先端技術
seikabutsu
成果物(書籍・論文・映像等)
情報掲載日:2023年5月1日
2018年度トヨタ財団〈特定課題〉「先端技術と共創する新たな人間社会」の助成プロジェクト「人間と計算機が知識を処理し合う未来社会の風土論」(代表者:熊澤輝一氏、D18-ST-0043)による成果物が出版されました。
本書にて紹介される研究は、人間社会の中に計算機がくみこまれた未来社会の在り方を、構想・想像することを目的として行われました。風土という概念は、人間が、環境と切り離しがたく結びついていることを強調する語ですが、じつは、主体としての人間の〈認知cognition〉と環境の関係を基盤とする概念です。計算機は、人間の認知をモデルにした機械ですから、計算機がくみこまれた未来社会とは風土の問題であると言えます。人新世と呼ばれる時代においては、技術、機械が地球環境に大きな位置を占めます。本書は、そのような中での風土をどう考えればよいかを、一般向けに書評・ブックガイドの形式で語ったものです。
本書では、第一に、未来社会の風土を、歴史的風土学からとらえるべく、『風土記』の風土学(7世紀)、和辻哲郎の風土学(20世紀前半)、オギュスタン・ベルクの風土学(20世紀後半―21世紀前半)という三つの風土学の特徴を整理しました。第二に、未来社会を想像するにあたって、変わるものと変わらないものとの関係性を整理しました。往々にして未来社会とは、あらゆるものが総入れ替えされた社会のように思われがちですが、自然の系の変化のスピードと、人間の系である社会の変化のスピードにはギャップがあります。自然、人間、機械の関係の中で織りなされる未来の風土における三者のギャップを検討しました。
「風土」とは、従来、歴史や伝統と結びついて語られることが多い概念でした。それを未来に拡張するためには何が必要なのか。本書は、風土という概念が、未来を論じる際のツールとなりうることを萌芽的に示した試みです。関心のある方はぜひご覧ください。