選考委員長 牧野 篤
東京大学大学院教育学研究科 教授
トヨタ財団2024年度国内助成プログラムは、昨年度に引き続き「新常態における新たな着想に基づく自治型社会の推進」をテーマに、2つのカテゴリーにおいて公募を行った。そのカテゴリーとは、「1)日本における自治型社会の一層の推進に寄与するシステムの創出と人材の育成」(以下、「1)日本社会」と記す)、「2)地域における自治を推進するための基盤づくり」(以下、「2)地域社会」と記す)である。
前者には20件、後者には117件、総数137件の応募があり、事務局のプログラムオフィサーがすべての応募案件について要件や書式不備などの確認を行った上で、当選考委員会における選考を実施した。
当選考委員会は委員長はじめ5名の専門家から構成され、大学などで社会学・まちづくり・住民自治などにかんする教鞭を執りつつ、社会的な実践を行っている委員のほか、地域づくり団体やNPOなどの支援や伴走に取り組み、自治型社会の形成に造詣の深い委員が参画した。選考は、企画書による事前審査においてそれぞれの委員が推薦案件を選び、それらを事務局が集計し、集計結果をもとにして、「1)日本社会」は7件に対するプレゼンテーションを含めた選考を、「2)地域社会」は企画書の書面審査の結果をもとにした選考を、選考委員の合議のもとで行った。その結果、「1)日本社会」については3件、「2)地域社会」については9件、計12件、助成総額8,100万円を採択することとした。
総評
今年度の公募プログラムも「新常態における新たな着想に基づく自治型社会の推進」をテーマにしたものであり、このテーマでは4年目の公募となる。昨年度と同様、「1)日本社会」、「2)地域社会」ともに多様な企画提案がなされたが、昨年度、選考委員の評価が分散し、各企画提案に対する評価が割れたのに対して、今年度は、評価がかなり一致しており、さらに追加ヒアリングや対面(オンライン)でのプレゼンテーションと質疑応答を経ることで選考委員の意見が一致して変化し、最終評価が変わったものがかなりあった。
このことは、次のことを表しているようにも思われる。本助成プログラムのテーマである「新常態における」という議論は、コロナ禍を経て、人々が新たな生活様式を採るとともに、社会に存在していた従来型のいわば地縁型・網羅型の組織が機能不全を起こし、地域コミュニティの在り方が大きく変容していることを背景として、「新たな着想」にもとづいた住民一人ひとりの当事者意識を基盤とした「自治型社会」の構築が求められているとの認識にもとづくものであり、この趣旨が公募要領に反映されていた。コロナ禍後2年を経過する中で、私たちの社会状況が、一層の分断を示し、人々が直面する課題も個別化・分散化の度合いを増していて、それらをどのようにとらえるのかという観点から応募企画提案を受けとめると、選考委員の評価がかなりの部分で一致すること、つまり一部の細分化された社会課題に対応する企画提案に高評価が集中することとなっていた。ところが、それらの提案を表現する「言語」がコロナ禍を経て変化してしまっており、提案書(の「言語」)だけではそれぞれの企画提案の実質的な議論を汲み取ることが困難であり、追加ヒアリングや対面でのプレゼンテーションおよび質疑応答、さらには選考委員相互の意見交換を経て、改めてそれぞれの企画提案が実現しようとしている社会の姿が見えてくることが少なからずあった。つまり、コロナ禍を経て、人々が直面し、解決を求める社会課題が細分化・分散化し、かつそれら細分化された課題の間を架橋すべき「言葉」そのものが共通性・一般性を失い、社会の分断に規定されたものへと変質してしまっていたことに、選考委員会が改めて気づかされることとなったのである。
