公益財団法人トヨタ財団

活動地へおじゃまします!

28「交流する機会の一つひとつの芽吹きに期待して」愛知県知立市を訪ねて

交流する機会の一つひとつの芽吹きに期待して

取材・執筆:鷲澤なつみ(プログラムオフィサー)

[訪問地]
愛知県知立市
[助成題目]
2023年度国内助成プログラム
「多様化社会を繋ぐ地域の文化交流の場づくり―池鯉鮒大田楽」

交流する機会の一つひとつの芽吹きに期待して

みなさんは「多文化共生」という言葉から、どのような社会をイメージされるでしょうか。総務省によると、「多文化共生」は「国籍や民族などの異なる人々が、互いの文化的ちがいを認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の構成員として共に生きていくこと」と定義されています。しかしながら、この「地域社会の構成員として共に生きていく」という状態に達するには、まだまだ課題も多く、長い道のりを要するのが実態です。

法務省の外局である出入国在留管理庁(入国手続きや在留手続きなどの問い合わせ対応等を行う機関)の資料によると、令和6年6月末現在、日本国内に在留する外国人は350万人を超え、過去最高を記録しています。そして、年々増加の一途をたどる外国人居住者の方々との共生の在り方は、特に多くの在留外国人数を有する地域において、重要な問題となっています。

今回は、そのような地域の1つであり、在留外国人数が東京都に次いで2番目に多い愛知県の中でも外国人比率(人口に対する在留外国人の割合)が高いとされる知立市を訪れました。

歴史ある街で国籍を超えた仲間づくり

2024年4月に開催された「池鯉鮒大田楽」の一コマ
2024年4月に開催された「池鯉鮒大田楽」の一コマ

愛知県の中部に位置する知立市は、人口72000人弱の町で、古くから交通の要衝として知られ、江戸時代には東海道の宿場町(池鯉鮒宿)として栄えた歴史があります。自動車産業が盛んな地域で、名古屋市内からも近く、アクセスも良好なことから、ベッドタウンとしても人気がある地域です。

参加させていただいたイベントの舞台となった「知立団地」はまさにそのような流れを受けて日本住宅公団(現:UR都市機構)によって造成された団地ですが、2000年代に入ってからは、日本人入居世帯の高齢化率が上昇するとともに、主に自動車産業等に従事する外国人労働者の空き部屋への流入が増加し、団地全体の人口構造に特異な動向が見られることでも有名です。

また、知立団地内にある「知立市立東小学校」も、外国人児童の増加に伴い、平成10年頃より日本語教室が校内に設置され、現在では外国人児童の比率が約60%となっています。このような地域であることから、団地の自治活動を担う主体として外国人の方にも積極的に関わっていただくべく、団地に多く居住するブラジル人の方をはじめとした外国人住民にも団地の自治会に参加してもらったり、団地内の盆踊りもブラジルの方などが参加しやすいようにアレンジされたり、公と民の双方からさまざまな形で文化交流や関係性の構築が進められてきてはいますが、旧来からの日本人住民との融和は依然として課題となっています。

本プロジェクトの運営の中心を担う「特定非営利活動法人ACT.JT」は、長年にわたり各地で市民参加型のワークショップを通じて「大田楽」を実施してきており、各地に「大田楽仲間」を育んでいます。「大田楽仲間」は、文字通り「大田楽を一緒にやる仲間」ですが、子どもや高齢者の居場所になったり、青少年を地域の担い手として育んできたり、多様な人々の居場所や拠り所、人材育成の場として大きな役割を果たしてきました。「池鯉鮒大田楽」もこのような経緯を経て知立市にて誕生した大田楽であり、年に1回開催している「池鯉鮒大田楽」は、地元の「池鯉鮒大田楽の会」という大田楽仲間で立ち上げられた団体を中心に現在も活動されています。

今回のプロジェクトは、この知立市内で活動する「池鯉鮒大田楽の会」と日本各地で日本の伝統的な文化芸術の活性と振興を図ることを目的に活動する「特定非営利活動法人ACT.JT」の関係者で組成されたプロジェクトチームが核となり、2023年度より知立市内を対象に、文化交流の場づくりを通じた多国籍による「大田楽仲間」づくりに取り組んでいます。
 

仮面を作ってリズムにのってパレードしよう!

