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JOINT46号 WEB特別版「50年後の人間社会を展望するために、わたしたちのできること」

JOINT46号「50年後の人間社会を展望するために、わたしたちのできること」

ファシリテーター ◉ 羽田 正(トヨタ財団 理事長)


未来への見通しが不確実性を増す社会のなかで、民間の一財団としてトヨタ財団にできることは何か。
助成現場を奔走するプログラムオフィサーの3人は、どのような「思い」をもって活動にあたっているのか。
50年後の日本、そして世界の将来を展望するためにわたしたちに「いま」できること、
なすべきことを羽田理事長とともに語り合います。


50年後の人間社会を展望するために、わたしたちのできること

羽田 きょうは、トヨタ財団のこれからの50年というテーマでお話ができればと思っています。トヨタ財団には、基本となる「国内」「研究」「国際」という三つの助成プログラムがあり、それぞれを皆さん3人が担当しています。それとは別に特定課題という枠組みのテーマを絞ったプログラムが二つあり、今年度からさらに一つ増えることになりました。まず、すでに始まっている特定課題プログラムについて、加藤さんからお願いします。

加藤慶子(かとう・けいこ)
◉ 加藤慶子(かとう・けいこ)
研究助成プログラム、特定課題「先端技術と共創する新たな人間社会」グループリーダー

研究助成プログラムと特定課題「先端技術と共創する新たな人間社会」について
加藤 特定課題の「先端技術と共創する新たな人間社会」、これは今年でもう7年目になります。研究助成プログラムからのスピンアウトという形で2018年から始まり、19年からは一つの独立したプログラムとなって、現在まで続いています。

先端技術、主にはデジタル技術に焦点を当てていますが、それらの技術開発は欧米諸国が先導するかたちで急速に発展し、日本でも様々な技術がビジネスにだけでではなく人々の生活にまで浸透してきた一方、技術を利活用する上での課題や、社会に及ぼす影響など、世界に比べてまだまだ議論が進んでいないのではないかという問題意識がありました。そこで、財団としても、この領域で何か支援しようと始めたと聞いています。

とはいえ、先端技術に関する助成は、既にいろいろなところで行われていました。そこで、このプログラムでは、技術開発そのものではなく、ある技術を社会に役立てていくにはどういう問題があるのか、どういうことに気を付けなければいけないのかなど、技術にまつわる倫理的・法的・社会的課題や、技術と人間のかかわりに関するプロジェクトを募集することにしました。このような議論を日本国内でもっと活性化させることも重要だと考えたのです。

羽田 ありがとうございます。先端技術と社会の両方を視野に入れている人が非常に少ない。先端技術を開発している人と社会の倫理や法律などについて考えている人たちとの間になかなか接点がない。よほど互いに意識して付き合わないと駄目だということですね。このプログラムが両者を結び付けることに貢献しているといいのですが、実際問題としてはどうなのでしょうか。

加藤 おっしゃる通りで、今日の複雑な社会的課題に挑むには、文系理系の研究者はもちろん、実践者や当事者も巻き込み一緒に議論していくことが大切だと考えています。私たちができることとして、ネットワークづくりのお手伝いを積極的にしています。

たとえば、実施報告を兼ねた公開ワークショップや、プログラム横断で助成対象者限定のカフェミーティングなどの開催です。普段交わらないような人とディスカッションできる場を提供させていただいています。そこからつながって、一緒に活動されたり、共同研究に発展したりというような話も聞いていますから、そういう点では少しお役に立てているかもしれません。

羽田 将来的な展望としてはどうですか。

加藤 自分たちでは、未来社会に向けて可能性を秘めたプログラムだと思っているのですが、年々、公募件数が減っていることにやや懸念を抱いています。選考委員の先生方にも相談した際、このテーマで共同研究を組むのは結構ハードルが高いのではないか、というご意見をいただきました。

そこで一つ新しい試みとして、2年前に個人研究の募集を始めました。まだ共同研究チームを作るほどではないけれども、個人でちょっと面白いアイデアがあるので試しにやってみたいという人を応援しようというものです。それがうまくいって、2年後、3年後に共同研究に発展させられれば、とても理想的なかたちになります。独創的で挑戦的なアイデアを持っている人たちに、このプログラムを広めていきたいと思っています。