このことはまた、それぞれの企画提案についてもいえることであった。今年度の企画提案は、それぞれのステークホルダーがとらえた社会課題に対する特色あるアプローチと解決方法が提示され、その過程で当事者性の深化と拡張が行われて、当事者による課題解決を行うことが「自治」であり、その当事者が構成する社会が「自治型社会」であるという論理を持つものが多く、その意味では、極めて強い当事者性に支えられた企画提案が多かったという特徴がある。それはまた、昨年度の企画提案に比して、事業化の提案が少なく、狭い日常の範囲のコミュニティをベースとして、当事者性を掘り起こしながら、当事者を担い手とする実践論の企画が多かったことと、呼応している。
いいかえれば、それぞれの企画提案によってとらえられた社会課題が、極めて具体的かつ実践的であるということであり、その個別具体的な課題への対応を企画するという時点において、今年の企画提案は次のような二つの大きな傾向を持つこととなったように見える。一つは、その個別具体的な課題への対応を直接的なステークホルダーが担うことで、その課題解決に特化した形での実践提案がなされるもの、もう一つはその個別具体的な課題を解決するために、異なる高いレイヤーから網を被せるかのようにして、第三者が仕組みをつくろうとするもの、である。いいかえれば、細分化し分散した課題を一つひとつ取り上げて解決するのか、それらを大きな枠組みですくい上げてその枠組みの中に入れ込むことで解決しようとするのか、という形で企画提案の傾向が分かれたということである。
このことは、今年度の企画提案においては、個別の社会課題の持つ論理に縛られるのか、それらを飛び越えた抽象度の高い視点から論理を組み換えるのか、という提案が多かったということであり、この中間に位置する議論があまり見られなかったということを意味している。つまり、今年度の企画提案の多くが、現場の持つ個別の論理から普遍性・一般性につながるような、一人ひとりの当事者の持つ論理の核となる共通項のような価値を抽出するのではなく、表層的な個別性を扱うのか、それらをとらえつつ表層を超えた抽象度の高みから表層を組み換えようとするのか、という議論に終始していたということである。
これが、既述の「言葉」が共通性・一般性を失っているという今年度の企画提案の特徴を形づくることとなっているように思われる。
さらに、この「言葉」の共通性・一般性の喪失は、企画提案が対象とする、つまりコロナ禍後2年を経た今日のこの社会の時空間までもが変容しているのではないかという印象を抱かせることへとつながっている。つまり、多くの企画提案が、個別具体的な課題をとらえて企画を立てながらも、どうであったらその企画が実現し、課題が解決したことになるのかを明示的に示すことがなく(または、できなく)、むしろ状況として企画が実現し、課題が解決したと見做すというような議論となっていることにこの点が示されている。いいかえれば、「目標が達成された」ことが企画の目的となるというよりは、「目標達成に向けて過程であり続けること」が企画の目的となっている、つまり時間の流れが目標を達成することで区切りを迎えるのではなく、継続し移行し続けるかのように見えるのであり、その意味では、その実践が展開される空間も、具体的な日常生活におけるコミュニティなどの「場」ではなく、むしろ当事者と見做される人々の「かかわり」、さらには「関係」であるかのようなイメージを差し出すものとしてある。
これらのことは、コロナ禍を経て、私たちが逢着している社会は、具体的な空間と時間を持ち、達成を目的とする「場」であるような社会ではなく、むしろ「かかわり」であるような空間が、終わりのない時間を推移していくかのような「関係」としての社会へと移行していることを示しているように見える。それゆえに、このような曖昧で達成のない「関係」としての社会の課題を議論すると、それぞれの個別具体性に依拠しつつ、ちいさな「かかわり」の在り方を組み換えることで、社会課題を解決しようとするか、またはその「かかわり」をより大きな抽象的な枠組みの中に入れ込んで、「関係」の在り方を組み換えること、つまり「関係」の見え方を変えることで、社会課題を解決しようとするかという二つの傾向に企画提案がわかれることとなった。それが書面審査段階で、選考委員の意見の一致を見つつも、改めて提案者とやりとりをし、委員相互で意見交換をすると、評価が一変するという事態をもたらすこととなったように思われる。
