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JOINT33号 インタビュー1「栄養循環を作るという考えが、世の中を良くすることにつながる」

JOINT33号+インタビュー+WEB特別版1たいら由以子

聞き手:比田井純也(プログラムオフィサー)

[助成対象者]
たいら由以子
[プロフィール]
特定非営利活動法人 循環生活研究所理事。 2016年度国内助成プログラム[そだてる助成]「ローカルフードサイクリング ―生ごみを野菜にかえるサービスの構築」助成対象者

※本ページの内容は広報誌『JOINT』に載せきれなかった情報を追加した拡大版です。

栄養循環を作るという考えが、世の中を良くすることにつながる

コンポストと野菜作りの2つの柱
──循環生活研究所の活動について教えてください。
地域内で暮らしに必要なものを循環させることを目的にスタートしました。具体的には、生ごみを堆肥にしてそれで野菜を作って食べるというサイクルを、半径2キロ単位で全国に作りたいというのが私たちの願いです。

──先ほど見せていただいたコミュニティガーデンが主な活動場所で、他には天神でもされているということですが、少しずつ活動の拠点や場所が広がっているのでしょうか。
今は大きく分けて3つのプロジェクトがあります。今日ご覧いただいたのは一般住宅タイプです。高齢者がたくさん住んでいる美和台という所では、見守りを兼ねたコンポストをしていて、天神ではビルの屋上を使って市街地・オフィス街でのサイクルをしています。この三種類を行えば、だいたいどこの場所でも応用できるかなと思って検証しているところです。

──オーガニックで健康的に野菜を食べられるということであれば、ごみ問題にはあまり関心がない人でも手軽に始められるコンポストを、ちょっとやってみようかなというのはあるかもしれませんね。前回活動を拝見した時に、これなら僕にもできるかもしれないと思いました。やはりハードルが高いととっつきにくいと思いますが、循環生活研究所の活動はその部分のハードルを低くしてくれているような感じがします。
環境とか自然とか言っているわりには、私自身も都会が好きなので、都会暮らしをしている人が取り組めることじゃないと広がらないと思っています。

私には、父が病気になった時に食事療法で延命したという大きなきっかけがあったのですが、その時に私が気づいたのが、今の暮らしは昔と違っていて複雑化しているということ。じゃあ何ができるのかというときに、都会の中で利用できる、楽しくて誰でも参加できる仕組みじゃないと無理だと思い、手軽さとベランダでできるというところにこだわって、ダンボールのコンポストを開発しました。そこからもう一歩、今回ローカル・フード・サイクリング(以下、LFC)コンポストを開発したのですが、それプラス野菜作りという2つを柱に事業化しています。

一般住宅タイプのコミュニティガーデン
一般住宅タイプのコミュニティガーデン

──トヨタ財団の助成金では具体的にどういった事業ができましたか。
今日見ていただいた照葉地区ですが、これ以上やったらお金がなくて潰れると思ったときに助成金を受けることができて、コンポスト回収用の自転車を購入したり、看板を立てたり、人に発信するツールに使わせていただきました。

オシャレじゃないとみんなが参加してくれないので、オシャレで動くもの、自転車というツールで街を駆け抜けるところをトヨタ財団にお手伝いいただいたんです。それまでそこになかなかお金が使えなかったのですが、思い切ってそういったものに活用させてもらったことで、すごくみんな興味を示してくれるようになりました。あのオシャレな活動は何? あれをやりたいということで興味を持ってくださる方ができて、プラスエコだともっといいじゃないとか、子どもにいいならもっといいとか、それで会員になってくださいました。

生ごみはちょっとって言ってた方も、一週間に一回中身を交換してくれるならいいかなと言ってくださったりして、そういう方たちが1年後に畑を借りてくれたりするんです。きっかけを与えればおのおの成長していくので、きっかけづくりと知ってもらうということが大事ですね。それから今回はデザインに投資したという点もあります。財団からの助成を受けている間に、とても大きくなったという感覚があります。

──トヨタ財団を知ったきっかけは何ですか。
NPOとして以前から知ってはいました。でも結構ハードルが高そうなイメージがあって、ここぞという時に応募しようと決めていたんですよね。私たちとしても今助成金を取るしかないというくらい切羽詰っていたので、一生懸命申請の企画書を書きました。