羽田 分かりました。次は利根さんに「外国人材の受け入れと日本社会」についてお聞きしましょう。

利根英夫(とね・ひでお)
◉ 利根英夫(とね・ひでお)
国際助成プログラム、特定課題「外国人材の受け入れと日本社会」グループリーダー

国際助成プログラムと特定課題「外国人材の受け入れと日本社会」について
利根 「外国人材の受け入れと日本社会」という特定課題のプログラムは、2019年から始まっています。その前段階として、2010年代の始めぐらいから、アジア全体をカバーする国際助成プログラムのなかで、アジアにおける人の移動を一つの大きなテーマとして捉えてきたことがあります。それによって、研究者やNGO等の人脈、各国の状況などの知識が、国際助成プログラムの担当PO(プログラムオフィサー)のなかに、ある程度蓄積されていたのが、現在も活かされています。

転機になったのは、2018年。日本の政策がかなり抜本的に変わりました。それまでは、外国人は基本的には長期では受け入れないという政策で、日本社会にもそういう空気は多分にあったと思います。ところが、特定技能という制度ができて、移住労働者を受け入れるという姿勢にがらりと変わりました。一番大きな要素は、やっぱり産業界での危機感だったと思います。今では、人材不足・人口減少という観点で、外国人労働者に関わることをメディアで目にしない日はないのでは。

日本に外国から来る人たちにはさまざまなチャレンジがあります。生活面での支援に関わる人たちは大勢いますし、歴史的にも積み重ねがあって、かなりの知見がたまっています。産業界の人など、新しい方たちがこの関係性のなかに入ってきていますが、今まで外国人を支援の対象として見ていた人と、労働者として見る人、それぞれの持つイメージは異なるのではないでしょうか。

我々の助成プログラムでは、外国人を支援する活動に対して助成をするわけではないことは、かなりはっきりしています。国際助成プログラムも基本的には同じ考えですが、調査研究をする人たちと、いわゆるNGOやNPOと呼ばれる人たちと、さらにできれば行政や産業に関わる人たちが、一緒に取り組むプロジェクトに助成をします。

2024年度で6年目になりますが、そのあいだに難民支援も含めた外国人支援のプログラムを実施する組織は、トヨタ財団以外にも増えてきているのではないでしょうか。我々の助成先には、教育に関わるものもありますし、医療関係のもの、自治体の相談窓口に焦点を当てたものや、高度人材や企業経営に関わるものもあります。労働も含めて、人の生活全般にアプローチしているといえます。そうした取り組みの幅が広い助成先の方々を集めて、お互いの取り組みやネットワークを共有するための情報交換会も実施しています。

羽田 どのような領域でも異なったフィールドで活動する人たちがいます。「外国人材」の分野では、そのような異なったアプローチをとる人たちの組織化が進みつつあるようです。

先ほどの加藤さんとの話に戻りますが、技術開発をしている人たちと、社会の倫理や法律とを考えている人たちの協働がなかなかうまく行かないのはなぜなのでしょう。

加藤 なぜでしょうね。

利根 積み重ねの違いはあるかもしれません。移民に関わることは、日本でも100年単位の取り組みの歴史があります。時代や地域によって異なることがあっても、各地で何十年も支援活動に取り組んできた方や、研究によって得られた知見があります。もちろん、われわれが見つけられてない人もたくさんいるはずですが、そこにリーチしやすいことは影響しているかもしれません。

50年後の人間社会を展望するために、わたしたちのできること
武藤良太(むとう・りょうた)
◉ 武藤良太(むとう・りょうた)
国内助成プログラム、特定課題「人口減少と日本社会」グループリーダー

国内助成プログラムと特定課題「人口減少と日本社会」について
羽田 試みが新し過ぎるのかな。時間がかかるのでしょうね。でも、たとえば自動車づくりが先端技術だった時代もあったわけでしょう。この新しい技術が社会にうまく組み込まれるように道路や標識、保険などが整備され、道路交通法ができ、社会のいろいろな面が変わってきました。そこには当然異なる分野の人々の協力関係があったはずです。とすると、先端技術であるAIやITの開発者と人間とその社会について考える人たちの協力関係がなかなか進まないことをどう考えたらよいのか。ここで答えが出るものではありませんが、おっしゃることはよく分かりました。

これに続いて、もう一つ「人口減少と日本社会」という新しい特定課題を立ち上げることになりました。これはまだ始まっていないので、その目的や経緯、それから将来どういうことが可能になると考えているのかといったことを武藤さんからお話しいただけますか。

