公益財団法人トヨタ財団

  • 特定課題 先端技術

2019年度 先端技術と共創する新たな人間社会 選後評

選考委員長 城山 英明
東京大学大学院法学政治学研究科 教授

「先端技術と共創する新たな人間社会」の選考について

トヨタ財団研究助成プログラムでは、2018年度から「先端技術と共創する新たな人間社会」という特定課題を設けました。AIのような先端技術が出てくるなかで、社会でそのような技術をどのように扱っていったらいいか、将来的には人間社会のあり方はいかにあるべきか、といった先端技術のユーザーサイドからの視点を踏まえた研究を支援するのが目的です。ユーザーサイドといった場合、現場は一様ではなく多様です。医療・福祉といった現場から、交通や産業といった現場、さらには安全保障といった現場もあります。今年度は2回目の提案募集になりますが、幅広い32件の応募を得て、最終的に7件のプロジェクトを採択しました。

採択されたプロジェクトは、大きく3つのタイプに分けることができると思います。

第1のタイプは、具体的な現場における先端技術の利用可能性と課題を検討するものです。今年度は特に障害者の社会的インクルージョンに焦点を当てたプロジェクトが2つ採択されました。D19-ST-0015 望月茂徳(立命館大学映像学部・准教授)「インクルーシブなデジタルメディアの開発と検証:障害のある人のための創造的な活動とリハビリテーションのデザイン」とD19-ST-0014 岡勇樹(NPO法人Ubdobe・代表理事)「デジタルアートやセンサーなどの活用による障害児・健常児が主体的に共生できる社会づくり」です。前者は国際的ネットワークに基づき新たなデザインの構築を目指すプロジェクトであり、後者は現場における普及を通して持続的なモデルを探るプロジェクトです。また、D19-ST-0012 小塩靖崇(国立精神・神経医療研究センター・研究員)「アスリートのメンタルヘルス支援アプリの実装による効果検証:対人サービスへの先端技術導入の利点と課題の抽出」は、アスリートのメンタルヘルスというユニークな現場の課題を通して、先端技術を活用した対人サービスのあり方を検討しようとするプロジェクトです。

第2のタイプは、先端技術が社会に導入される際の政治的社会的倫理的課題を俯瞰的に検討しようとするプロジェクトです。D19-ST-0006 高山嘉顕(日本国際問題研究所軍縮・科学技術センター・研究員「先端技術と国際関係:安全保障・経済・情報通信技術を巡る国際関係に関する課題検討をプラットフォーム形成」は、技術と安全保障という重要ですが正面から分析されることの少なかった課題に取り組むものであり、D19-ST-0019 大庭弘継(京都大学大学院文学研究科・研究員)「社会的意志決定を行うAIの要件」は、技術利用に伴う究極の価値選択の問題に正面から取り組むものです。

第3のタイプは、先端技術を社会が活用していく際の、具体的な政策や仕組みの提案を志向するものです。D19-ST-0020 田口空一郎(一般社団法人フューチャー・ラボ・代表理事)「デジタルへルスの普及が患者動態および医療制度に与える影響に関する研究」は、地域において理系の大規模研究とも連携して、デジタル技術活用の患者、医療費、医療システムへの影響を実証的に明らかにし、実践的政策提案の基盤を提供しようとするものであり、D19-ST-0025 標葉隆馬(大阪大学社会技術共創研究センター・准教授)「分子ロボットロードマップ構想に向けた分野間・国際間共同研究」は、分子ロボットというロボティクスと生命科学の境界領域における将来的な技術に関して、「責任ある研究・イノベーション(RRI)」に実践的に実施する仕組みとして、幅広い関係者のネットワークに基づき、ロードマップを具体的に試行しようという試みです。

以上の7つのプロジェクトは、若手の人文社会科学系の研究者や実務者が中心的な役割を果たし、先端技術を活用した社会のあり方や課題を検討しようとする野心的なプロジェクトだと思います。ただし、このような研究を遂行するに際しては、現場の科学者や技術者とも是非、対話を積み重ねっていただきたいと思います。また、今年度も、具体的のテーマとしては、障害者福祉といった分野のテーマにやや偏っているような気もします。今回は、俯瞰的なテーマとしては安全保障といったものもみられましたが、今後は具体的な課題としても、より幅広い分野での研究提案を期待したいと思います。

特定課題「先端技術と共創する新たな人間社会」は、2019年度より研究助成プログラムから独立した公募プログラムとして実施しています。
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