このような議論(企画提案)で見落とされてしまうのは、個別具体的な課題のさらに奥深くにある人間としての営みの本質という普遍性の存在であり、そこで放棄されてしまうのは、その本質を抽出し、それを社会実践へと組み上げつつ、個別性と普遍性を架橋して、新たな社会を構成しようとする苦しい営みなのではないだろうか。この点をどう評価するのか、今後のプログラム企画の大きな課題であると考えられる。今年度の企画提案は、このような顕著な特徴を持ったものとしてとらえることができる。それが結果的に審査意見の一致(とまた一致した変更)を導くこととなったのではないかと思われ、その意味では、選考委員そのものがこのような社会の変化からは自由ではなかったということでもある。
「1)日本社会」
[プロジェクトチーム名]たじま(但馬)コネクト
[企画題目]共創的なプラットフォームを起点に医療福祉を入口とした複数領域横断でのまちづくり
高齢化・人口減少に苛まれる地域社会存続のために、住民の生命にかかわる医療福祉の充実を起点として、医療福祉サービスの受益者である住民が担い手でもある地域社会を実現するための、あらゆる住民が参画できる共創プラットフォーム構築の提案である。
少子高齢化・人口減少によって地域社会が縮小する中で、とくに受益者が急増する反面で担い手が不足し、地域住民の生命と直接にかかわる医療福祉そのものだけでなく、その浸透のための移動や配送などの基盤も十分に整備されない事態が生じており、それらを受益者である住民が担い手でもある形をとりつつ、地域の医療福祉水準を向上させようとする本提案は、意義のあることであり、今後の持続可能な地域社会を構想するためにも必要なことでもあると考えられる。
本プロジェクトは、既に兵庫県北部の但馬地域を中心としたフィールドを持ち、コミュニティ形成の実験的実践を重ねる中で提案されており、ある種のトップダウン型の強力な推進力を持つ組織を採用することで、突破力を備えているものといえ、遂行可能性の高いものでもあると受けとめられる。
[プロジェクトチーム名]のきした
[企画題目]のきした普遍化プロジェクト
上記【総評】に記した意味で、企画書段階では最も対象とする社会イメージがとらえにくく、実践の目標が曖昧としていて、何をどうしようとしているのかが十分に伝わってこない選考委員泣かせの提案であった。しかし、選考委員の視点を上記のように社会の空間を「かかわり」、そして時間を「フロー」へと移行させると、とても魅力的な提案であり、社会課題とされているものが、この取組においては有効な資源へと転化していく姿をとらえることができる。たとえば、ホームレスの存在は社会的な課題だとされ、その解決のためにインクルーシブな社会の在り方が唱えられ、そのためのさまざまな施策(たとえば炊き出しや学びの機会の提供等)が実施されるが、本企画提案では、ホームレスと彼らを受けとめる人々の「かかわり」を組み換えることで、ホームレスの存在が地域住民を結びつける資源に変わり、その過程で「のきした」と呼ばれる「かかわり」が豊かに変容しつつ、ホームレスを含む住民が集う「空間」が「関係」としてできあがり、それが次の社会課題解決のための資源として機能することになる。しかもここでは、社会課題は従来の意味における(つまり、従来の「言葉」における)解決の対象ではなく、むしろ次の「かかわり」づくりのための資源へと性質を変え続けることとなる。いいかえれば、社会が、課題や目標達成のない、フローであり、プロセスであり続ける形で、「関係」が組み換わり続けるという課題解決の在り方が示されるのである。このような、新たな時空間が生成し続ける形での実践が、どのような社会像を提示してくれるのか、今後の取組みが楽しみだといえる。