武藤 「人口減少と日本社会」は今年度から始まりますが、国内助成プログラムでは2004年度から地域社会に焦点を当てたテーマや枠組みで実施し、2014年度に見直しを行った際の募集要項の趣旨にも「人口減少や少子高齢化の社会における地域社会の持続可能性」といったことを謳っており、根本部分は以前からの問題意識にひも付くものと思います。ただし、国内助成の場合は「まちづくり」といったもう少し幅広い構えになっており、必ずしも人口減少のことを中心に据えたプロジェクトばかりにはなっていません。本プログラムでは、人口減少時代を生きる現在の若者や次世代の方々に焦点をあてながら、これからの日本社会の在り方を考えていくというのが立ち上げの経緯にあります。

国内助成では「実践」が各プロジェクトの中心的な取り組みとなりますが、本プログラムの場合は調査研究と提言に取り組むプロジェクトが対象となります。NPOや市民活動の場合は、目の前に困っている人がいたり、放っておけない問題があったりすることに対する使命感やパッションなどに基づいて始まるものが多いですが、社会全体を見渡した時に類似の取り組みが多数あるといった状態にもなりがちです。それが悪いわけではありませんが、人口減少や少子高齢化に対する取り組みは国レベルから民間レベルまで既にさまざまなものが行われてきていることから、既存の取り組みの効果や成果、意義などの検証や分析に取り組んだ上で、未来に向けた提案や提言を行っていくことが重要であると考えます。ただし、国内助成プログラムからのスピンアウトということも踏まえて、調査研究と提言に加えて、その結果に基づく試行や実践に取り組むことも可としています。

加えて、先ほど述べた2014年度から実施していた国内助成プログラムのテーマには「未来の担い手と創造する」というワードが入っていましたが、本プログラムにおいても、まさに人口減少下を生きる世代がどのように考えて社会を創っていくか、社会を変えていくと良いかを大事に考えています。30年後、50年後といった将来を見据え、今現在、あるいはこれから生産年齢人口であったり子育て世代になっていったりする方々の視点に立ち、なおかつ、若者や次世代の方々の主体性に期待することも打ち出しています。

国内助成プログラムにおいても、地域のコモンズに着眼したり、新しく生まれ変わらせてみんなが関われることに取り組んだりするという応募が近年増えていますので、本プログラムの応募とも一定程度オーバーラップするところが出てくるかもしれません。その点については、実際にプログラムを運営しながら国内助成にもフィードバックしながら、二つのプログラムをすみ分けつつ、良い連関性も生まれていくとよいかと思います。

羽田 正(はねだ・まさし)
◉ 羽田 正(はねだ・まさし)
公益財団法人 トヨタ財団 理事長

民間の一財団としてできること
羽田 ここ数年の間にこの三つの特定課題がトヨタ財団の助成プログラムに加わったのですが、テーマは相互に関連しているように見えます。重要なキーワードは「人口減少」と「日本社会」で、人口減少が続く日本社会が抱える経済や社会的な問題の解決に資するために、外国人の受け入れを考え、先端技術の導入に思いを巡らすといった具合です。

そういう意味では、この三つの特定課題はばらばらなものではなく、相互乗り入れがあってもよいでしょう。そのときに、課題はこの三つだけか、ほかに問題解決に必要な観点や方法はないか、あるいは、まったく別の新しい課題はないかといったことについて、何か意見はありますか。

利根 人口減少の話は、理事長のおっしゃったとおり、たとえば外国人の受け入れと同じ話に、別のスポットライトの当て方をしているだけともいえます。日本において外国人の受け入れを考えることは、実は外国人のことであるかどうかは本質的な問題ではないように思います。人口が減少するなかで、各地域コミュニティーと呼ばれているものの形が変わっていく、ではどうしようか、という。

「日本社会」といったときに国家全体なのか、ある地域のことなのかは分かりませんけども、特定のエリアのなかで、過疎化や都市化で人口構成のバランスが変わり、外国の人が多くなるかもしれないし、年齢層も変わっていくかもしれない。そこで社会をどう維持していくのか、ということではないでしょうか。

武藤 トヨタ財団はやはり民間の一財団で国のシンクタンクや関係機関ではないので、たとえば人口減少社会における政策や制度をトヨタ財団がつくっていくかというと、そういう話ではないと思います。国レベルで取り組まなければいけない課題はもちろんありますが、その際に社会を捉えるまなざしや視点は多様な方が良いと考えており、民間や地域に暮らす人、研究者も民の人に入ると思いますが、その視点から大事なものであったり、見過ごされてはいけないものであったりをしっかり捉えていくことが大事だと考えます。

