原 達也(中国5県の支援と現場の組織による境界の壁を超える生活支援連携チーム)
中国山地は高原地形が広がり平地が少なく、日本で最も高齢化・過疎化が進む地域の一つである。地域福祉サービスや救急車などは行政区画の境界が、大きな壁になっている。岡山・広島・山口・島根・鳥取という中国地方5県のNPOセンターなどの中間支援組織が培ってきた情報交換の蓄積を活用して円卓会議を開く。仕組みづくりのために、「買い物を届ける」あるいは「見守りなどの福祉支援」という高齢者の生活の視点からの具体的な成果をめざしている。法的規制などの確認や事務手続きの簡素化などの行政への働きかけだけでなく、いま過疎地が抱えている生活課題を解決するためのモデル事業となることを期待したい。
 
ここであげたプロジェクト以外にも、多くの魅力的なプロジェクトが提案された。
2013年1月31日に行われた選考委員会の審議により選ばれた案件について、その支出計画を慎重に再検討した結果、国内助成プログラム「活動助成」18件(助成金額合計6,000万円)、「地域間連携助成」5件(助成金額合計2,000万円)を助成対象候補として決定した。

3.つながることで地域が動き、やがてグローバルに広がっていく

提案されたプロジェクトの企画書を読みながら、2012年11月にケニアで開催された「第8回母子手帳国際会議」を思い出していた。

すべては、2008年にミリアム・ウェレ博士が日本政府から第1回野口英世アフリカ賞を受賞したことから始まった。ウェレ博士は、ナイロビ大学医学部長や国連人口基金エチオピア事務所所長などを歴任し、ウジマ財団を設立しコミュニティや若者を育成することで地域全体の向上を図り、アフリカ大陸の人々にとって希望の源泉であり続けてきた女性である。日本とのつながりができたことが契機となって、日本の母子手帳を使う現場を見ることができた。彼女は、「母子手帳はミラクルである」といい、以前に母子手帳をテーマにトヨタ財団の研究助成を受けた日本人などとの交流を深めていった。

その後、ケニア公衆衛生省はケニア版母子手帳を開発し、全国普及に乗り出した。そして、昨年11月には、アフリカ大陸で最初の母子手帳国際会議がナイロビで開催され、25か国から300名の政府機関、国際機関、NGO、研究者などが集まった。アフリカの母親と子どもたちの健康のために、母子手帳を活用して協働していくネットワークが確立し、具体的な行動宣言が作られた。

人と人が国境を越えてつながり、母子手帳という共通のツールを使うことで、協働の物語を紡ぎだすことができた。ウェレ博士たちは、アフリカ大陸で母子手帳が普及し母と子どもの健康が向上することをめざして、来年もアフリカで国際会議を行う予定だという。
 
今回、国内助成を受けられた方々においても、人と人がつながることによって地域が動きはじめ、点から線へ、線から面へと活動が広がるなかで、グローバルな地球規模での交流がはじまることを期待したい。

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