[プロジェクトチーム名]+WAA ReScue(プラス ワーレスキュー)
[企画題目]地域内外の交流を通じたコミュニティレジリエンス向上による自治型社会の実現
防災を見据えた平時の地域住民と都市生活者との交流を通じて、地域社会のウェル・ビーイングを向上させるとともに、発災時のレジリエンスを高め、人々の生命と生活を守るコミュニティを実現しようとする研究的な要素も含む企画提案である。とくに、激甚災害が頻発し、かつ過疎・高齢化地域で地域社会のレジリエンスが低下している現状をとらえ、都市生活者との平時の交流によって関係人口を増やすとともに、防災ワーケーションなどによって地域住民と都市生活者との共同態勢を構築し、共助をもとにした生活スタイルを構築することで、平時においてウェル・ビーイングを感じられ、発災時には高いレジリエンスを発揮する地域社会を構築しようとする提案は、防災を起点とした新たなまちづくりの提案として評価し得るものといえる。
さらに、従来いくつかの地域コミュニティで試みられてきた防災を起点とする地域づくりにおいて、一番のボトルネックは地域住民の防災意識・当事者意識の持続が困難であったことだが、それはまた地域コミュニティに閉じられた形で防災意識・当事者意識を考えていたことによるところが大きい。本提案は、地域コミュニティに閉じられた取組ではなく、むしろ関係人口創出と担い手論、さらに既存の担い手組織を基本とした新たな担い手の育成を組み込んだものであり、従来の取組の弱点を克服し得るものと期待される。
「2)地域社会」
上記の【総評】に記した観点は、「2)地域社会」のそれぞれのプロジェクトについても該当する傾向である。それぞれが、それぞれ個別の課題を扱いつつも、課題解決の姿として、何かを達成するという形ではなく、また問題そのものがそのまま解決するという形でもなく、むしろ問題を生み出している「関係」を組み換え続けることで、新たな「かかわり」のあり方をつくりだし続けるような取組みを提案しているように見える。
[プロジェクトチーム名]「流粋暮らしネットワーク」プロジェクトチーム
[企画題目]「流粋暮らしネットワーク」プロジェクト
木曽川上流から愛知用水下流までのいわゆる「流域圏」を新たに「流粋」という概念で括り返し、流域圏の交流を通した新たな生活スタイルを構築し、社会実装する提案である。従来からある「流域圏交流」の在り方を、「粋」をテーマに再編しつつ、相互の交流によって地域の価値に根ざした生活スタイルを創り出し、社会実装することで、地域住民によるコミュニティ経営を促そうとするものであり、従来の経済中心の交流の議論とは異なる観点を提示しようとするものであり、意味のある提案だといえる。
[プロジェクトチーム名]対話でつながる「ぶんぶんカンパニー」
[企画題目]対話で紡ぐ共創の未来:大牟田の力と可能性を引き出すプロジェクト
上下関係を基本とした非対称の関係で構成されている社会では、一人ひとりの可能性を開花させた地域社会づくりは困難であるとの認識から、「対話文化の醸成」を価値基盤とした人々の可能性を引き出しあう社会づくりを、大牟田市をフィールドに行う提案である。その具体的な方法として、高校生が企業の会議のファシリテータとなって、企業内の上下関係をほぐし、対等な関係で一人ひとりの可能性が開かれていくワークショップ形式の取組みが提起される。このようないわば「小さな社会」がこの社会に分散的かつ自律的に広がることで、社会基盤を組み換えることが予想され、硬直化した昨今の社会の基盤をほぐしつつ、再構成する可能性のある提案だといえる。
[プロジェクトチーム名]サンバンド(ご縁&絆)Baseチーム「NAGAYA」
[企画題目]「日常の延長にある相談機能」の源泉となる拠点から実現したい自治の挑戦!