また、いきなり国家の政策を変えるような規模の金額を助成できるわけではないですが、一つの地域社会のなかでは大きな影響をもたらす調査などはできるかもしれません。それぞれのプログラムが外から見ると多少区別しがたいところがあるかもしれませんが、まったく別々のことを掲げたプログラムが乱立するよりも、全体としてトヨタ財団ではこういうことを大事にしているという理解につながるのではないかと思います。

加藤 先端技術と人口減少をダイレクトにつなげて説明することはあまりないのですが、たしかにこれまで人間が行ってきた労働や創作活動が、ロボットやAIなどに代替される社会背景には人口減少の問題もあると言えます。プロジェクトを通じて、そこで直面する社会課題に向き合うことは重要ですが、それだけではなく、その先の人間と技術が共創する未来社会に、どんな景色を描いているのかも見せてもらいたいと思っています。

トヨタ財団の今までのプログラムの変遷を見ても、根底では「暮らし」とか「命」みたいなものを大切にしてきたと感じています。人口減少をはじめ、今日の日本が抱える社会的課題と、わたしたちの未来、明るい社会や豊かな暮らしをどのようにリンクさせて考えていくかが大切なのかなと思いました。


「50年後の人間社会」に向けて網をかける
羽田 注目すべきは、三つのプログラムともテーマ名に「社会」が入っていることです。トヨタ財団がいかに人々の命や暮らしを重要だと考えているかということですね。ただ、わたしは「日本」にやや焦点が当たりすぎているかもしれないとも感じています。

トヨタ財団は元来日本に関わる問題だけを扱っていたのではありません。人間一般のより一層の幸せを目指してきたはずです。現在、日本では人口が減少していますが、世界的に見れば人口が増加しているところもあります。その意味で、現代日本における課題が世界的な課題であるかどうかは明言できない部分もあるわけです。目に見える効果的な助成を行うためには、現在のテーマ設定が適切であることは確かです。しかし、一方で、50年後の「人間社会」を展望したときに、この三つのテーマだけで十分なのだろうかと考えてしまいます。日本だけがよくなり、世界全体がよくならなければ、それは問題です。そもそも、これから50年後に、日本という主体が存在するかどうかも分かりません。

現代日本の課題を直視する三つの特定課題は、高い問題意識に基づいて設定されており、これはこれでよいと思います。ただ、50年後の人間社会全体を展望するなら、異なる角度からのアプローチを要する少し毛色の変わったテーマがあり、それをトヨタ財団が助成するということもありえるでしょう。これはあくまでもわたしの考え方ですが……。この点について何か意見はありますか? たとえば、もともと東南アジアと国際助成の関係は強かったのですよね。

利根 そうですね。国際助成の考え方として、国民国家としての日本を起点に置いていません。特別に意識しているわけではありませんが、時間的にも、10年や20年じゃなくて、数百年単位の時間軸で見ています。東南アジアの歴史を見ても、国家の境界線は揺らぎます。国民国家の視点の良し悪しではなくて、国境で区切って別々に考えるよりも、アジア全体を俯瞰して、この地域で共有している課題や思想がある、という視点です。いまは国境があって違う国ということになっているけど、首都より隣国のほうが近いとか、もともと違う国だったとか、親戚はすぐ隣村にいるけどそこは外国だ、祖父母は◯◯から来たから自分は◯◯系の■■人、みたいな人たちとのお付き合いが多いことも影響しているかもしれません。これは日本にいるだけではなかなか得られない視点ではないかと思います。

助成の考え方については、魚釣りの例を挙げます。的を絞った一本釣りじゃなくて、幅広いところに網をかけるような方法もあると思っています。そうすると、おそらく狙っていない種類の魚、大きい魚も小さい魚も見つかるでしょう。広く探るようなやり方でやってみて、ここが大事だ、こういう人たちを応援するべきだ、と思ったものにフォーカスを当てたプログラムにつくっていくっていうような、両方のバランス感覚も重要ではないでしょうか。それに、民間の助成財団としてはもうちょっと長期の視点、10年、20年じゃなくて、100年、200年、あるいはそれ以上のすごく長い時間軸で何かをやり始めてもいいのではないかなという気がします。とくに「研究」では、そうした視点が必要ではないでしょうか。

