山本晃宏(トヨタ財団常務理事)
昨年の9月にトヨタ財団に着任してから、早いもので3か月の月日が経過しましたが、こういった助成団体に関わる仕事に従事したことがなかったので、日々、見聞きすることが自分にとっては全く初めてのことばかりで、非常に興味深く新鮮に感じています。
たとえば、非営利で社会貢献に取り組む民間団体の発展を促す特定非営利活動促進法(NPO法)の施行から20年以上が経過し、内閣府の集計によると、2018年6月末時点のNPOの数が5万を超えて存在していることや、(公財)助成財団センターが把握している助成財団が2千を超えて存在していること、またその中に多くの企業系財団があるということですら、恥ずかしながら全く認識がありませんでした。
そのような状況ですから、それぞれのNPO法人や助成財団の活動目的・分野が、学術・研究、教育、医療・保険、福祉、文化・芸術、国際、育英・奨学等、多岐に渡っているということや、具体的にどのような社会的意義のある活動を展開されているかということも、ぼんやりとした認識しかありませんでした。
ただ、そういう認識が自分自身になかったのは、あくまで自身の知識不足や興味不足だけなのかと振り返って考えた時に(もちろんその側面は否めませんが……)、そもそもそういった活動に関する情報が十分に多くの方々に届いているかという疑問に行き当たります。
それぞれの団体で広報活動自体は展開されているとは思いますが、より良い活動を持続、発展させ、新しい担い手を育てていくという観点からも、社会に理解・認知され、受け入れられるための広義のコミュニケーション活動を今まで以上に積極的に実施していく必要があるのではないかと考えます。
そしてその際に重要なことは、これは自戒の念も込めて思うことですが、コミュニケーションとは「伝える」ことではなく、「伝わった」ときに、はじめてコミュニケーションが成立したと言うことができるということです。
だから、コミュニケーションを取る際は、必ず「受け手」の視点に立って考える必要があり、自分が言いたいことをそのまま言葉にするのではなく、受け手が理解しやすく、記憶に残りやすく、実行に移しやすいように工夫をする。このプロセスに細心の注意を払ったうえで実施することが肝要だと思います。
トヨタ財団では1974年の設立以来、時代に応じてさまざまな助成プログラムを立ち上げ、助成を行ってきましたが、本年度からはどのプログラムも基本、①社会的意義が大きいこと、②内外の課題を先取りするものであること、③未来志向であること、④持続可能性、発展可能性があること、⑤波及効果が期待されることを満たすプロジェクトを助成対象としており、特に④⑤に関しては、来年度以降、その実現の一助として、我々自身が、助成の結果どのような成果が得られたのか、最終報告に加えて数年後の状況も必要に応じ開示していく「仕組みづくり」や、「場づくり」の実施を検討していく予定にしており、その際には先に述べたような「伝わる」コミュニケーションを心掛けていくつもりです。
最後になりますが、昨年から元号が変わり新しい「令和」の時代に入りました。
この「令和」がどういう時代になるのかは分かりませんが、トヨタ財団は、今後も「人間のより一層の幸せを目指す」という設立趣意に沿い、自信と希望に満ちた社会を作るための一助となるべく、助成活動を行ってまいります。
引き続き皆様方からのご支援とご協力をどうぞ宜しくお願い致します。
公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No.32掲載
発行日:2020年1月24日