「業務としての相談支援」ではなく、「日常の延長にある相談機能」を重視することで、多様な価値観を認めあい、住民相互が共助の関係を生み出して、支えあって生活できる地域コミュニティ=「かかわり」創造の提案である。行政的な福祉機能が却って人々を孤立させる点への着目や、慈恵的な福祉の議論ではなく、むしろ迂回路を通って、人々の「かかわり」の創出を通した関心の共同体とでもいえる福祉コミュニティの在り方を模索するという点、そして、興味関心と生活支援を結びつける(たとえばスパイス・クック・サンバンドと高齢者の住宅支援)ことが留意されているなど、どれも実践経験に裏打ちされた議論と実践手法であり、社会実装可能性の高いものであることを示している。
[プロジェクトチーム名]「コモンズの共有財産としてのアセット公益活用モデル」形成プロジェクトチーム
[企画提案]公益財団法人とネットワーク組織によるアセットの公益活用と市民自治モデルの形成
宗教法人(寺院)の持つ資産を基盤として、市民による公益財団法人設立を通してその活用を公益信託として進め、住民による地域経営を行おうとする提案である。寺院は全国に7万あまり存在し、基本的にそれぞれに住職がおり、その有効活用は、寺院の経営にとっても求められている。この宗教法人と市民立の公益財団法人とをネットワーク化して、寺院の持つ資産を市民によって公益信託という形で活用することで、地域社会の自治的な経営を行うことは、これまで十分に着目されてこなかった寺院の社会的な存在意義を改めてとらえ返すとともに、住民自治に対しても新たな視点をもたらすものとして、興味深い。しかも、寺院の持つ資産を公益信託として運用することが目指されており、寺院経営と地域経営を住民の組織が媒介となって結びつけるものとしても、注目される。
[プロジェクトチーム名]茅ヶ崎カンパニー
[企画提案]まちがまるごと仮想会社「茅ヶ崎カンパニー」
地域をまるごと仮想会社として見立てて、住民をまちづくりや自治活動その他にかかわらせるプラットフォームを形成する提案である。従来のまちづくりや住民活動のボランタリズムの限界を超えるために、とくに財政的困難その他の問題を克服するために、ある種の地域通貨の仕組みを導入しつつ、関係資本をやりとりすることで、いわば実利的な報酬とともに、精神的な報酬を得る仕組みを構築して、地域の自治活動を推し進めようとするプロジェクトであり、すでにいくつかの事例が生まれている。従来の住民活動にいわば市場原理を持ち込み、貨幣を媒介とした交換ではなく、むしろ贈与をベースにした関係資本のやりとり=恩送りによって、地域の経済=自治が回る仕組みをつくろうとするもので、興味深いものだといえる。
[プロジェクトチーム名]ぱーんとぅ笑楽校準備チーム
[企画題目]慣れ親しんだまちにハッピーに暮らし続けるための循環型自治「ぱーんとぅ笑楽校」
沖縄県宮古島の島尻地区をフィールドに、廃校跡地利用を基盤として、地元住民だけでなく、関係人口も組み込んだ形で事業展開しつつ、循環型の自治体系を構築しようとする提案である。その拠点が、地元の奇祭である「ぱーんとぅ」にちなんだ「ぱーんとぅ笑楽校」である。地元住民の地元コミュニティへの思いを基本として、地元住民だけによる自治を考えるのではなく、様々に地元に思いを持つ人々=関係人口をも組み込みつつ、当事者性を醸成し、かつ身の丈にあった経済を生み出して、自治と経済を両輪として地域コミュニティが循環的に経営される仕組みをつくろうとするものであり、遂行可能性の高いものとして提案されている。
また本提案は、小さなコミュニティの循環型体系の構築ではあるが、この仕組みは他のコミュニティにおいても、その資源の活用の在り方を工夫することで、適用可能なモデルとして形成することが可能であるように見え、汎用性は高いものだといえる。
[プロジェクトチーム名]今宮・ベンチと移動式縁側と妄想屋台プロジェクトチーム
[企画題目]「作業・ものづくり」から始まる共生社会~ベンチと移動式縁側と妄想屋台~