──助成金の使い方で、もう少しこうだったらもっとよかったなというところがあれば教えてください。
質問の意図とは違うと思いますが、私たちはたまたま2年間のコースに応募したんですけれども、調べるところから入ればよかったかなと思いました。一年目は県の事業で、何人参加したら今の焼却システムの費用と同じになるかというような、全部数値化する計算をしました。調べながら来年どうするという時にその次のステップのために、2年間助成を受けました。

──使い勝手はいかがでしたか。
先に振り込みをしていただけるのがとてもありがたかったです。普通は立て替えなので。それからトヨタNPOカレッジ『カイケツ』のような講座があって、他の団体とも交流させていただいたり、勉強の場をいただいたり。あとはPOの方に相談しやすかったです。卒業した後に提言助成もあるので、また私たちもチャレンジしたいと思っているのですが、そういうステップがちゃんと準備してあるところがすごく考えられていると思いました。私たちはパイオニアなのでどうしても提言などが必要になってきます。だから調べる、広げる、提言するという流れになっているのが素晴らしいと思います。私たちの成長ともちょうどかみ合ったというのもあったかもしれません。

手前が助成金で購入したコンポスト回収用自転車
手前が助成金で購入したコンポスト回収用自転車

──コンポストをやり始めたのはお父様のことがきっかけということですが。
あの時はコンポストだけではなくて、環境にいいものを検討してあらゆるものを試しました。いろいろ広げて絞ったという感じです。

ここに絵があるんですけれども、左側が昔、右側が今を表しています。これが私の基点です。どうして身近で安全な野菜が手に入らないのかということを考えた時に、このイメージが思い浮かびました。まず今と昔は土地が違う。雨が降った時にたとえば自然って無毒化するとか浄化する力があるじゃないですか。今はまず畑がありませんよね。そして山はあるけれども麓が違う、針葉樹になっていて堆肥になりにくいので土砂崩れしやすいです。人が来なくて荒れやすくて獣害がある。昔はもっと循環して木は燃料としても間引きしていましたし、人の手が入って、そして畑があったので水が溜まります。生き物もたくさんいました。身近に家畜もいたので、糞や生ごみも循環させて自然の中にリサイクルされていましたし、人間が作ったサイクルもたくさんありました。雨が降った時には窒素、リン、カリウム、鉄分などの栄養素が海のほうまで流れていって……。

イラスト

それが今は科学的な排水などが入り、栄養素は運べなくなり、土地はやせて生態系も壊れてきている。そういう時に誰かを恨むとか反対運動に走るとかじゃなくて、これをどうにかしたいということしか頭になくて、都市部で誰でも参加できる仕組みというのをずっと探していたんです。それで資源は雨水、人、知恵、お金、生ごみだと思い至り、そのつなぎになるところがコンポストだと思いました。今、リン肥料は全部輸入しているんですけれども、それをコンポストは回収できるんです。

──ちょっとずつ事業の形態が変わってきたということですが。
当会の会長である母は堆肥づくりの名人なのでこれをもっと広めようとなった時に、NPOという手段で彼女を講師として呼んで、ガソリン代をもらうのに本を作ろうとなって、今度はキットを売ろうとなり、そうやって自立してきたという感じなのですが、気づいたら年間400回もの講座になっていました。

私自身も子どもに安全な野菜を食べさせるためにこの活動をしたのに、自分のご飯すらままならなくなって、平成17年度からは人材育成事業に軸足を50%変えました。アジアで教える人を育てる事業を開始して、この6年ぐらいでローカルに戻ってきたという経緯があります。この頃はようやく少し知ってもらえるようになって、地域の方々もここでやっていることを理解してくれるようになりました。うちの事務所って地元の人からすると忙しそうで、人もいっぱい出入りしていて、秘密結社か何かと思われていたみたいです(笑)。ようやく少し知ってもらえるようになって、地域の方々もここでやっていることを理解してくれるようになりました。足元が結局一番最後になってしまいました。ようやくリーダーが全国に200人揃ったのでやっとLFCを始められたという感じです。

