公益財団法人トヨタ財団

OPINION

08 2013年度国際助成プログラムを振り返って

青尾 謙(トヨタ財団プログラムオフィサー)

プログラムオフィサー

トヨタ財団では2013年度より、それまでの「アジア隣人プログラム」にかえて新たに「国際助成プログラム」を開始しました。1年目を実施して私たちが学んだこと、感じたことについてご報告させていただきます。

新しい国際助成プログラムの基本的な考え方は「日本とアジアの共通の課題をともに考え、互いの違いから学びあっていこう」というものです。始めた時点では、なかば仮説に近いものでしたので、本当にそういった関係が成り立つのか、正直不安な点もありました。

パイロットプログラムとして1年間、日本と東南アジア4か国*1における政策提言型プログラムを実施することになりました。テーマは3つ、高齢化、多文化、そして身近な環境をめぐる合意形成です。公募ですが応募者の方には事前相談を必須とし、選考の過程で一部の方には現地訪問も実施するなど、いろいろなこころみを行ってみました。

3テーマに関する活動や研究の現場を見る機会が増えるにともなって、さまざまなことが見えてきました。たとえば高齢化についていえば、東南アジアのタイやインドネシアでも予想以上に高齢化が進んでいます。地域によっては2割超が「高齢者*2」のところもあります。各国の政府も予算を割いて、健康保険や社会保障を取り入れようとしています。

タイ高齢者グループ活動風景
タイ高齢者グループ活動風景

しかし、それは日本におけるような制度ではありません。高齢者がそれだけで食べていけるような年金ではなく、またお金のかかる施設介護や介護保険制度というかたちをとることは最初から考えていないようです。それにかわって、「地域で高齢者をケアする」方法を各国が模索しています。

東南アジアの農村部では、今でも地域の人たちが当然のことのように、高齢者の家を訪れ、話相手になったり、買い物をしたりしています。あるインドネシアの人はこういいました。「私たちは高齢者の世話を一人だけに任せたりしない。家族や友人や地域の人、みなでケアするんだ。ゴトン・ロヨン(助けあい)さ」

もちろん東南アジアもこんな地域ばかりではないのですが、これから超高齢化時代を迎え、高齢者を地域で支えなければならない日本にとっても、大いに学ぶべきものがあるように思います。そういった経験を重ね、今回のプログラムの考えに手応えがあったことを感じることができました。

現在助成させていただいている20のプロジェクトのそれぞれから、各国内だけでなく、他国にとっても学べるものが出てきた場合、それをどのように伝えるかが次の課題になります。トヨタ財団のプログラムが東南アジア各国と、日本や他の東アジアの国々をどう結ぶことができるか、2014年度はそのことにも取り組みたいと思います。

高齢者ボランティアによる戸別訪問
高齢者ボランティアによる戸別訪問

2014年度もパイロット・プログラムを1年延長し、公募プログラムを実施します。既に2013年末からテーマ別の研究会を立ち上げ、有識者や実務者の知見をいただいていますが、2014年度には更に、助成対象者の方々や各国での関係者をつなぐ「場づくり」としての国際会議やシンポジウム等を開催する予定です。そのなかでトヨタ財団としても、プログラムの成果やメッセージを発信していければと考えています。

そして今後は日本と東南アジアに限らず、共通の課題を持つもの同士の「学びあい」から、他人の痛みをわかちあう「共感」につなげていくことが、パイロットプログラムの「次」への出発点になるのでは、と感じています。今後も試行錯誤しながら新しいプログラムを作っていくことになると思いますが、皆さまからもご意見をいただければ幸いです。

*1
日本以外はインドネシア・ヴェトナム・タイ・フィリピンの各国です。
*2
日本と違って55歳以上を高齢者としているので、日本の状況とは対応しません。
写真提供:FOPDEV

公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No.15掲載
発行日:2014年4月22日

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