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  • 国内助成プログラム

2020年度国内助成プ­ログラム ­選後評

選考委員長 飯盛 義徳
慶應義塾大学総合政策学部総合政策学科 教授

2020年度の国内助成プログラムは、「未来の担い手と創造する持続可能なコミュニティ ―地域に開かれた活力ある課題解決の仕組みを通じて―」というテーマを掲げて公募を実施しました。

本プログラムでは、地域を支える多様な主体の参加や地域の将来の担い手の確保・育成の視点を重視し、地域の課題を解決していく具体的な、かつ持続可能な仕組みづくりにつながるプロジェクトに助成をしています。

課題を明らかにしつつ、調査・関係構築・事業戦略立案などの本格的に事業を実施する前の段階に対して助成を行う「しらべる助成」、担い手の育成や持続可能なコミュニティの実現に向けた生態系を育む事業に対して助成を行う「そだてる助成」という2つの枠組みで企画を募り、それぞれの選考基準で厳正なる審査を行いました。

選考結果について

本年度は、4月10日から6月8日まで公募を実施し、「しらべる助成」90件、「そだてる助成」141件、計231件の応募がありました。

公募期間中には、新型コロナウィルスの感染対策のため、例年は全国各地で開催していた公募説明会をオンラインに切り替え、合計6回開催しました。毎回定員(50名)近くの参加申込があり、多くの方々に関心を寄せていただいていることを実感しました。

選考委員会は、5名の選考委員で行われ、事前の書面評価および選考委員会当日の議論を通じて助成候補の選出を行いました。選考過程では、応募いただいたプロジェクトに対して選考委員から挙がった確認点や指摘事項について事務局によるヒアリングも実施し、その確認結果も踏まえて、最終的に「しらべる助成」13件、「そだてる助成」9件を助成対象候補として決定いたしました。助成対象候補となった印象的なプロジェクトをここに紹介します。

【しらべる助成】
[企画題目]雑穀と若者のつながりで豊かになる地域社会をつくる
[プロジェクトチーム名]雑穀生産/食文化で豊かになる地域づくりネットワーク

世界農業遺産に登録された徳島県西部(つるぎ町、美馬市、東みよし町、三好市)において、長い時間をかけて育まれてきた雑穀の生産・加工・販売を実現するために必要な施策のための調査を行うものです。傾斜地農耕を行っている農家の総数や現状を把握するとともに、具体的な生産・加工・販売体制を構築するための基盤づくりをめざしています。地域における持続可能なシステムづくりのための調査としての意義が大きく、目的にも説得力があります。さらに、地域における多様なアクターが参画しており、今後の事業化にも期待が持てる内容と評価されました。

【そだてる助成】
[企画題目]探求と対話の広場:木賃で若者と地域が繋がり思考と実践が循環するコミュニティの創出
[プロジェクトチーム名]かみいけぶくろ探求と対話と木賃文化ネットワーク

東京都豊島区上池袋では、今まで若年単身者と地域とをつないでいた木賃(木造賃貸)の多くが遊休化しており、若者が地域に溶け込み、住民同士の信頼関係構築、対話の場が失われていました。そこで、木賃を再整備して若者単身者向けシェアハウスを立ち上げて、様々な活動を展開することで、世代、国籍、立場をこえた人々の信頼関係を構築して、豊かな地域コミュニティを再生することをめざす事業です。場づくりによる都市型コミュニティ再生のモデルとして興味深く、他地域の範になる内容です。多世代の多様な人々が参加する予定であり、実現性にも十分配慮されていると評価されました。

選考委員からのコメント

次に、今年度の選考プロセスを振り返り、選考委員から挙げられたコメントをいくつか紹介します。今後の応募の参考にしていただければと思います。

【しらべる助成】
・若い世代からの応募も多数あり、新しい価値観による地域づくりのこれからに期待が持てる。
・調査のための調査に終わることなく、次の事業化へとつながる視点をもっと打ち出してほしい。
・地域の多様な人々の協力が得られるように工夫してもらいたい。

【そだてる助成】
・興味深いテーマが多く、持続可能性を重視し明確に言語化している事業が多かったと感じた。
・地域の生態系を育むために、人々の主体性をいかに育むかという視点を再度検討してほしい。
・実施予算については、事業内容に照らし合わせて必要なものを精査して、根拠を示してほしい。

最後に

本年度もたくさんの応募をいただき、心から感謝をしている次第です。事業分野、対象地域とも多種多様で、各地でこのような素晴らしい活動が展開されて、広がっていくことで日本は元気になっていくだろうと選考委員一同で期待をしています。

地域づくりにおいては、多様な人々のつながりを形成して、その相互作用によって、地域の人々が主導する、予期もしていなかった活動が次々と生まれるような生態系をいかにつくりあげるかが問われます。そのためには、事業に参加することで新しい担い手に転じていくような仕組みを検討する必要があります。成果をあげていると目されている場では、空間においてもプログラムにおいても、参加者と一緒につくっていく余地をあえて残しているところもあります。これからは、主体性を育むために、このような共創の概念が大切になるでしょう。

選考委員会では、しっかりと企画書を読み込み、全員で意見を出し合い、1件1件について合意形成を行った上で選考いたしました。残念ながら助成対象から外れてしまった事業の中にも、社会的意義のある、地域に寄り添った、意欲的なものが多々ありました。歩みを止めることなく、再度チャレンジをしていただければと願っています。



(括弧内は昨年度)

応募件数 助成件数 採択率
しらべる助成 90件(105件) 13件 (16件) 14.4% ( 15.2%)
そだてる助成 141件(228件) 9件(11件) 6.4% ( 4.8%)
合 計 231件 (333件) 22件(27件) 9.5% ( 8.1%)
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