ニューヨーク体験、いいものにアンテナを立てる
──視察でニューヨークに行かれましたよね。日本との認識やマインドの違い、環境の違いとかいろいろあると思うのですが。
アメリカが日本よりもエコかというと、本当はそうでもない。ニューヨークでは、みんながやっているように見える仕組みになっているんです。たとえばマルシェで堆肥を売っていて、生ごみを回収しています。そのマルシェが1か月に何十か所もマンハッタンで開催されていて、生ごみを貯めるポイントもあるので、すごいエコに見えるんです。でも、私が行った当初は実はマルシェで売られている野菜と生ごみは全然関係なかったんです。だけど関係あるように見えるし、生ごみを集めていて、エコな人が買い物に来ているように見えたら、これはやった方がいいってなるでしょう。これを真似したかったんですよね。

それにいいものに飛びつくのが早い。オシャレな人っていいものにアンテナが立っているから理解が早い。アーティストって、得てしてそういうのが早いじゃないですか。都会、特にニューヨークは世界中からいろいろな人が集まってきています。西海岸とニューヨークをずっと視察しているんですが、そう感じます。ただ、1年目は感動していたのですが、2、3年目からなんかちょっと自分にも腹が立ってきて。私たちは農耕民族じゃなかったっけみたいな(笑)。日本の方が絶対に土に近いのに、なんで負けてるのと思って、LFCにますます力を入れるようになりました。

──LFCコンポストのバッグはとてもオシャレですが、どなたがデザインされたのですか。
マークは福岡在住のデザイナー梶原道生さんが作ってくださいました。バッグのデザインは、私を中心としたボーダレスジャパンのメンバーです。素材は廃ペットボトルと廃プラスチックです。

コンポスト

──元々デザインがご専門なのですか。
絵描きになりたかった時期はあるんですけれども、大学では栄養学を学びました。仕事は証券会社に就職していました。農業は庭仕事が好きだった母に教えてもらいました。父の病気をきっかけにこういうことを始めましたが、母がずっと庭作業をしていたのを知っていたので、この活動が「土」に行きついたときに母に食いついて、朝から晩まで質問攻めにしていろいろ教えてもらいました。次はコンポストの集団を調べたりもしました。そして母を誘って立ち上げたのが循環生活研究所なのです。虫が好きで、土が好き、観察するのも好きで、コンポストが好きで、知識が豊富な母が身近にいてくれたというのが大きいです。

冊子にまとめたり組織にするのは私の方でやりました。あとは一緒にやってくれている仲間がいますが、みんなそれぞれの理由で何かのアンテナに引っかかって一緒に活動しています。これからは栄養循環をしっかり作りたいという思いがあります。栄養循環を自分起点で作っていけば、それはオフィスだろうと都会だろうといいかなと。それを作るっていう考えが世の中を良くするんじゃないかという感じです。ようやく世の中の方が変わってきて、賞をいただいたりもしましたが……。いや、まだ変わってはいないかな。しかし、変化はしてきていると思います。

これまで海藻や松葉の堆肥などもつくってきました。サーキュラーエコノミーという観点から生ごみだけでなくその中にこういう自然循環を組み込みたいとという頭になるんですよ、絶対。だから小さいサイクルをまず何かしらやってみるということが、すごく重要なんです。そうするとこういう楽しい活動が有意義なことだってわかっていく。

──LFCのお試しコンポストの中に入れてはいけないものはありますか。
貝殻は入れない方がいいと思います。各地に貝塚が残っているぐらいですから。分解が遅いのでお試し用のに入れると詰まってしまい、においの原因にもなり、虫が入りやすくなります。今日見ていただいた木枠コンポストなら入れても大丈夫なのですが、時間はかかります。

──食べ残したものとかでもいいんですか。調理済みで塩分が入っているとか。
自分が食べたくないほど塩辛いものは、ちょっと水で洗い流した方がいいかもしれませんが、調理済みのものでも大丈夫です。猫の餌の食べ残しでも大丈夫ですよ。ものによってカロリーがあるんだなっていうのがわかります。微生物が活発に動いて温度が上がるんです。たとえばマスクメロンを入れると、果肉の側から分解されていって最後に網の部分だけ残ったりするのが見えます。甘くて食べやすい部分からなくなっていきます。その他、添加物の多い食べ物を入れると、分解が遅いのが見えるので面白いですよ。

玉ねぎみたいに長持ちする野菜の皮も分解が遅いです。逆にキャベツは早いです。そういった意味でも、すごく勉強になるんですよ。主婦力が上がります。お子さんの教育にもいいと思います。虫が分解してくれるよって言うと、子どもが喜んで一緒に生ごみを入れてくれます。大人には理科の実験を思い出してもらえるんじゃないかな。

