公益財団法人トヨタ財団

活動地へおじゃまします!

25 「『あんじゃないよ』という関わりをつくり続ける」愛知県豊田市中山間地域を訪ねて

廃校になった木造校舎を利用した醸造所
廃校になった木造校舎を利用した醸造所

取材・執筆:佐藤夏子 (国内助成プログラムアソシエイト)

活動地へおじゃまします!

[訪問地]
愛知県豊田市、築羽自治区、大多賀自治区
[助成題目]
豊田市中山間地域における地域経済循環を生む「たすけあいシステム」の構築と主体形成 このリンクは別ウィンドウで開きます
[助成対象]
2020年度国内助成プログラム[そだてる助成]地域経済循環を生む「たすけあい」システム構築プロジェクトチーム(代表所属機関名/株式会社三河の山里コミュニティパワー)

2022年11月下旬、愛知県豊田市の中山間地域で活動をされている『地域経済循環を生む「たすけあい」システム構築プロジェクトチーム』の成果報告会におじゃましてきました。「そだてる助成」の助成対象プロジェクトでは、[1]地域で運営・拡大する必要がある「たすけあいプロジェクト」を担う人材育成、[2]多様なステークホルダーと地域住民、高齢者の「困りごと」を集約、解決できる人材をマッチングする地域組織の設立準備、[3]青年会議所等と連携し、地域企業とのワークシェアに取り組まれました。

また、2018年度研究助成プログラム「地域活性化事業の地域内経済循環評価手法の確立と評価ツールの開発~自治体の新たな文化を創造する~」(代表者:稲垣憲治氏) このリンクは別ウィンドウで開きます と連携し、地域資源を活用した電力事業も進めています。

成果報告会前日に開催された「ローカルグッド全国大会2022」
成果報告会前日に開催された「ローカルグッド全国大会2022」

今回の訪問では、初日に本プロジェクトの運営の中心を担う「株式会社三河の山里コミュニティパワー(MYパワー)」の皆さんが大会のホスト役を務められた「ローカルグッド全国大会2022」に参加し、翌日開催された各地域での取り組みの見学を含めた成果報告会にも参加させていただきました。

報告会の当日は、参加者一同がバスに乗り合い、豊田市駅から出発し、紅葉の山々の中に淡い桃色の「四季桜」のグラデーションが彩る桃源郷を楽しみながら、1つ目の訪問先である実証モデル地域の「大多賀自治区」へ向かいました。

この地域一帯は、かつて生活に困った人々を助けるために庄屋さんが私財を投げ売って住民の生活を存続させたなど、地域内で強い結びつき(絆)、問題解決力を持ってきた歴史があり、その反面、外部からのアプローチは難しいのでは、と取り組みの開始時には助言もあったようです。しかし蓋を開けてみると、自治区長を始め担い手の中心は50代ながら次世代がおらず、住民自身が過疎化や消滅可能性地区の危機感を抱いており、地域存続への課題解決の糸口を模索していたそうです。

農福連携による耕作放棄地の解消と地域資源活用

足助町の耕作放棄地の視察
足助町の耕作放棄地の視察

本プロジェクトの実施にあたって、地域資源を活用した電力事業は地域課題解決のための道具の一つであり、互いにどのようにコミュニケーションを築き上げていき、互いの利害関係を解きほぐし、相手の動機に対しての提案を行えるかということを心がけているそうです。

また、対話で紡ぎだす言葉が相手に自然と腑に落ちるように環境を整え、場のマネージメントとして「あえて言葉を使わない、本当に言葉にならない関係構築ができるかが、信頼関係を構築継続していく」ということも心がけているようです。このお話をうかがった際、落葉のように不規則に降り積もっているようで、実は必要なところにふわりと収まり、さまざまな生命が繋がり大地に馴染み循環している姿に似ていると感じました。

釣り堀キャンプ場「山の里たんぽぽ」
釣り堀キャンプ場「山の里たんぽぽ」

地区全体として、高齢化や住民の減少等による「困りごと」の一つに耕作放棄地の課題があります。本プロジェクトのステークホルダー間での協議の結果、「草刈り」と障害者のデイサービス活動を連動させ、耕作放棄地および人手不足に関わる課題の解消に繋げました。ここでも、敢えて言葉を使わず、事前にどのようなメンバー構成であるかも共有せず、共に過ごす作業時間の過程で互いを自然に受け入れる関係構築を意図的にデザインし、先入観や事前のバイアスを生まない工夫もされていました。

「草刈り支援」から始まった農福連携は、今では多様な活動に発展しています。この日の昼食会場となった釣り堀キャンプ場「山の里たんぽぽ」は、オーナーの高齢化により閉鎖の危機に直面していましたが、本プロジェクトを通じて運営スタッフが入ったことで継続に繋がっています。昼食に、美味しいニジマスとジビエ料理を堪能させていただきました。