羽田 50周年記念助成プログラムの「50年後の人間社会を展望する」では、いま利根さんがおっしゃったような網を広くかけるということはできそうですね。50年後に社会をリードしている若い人ということ以外、申請者の制限はありません。そこには、世界中の若い人にわれわれ年長者が気付かないような斬新な企画を出してもらおうという意図が込められています。

「50年後の人間社会」は、テーマとしてはすごく難しいと思います。それは誰にも明確には分からないでしょう。トヨタ財団が設立された1974年の日本では、増え過ぎる人口をどう制限すればよいかが議論されていました。それから50年後のいまは物価が上がり、人口は減って当時とはまったく逆のことが問題になっています。

ただ、別の見方をすると、人口と物価は50年前も今も変わらずに重要だとも言えます。しかし、次の50年はどうでしょうか。それに、時間の進み方、あるいは、社会の変わり方の早さは、過去50年と比べるとこれからの50年の方が圧倒的に早いでしょう。ですから、50年後の人間社会がどうなっているかは簡単には分からないとしか言いようがない。私たちだけで話していてもきりがないし、出るアイデアは限られています。だからこそ、広く世界中の人々に声をかけ、独創的で魅力的な、そして建設的な企画を求めてみたいと思うのです。
現代においては、世界の人々はさまざまにつながっているのですから、選考の対象は当然日本に関わるプロジェクトだけに限るわけではありません。この50周年記念助成プログラムが、広く網をかけるかたちで、先見性に溢れたすぐれたプロジェクトを見つけ出すことができるといいなと考えています。

武藤 私は50周年記念助成も担当していますが、募集要項の作成などを進める過程で参考資料や文献なども読んでいます。理事長がおっしゃった話に直接つながるかは分かりませんが、言葉としてよく言われているのは「グローバル化」だけど、多くの人が望んでいる姿を意味しているのは「国際化」であるという議論が交わされている記事を読みました。それぞれの国家ごとの文化や慣習、そこに暮らす人々の価値観をまず尊重したうえで他者との関係性をどう築くかということが国際化という言葉には包摂されているということでしたが、これは多文化共生や多様性といったことにもつながっていく話だと思います。

50周年記念助成でどのような応募案件が出てくるかは分かりませんが、それぞれの文化や国の在り方などを大事にしながら、その中で取り巻く状況や環境的に先を進んでいる国があれば、これから厳しい局面を迎える国もあるので、そこで互いに学び合いながら自分たちの在り様をアレンジして乗り越えていこうといった企画も出てくると思います。

そのときには当然、日本の中からだけの視点では見えてこないものや語れないものが多分にあり、外から日本を見たり、日本を通じて外を見たりという双方向の関係性の中からトヨタ財団としての今後のプログラムや考え方などにもつなげていければと思います。国内助成プログラムは国内での取り組みが対象になりますが、海外に視察に行き、そこでの学びを対象地域での活動に活かしていくことやそのための予算も禁止にはしていません。50周年記念助成もテーマは広く大きいため、オープンマインドな企画や提案も助成できるとよいかと思います。

加藤 ベースにある考え方としては、研究助成プログラムと同じなのかもしれません。研究助成は2021年度から新テーマになりましたが、それを考える際にも、分野・領域を絞るか絞らないのかをかなり議論しました。結局「つながりがデザインする未来の社会システム」という大きなテーマを設定し、何が課題なのか、何をどう検討すべきなのかは、応募する方たちから提案してくださいというスタンスにしています。

今回の記念助成も多分同じようなメッセージが込められているのではないでしょうか。潜在的にあるけれども、私たちがいま気付いていない、もしくは多くの人たちにはまだ知られてないものを、応募する方から提案してくださいっていうことなのかなと考えています。先程、広く網をかけるという話がありました。多種多様な提案が来るのは喜ばしいと思うのですが、他方で難しいと思うのは、たくさんの応募案件の中から、本当に大切なダイヤの原石のような提案を、わたしたちはきちんと見定められるのかということです。

記念助成の選考委員の先生方は、さまざまな分野の方にお引き受けいただいていると聞いています。50年後の社会がどうなっているかは分からないですが、50年前のタブーが今では当たり前になっていることもあると思うので、独創的で先見性のある企画を選んでいただきたいと思います。そして数十年後に「あの時に、あのプロジェクトを応援してよかったね」と振り返ることができる日がくるといいなと思っています。

50年後の人間社会を展望するために、わたしたちのできること

公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No.46掲載
発行日:2024年10月25日

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