大阪西成地区「釜ヶ崎」をフィールドに、様々な背景を持つ多世代の住民たちが、支え・支えられる関係をつくりつつ、それぞれの生きがいや役割を持って、それぞれの潜在能力や個性を刺激しあって、創造的に生活する場をボトムアップでつくりだすことで、地域の自治を形成しようとする提案である。その具体的な道具が、域内に設置されるベンチや移動式縁側と呼ばれる道具による相互に交流できる空間の構成であり、また妄想屋台と呼ばれる交流の形式である。釜ヶ崎という具体的なフィールドの人々の「かかわり」において、大学や社会福祉法人、訪問看護ステーション、包括支援センター、子どもの家など多様なステークホルダーとの連携において事業を進めようとする、つまり社会の「関係」の組み換えを行おうとするものであり、遂行可能性も高いものだといえる。
[プロジェクトチーム名]地域がつながる協同販売所運営室
[企画題目]「地域に必要なものは自分たちでつくる!」鎌倉の新しい魚屋から波及する住民活動
鎌倉市今泉台をフィールドに、シャッター通り化した商店街に、住民有志で出店した魚屋を核として、住民相互の新たな「かかわり」を生み出し、販売ネットワークの拡大によって多様な人々の交流を生み出して、そこから住民によるボトムアップの活動展開の土壌を形成する提案である。多くの旧新興住宅地で、高齢化・人口減少の影響で、商店街がシャッター通り化しており、買い物困難者が出て、住宅地が過疎化するなどの事態が起こっているが、それらに対し、住民自身が必要なものをお互いに配慮しあう関係の中から生みだしていく、つまり商店をみずから経営し、人々をつなぎあわせていくことで、新たな事業を生成することへと結びつけていく提案であり、地元経済や人々の需要を組み込んで住民自治のあり方をとらえようとする、特色あるものだといえる。
[プロジェクトチーム名]当別まちづくり
[企画題目]しがらみでもないおまかせでもない弱いつながりがつくるまち
既存の自治組織を否定することなく、地域に関心をもつ若者と地元の顔役を緩やかに結びつける「ミニハブ人材」を育成し、弱いつながりの中で、互いに尊重しあってコミュニティ自治を実現する仕組みづくりの提案である。とくに、従来機能してきた地縁的、かつ包括的な自治組織を否定することなく、その機能の弱体化を前提として、担い手であった地元の顔役とのかかわりを、新規参入者である若者がつくりだすことで、相互につながりあい、コミュニティを自治的に構成しようとするもので、新たなまちづくりという目標を置くことなく、無理なくコミュニティを持続可能なものとして形成する試みである。まちづくりや自治というと、ともすれば、新たな目標を設定して、それをステークホルダーに共有することを求めがちだが、そのような方向性を敢えて避け、むしろ既存の自治組織に新たな参入者を迎え入れつつ、その人的なかかわりの在り方を組み換えることで、新たな命を吹き込もうとする観点からの提案であり興味深い。また、高校が組み込まれることで、高校生が社会に出て、人々とかかわりを持つことで、みずからを当事者として育成することにも繋がっており、持続可能性を考える上でも重要な提案だといえる。
上記の各プロジェクトにおいては、それぞれの取組みにおける自治の在り方が人々の自己認識や当事者性の醸成にどのようにかかわり得るのか、人はどのような形で他者とかかわり、社会とかかわるときに、みずからの変容を当事者性として生み出すことができるか、等についての洞察が生まれることで、それぞれの企画提案の社会的な有用性は一層強まるものと思われる。これらのプロジェクトが、既述【総論】で示したような「かかわり」として流れ続ける社会の時空間をどのように構成し、人々の生活をどのように組み換えていくのか注視していきたい。
応募件数 | 助成件数 | 採択率 | |
---|---|---|---|
1)日本における自治型社会の一層の推進に寄与するシステムの創出と人材の育成 | 20 | 3 | 15.0% |
2)地域における自治を推進するための基盤づくり | 117 | 9 | 7.7% |
合計 | 137 | 11 | 8.0% |