チャレンジしてみるときに引っかかるとしたら、おそらく虫の問題はあると思います。都会の人って虫との接点がありませんものね。虫の存在の意味を考えるきっかけがないというか。でも虫がいないと人間って2か月ぐらいしか生きていけないんですよ。虫による受粉作業がなければ野菜ができなくなります。ビニール袋に入れてゴミ回収してもらうだけだと、そういうことへ考えが向かないんですよね。

そして虫を見るとシュッとスプレーして殺してしまいますが、その物質って人間にとっても危ないですからね。野菜とかにかけてしまうと雨が降ってそれが土に入って飲み水に還元されてしまいます。そういう循環について思いをはせるようになります。コンポストにはそんな力があります。

また、生ごみが大量に捨てられていますが、植物もたくさん水を使って育っているので水を捨てているのと同じだというのもわかるようになります。植物以外でも同様です。たとえば牛肉だと牛は水をたくさん飲んで育ち輸入されてきているので水を捨てているのと同じとか。現代人も自然ともっと繋がっていくべきなのですが、生活スタイルが変わって昔の暮らしがわからないのは当然のながれ。コンポストでゴミを減量しながら自然を体験、体感してもらえるのはいいことだと思います。

それぞれの地域で堆肥がまわる仕組みを
──生ごみが肥料になるというのはもちろん聞いたことはありますが、何がどうなってそうなるのかは実際よくわかりません。
微生物が発生して生ごみを食べてくれるのを見ると、たまに「ごめんね」っていう気持ちになるんですよ。私が遊んでいる間にこんなに働いてたのねと。だいたい寝ている間に温度がぐっと上がったりして、生命活動ってすごいなと実感します。食べ残しを入れておいたら温度が50度ぐらいに上がったりするんですよ。微生物って寿命が20〜30分から2時間ぐらいなんです。どんどん橋渡しをして、その温度の中で微生物が入れ替わってきているので、温度が低い時と高い時の微生物の種類も違います。世代交代をしながら死骸に栄養が残って、その栄養素が野菜にいきます。

微生物の死骸が栄養になって残っていくという、生命活動の集結したものがコンポストです。化学肥料と堆肥は何が違うかというと、植物に科学的に調合した薬で栄養を与えているのが化学肥料、コンポストは手づくりの料理を食べさせるイメージ。吸収率もいいし、何を食べて大きくなったかがわかるっていうのが全然違いますよね。だから野菜が美味しいんです。よく、「これを入れても大丈夫ですか」って聞かれるんですけれど、本当はそれを食べているあなたは大丈夫ですかっていうことなんです。だから、だんだんみんな考えだします。食べて捨てるものをコンポストに入れるだけでいい。

コンポストに偏見を持っている人もいます。虫がわくとか、においがするとか、あるいは自然が好きな人がするものとか、私とは関係ないと思っている人が多い。なので、こういうおしゃれなキットで開拓しようと思っています。微生物とのほっこりする出会いをしないともったいないと思いますよ。

──たしかに堆肥になった土の使い道が都会だとなかなか難しいのと、虫とにおいはどうしても気になりますね。
なので、コンポストを回収する事業をしたいんですよね。マルシェが大体2キロ範囲であるので、マルシェ単位で回収しようと思っています。LFCファーマーというのを募集し、その堆肥を使ってくれる生産者と提携して、回収してもらう仕組みを作りたいのです。そうしたら地域で野菜が育って、マルシェって基本的には近所の人が来るから、その地域の栄養が循環する。

この堆肥を使っている人の野菜を目的に来る人が増えるので、農家さんにとってもいいことだし、消費者はコンポストをやることによって、自分の好きな農家さんを見つけることへも意識が向きますよね。そうなると生産者も頑張ると思うんです。そういう好循環が生まれますよね。このお試しキットは販売し始めたら50%以上は東京の方が購入してくださいました。だからニーズがあるというのは分かってきたので、早くやらなきゃと思っています。

助成金による成果として、今後の活動はそういうことをしていきたいですね。それぞれの地域でまわる仕組みを作りたいのです。

公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No.33掲載(加筆web版)
発行日:2020年4月9日

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