この他にも多様な連携や関係構築が進んでいますが、プロジェクト以前から足助町の水質に魅了され、醸造所建築にアプローチをしていたのが日東醸造株式会社です。当初は地域や住民との関係構築に苦戦していましたが、現在では廃校になった木造校舎を利用した醸造所で「しろたまり」を製造しています。木造校舎は、醸造微生物の育成に適しており、微生物たちの学校(居場所)になっていた、という点にも本プロジェクトの特徴の一端が垣間見えた気がしました。

とりあえず「集う」、何かしら「集う」

さまざまな取り組みの活動現場を見学し、成果報告会の会場である「つくラッセル」に到着しました。本施設は、旧築羽小学校の校舎を利用し、地元企業を核とした住民自治をモデル展開している築羽自治区(旭八幡町)の活動拠点です。中核を担う(株)M-easyは、地元での就労を創出(60数名の雇用)し、介護サービスやコミュニティビジネスの起業支援等で地域経済の活性化に貢献すると共に、本プロジェクトとの連携でPVカーポートを導入し、住民向けの小型EV車のレンタル事業(自家充電)を展開するなど、エネルギーの地産地消に向けた足掛かりも生まれています。また、今後は、地域で所有者のわからなくなった土地を集約し、その利活用を担う受け皿となる会社を運営していく計画もされています。

旧築羽小学校の校舎を利用した活動拠点「つくラッセル」にて成果報告会が行われました。
旧築羽小学校の校舎を利用した活動拠点「つくラッセル」にて成果報告会が行われました。

成果報告会で印象に残った発表について、少し振り返ってみたいと思います。

「人間には古来から『集う』という文化が根付いており、とにかく集う、娯楽といえば集ってましたよね」そうお話しくださったのは12年前に移住し活動に取り組まれている(株)M-easyの戸田友介さんです。人が集う、農山村の地域で息づいた文化には祭りなどがありますが、高齢化や人口減少により全国的にその文化自体の継承が難しく消滅しつつある中、ここでは個々の負担を減らしながら継続しているそうです。

「フリーで集まってくる環境、なんとなく行ってみる。意味もなく集う時間は、そこで何気なく出てきた話題から多様に発展し、将来の投資になる」と言います。「やれる人、やれそうな人が、とりあえず『つくラッセル』に集い、顔が見える距離で繋がる、繋がったことで生まれる事業が目に見えてくる。その反面、地域の人たちの中には半信半疑の人もいると思う。現在、衰退の一途を辿り、住民は消滅可能性地域としての危機感があるなかで、小さなプロジェクトの成功体験を積み重ね、現代版文化を写真の焼き増しのようにして見せ、広げていくことも重要ではないか」と、お話しくださいました。

施設運営においても興味深いお話がありました。戸田さんが運営する新聞販売店などを施設の一角に入れることで、日中は施設内に人が常駐する状態にしているとのことです。しかし、ユニークな点はそこではなく、「訪問者」も「集う場所に来た人」であり、丁重なおもてなしをするのではなく、「今日そこにいた人(新聞販売店のスタッフなど)」が、ただ「ついでに」対応するというのです。私自身も「つくラッセル」を訪れた際、自由に入って良いのかと当初戸惑いましたが、逆に変な緊張感や堅苦しさがなく、リラックスして見学し、そこにいた皆さんの自然な姿を拝見することができました。

また、この地域を通して感じている今後の姿について、「旭には大切にしたい当たり前の文化があり、お互いをよく知り、関わり、一緒に体を動かす、お節介をし、『あんじゃない(心配ないさ、大丈夫だよ)』という関わりを創り続けることで、さまざまな実験的なことの仮説が転がり出すのではないか」といったことも教えていただきました。

困りごとの共有からはじめる

最後に、本プロジェクトの取り組みの対象地域の一つである敷島自治区についても簡単にご紹介したいと思います。この地区は300世帯が暮らし、60〜70代が多く、女性も多い地域です。

当初は地域電力への切替を前面に押し出さずに、地域17か所の説明会を実施して、困りごとを用紙に書き出してもらったそうです。困りごとの中には、「もっと早く言ってくれれば」という事案もあったようですが、地域の人々の人柄上、「こんな事を頼んで良いのだろうか?」という遠慮がちな面が事象を見え難くしていたことへの気づきも発見できたそうです。

準備段階から含めてこれまでの10年間はtry&errorの繰り返しであり、PRの戦略会議を行いながら、関係人口をどのように巻き込んでいくか、メンバー同士でのやり取りがなかった日はないとのことです。一方で、この10年間があったからこそより一体感が生まれ、クラウドファンディングでは、地元の人からの出資も多くなったという結果に結び付きました。地域の人々の思いがたくさん詰まった交流拠点「しきしまの家」は2023年4月にオープンを予定しているようです。

今回の訪問を通し、人材は人財であり、地域経済循環において大きな要として、その人財を活かすも殺すも、また人材であると改めて学ぶことができました。

これからの季節の三河もまたオススメです。ぜひ、美味しい食材、景色、魅力的な人たち、地域を体験しに来てみてください。

公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No.42掲載
発行日:2023年4月17日

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