イベントチラシ
イベントチラシ

今回おじゃましたのは、「多様化社会を繋ぐ地域の文化交流の場づくり」の一環でこれまで実施してこられたワークショップの6回目にあたる企画「PercussionWorkshop~仮面を作ってリズムにのってパレードしよう!」です。会場となった知立団地内の集会場には、受付開始とともにたくさんの親子連れが訪れ、日本人とブラジル人の子育て世代(主に幼児)を中心に、全体で45名近い参加者がありました。

ワークショップは、セネガル出身のパーカッション奏者ラティール・シーさんによるジャンベの演奏と、特別ゲストとして参加されていた三味線奏者の山尾麻耶さんとラティールさんの協奏(沖縄民謡)、お面づくり、パレード(お面を付けてリズムに合わせて近隣の公園まで歩く)という3部構成で実施されました。

第1部の演奏では、はじめにラティールさんのジャンベの演奏を聴きました。想像以上に大きな音で会場に鳴り響くジャンベの音に、はじめは子どもたちもとても驚いていた様子で、目を見開いて隣近所の人と互いに顔を見合わせていましたが、次第にラティールさんの柔らかな人柄と軽快なジャンベのリズムに魅せられ、自然と手拍子を取る姿も見られました。お次は山尾さんの三味線の音色(沖縄民謡)です。三味線の独特なリズムと山尾さんのかけ声に合わせて、その場でカチャーシー(沖縄民謡の演奏の際に合わせて踊られる踊り)を真似た踊りをみんなで見様見真似で踊りながら、沖縄の楽器とリズムを楽しみました。ブラジル人の方の中には、リズムこそ違いますが、サンバのリズムに近いものがあるのか、とても軽やかに三味線のリズムに合わせて踊られている方もいました。そして、最後にはラティールさんのジャンベと山尾さんの三味線の音に合わせて、参加者みんなでその場で自由に踊ったり、手拍子をとったり、言葉の壁はありつつも、共通体験をすることで、場が温まっていく姿が垣間見えました。

第2部のお面づくりでは、通訳の方が手順を英語で説明しながら、子どもを中心に、紙皿をお面に見立て、シールやモール、クレヨンやペンなどを用いて、お面づくりを行いました。制作にあたっては、ブラジル人コミュニティの生活支援をされているボランティアの方もサポートに入り、子どもたちの声に耳を傾けながら、お面に張り付けるパーツについて相談を受けたり、足りない材料がないか確認したり、お面づくりのお手伝いをされていました。どのお面も同じ紙皿を土台にしているわけですが、使うパーツによっていろんな表情を演出することができ、どのお面も個性にあふれ、子どもだけでなく、大人もこだわりの作品を時間ギリギリまで作られていました。そして、早めにお面が完成した人たちは、一足先に休憩時間に入っていましたが、その間もジャンベの音が集会場に鳴り響き、自然とブラジル人の参加者たちがリズムに乗ってサンバのステップを踏み、それを周りの参加者が手拍子で盛り上げ、参加者同士楽しそうに過ごされていた姿がとても印象的でした。

お面が完成すると、いよいよ第3部のパレードです。この日は季節外れの強い日差しが注ぎ、外に出て少し歩くと汗ばむ陽気でしたが、パレードの参加者は足取り軽く、各々に制作した個性豊かなお面を身に着け、近くの公園までジャンベのリズムや三味線の演奏に合わせて歩きました。集会場から公園まではおよそ150メートルほどでしたが、ラティールさんや山尾さんを先頭に、自分たちの作ったお面を身に着けて歩くという体験は、不思議と第1部や第2部では交わりが少なかった参加者同士の一体感を高めていたようにも感じられました。公園で遊んでいた人や団地周辺の方たちは、突然のことに驚かれている様子も見られましたが、遠巻きにパレードの様子を見ては笑顔で子どもたちに手を振ってくれていました。公園に到着すると、休憩時間同様に、参加者はジャンベと三味線のリズムに合わせてサンバを踊ったり、それを見ている観客や子どもたちが手拍子を送ったりするなど、大いに盛り上がりました。
 

当事者視点のサポートで共に地域を育む

今回のイベントの開催にあたっては、知立団地内に拠点を構え、知立団地に居住する外国人の生活支援を行っている「合同会社スタートアイズ」の代表を務められているミウラ・ダ・シルバ・クミコさんという方の協力がとても大きかったそうです。「合同会社スタートアイズ」のボランティアグループ「OnedayOnelife(学習支援やフードパントリー等を実施)」のボランティアさんたちが窓口役となり、少しずつ団地内の外国人居住者への情報発信や参加の呼びかけが可能となっているそうで、今回のイベントの実施に際しても、クミコさんのお声がけで参加してくれた方が多数おられました。

これまでプロジェクトチームで実施してきたイベントでは、当日にならないと来るか来ないかがわからなかったり、来ると言っていたのに来なかったり、突然連絡なしに来たり、次回以降の案内を送るために連絡先を訪ねても連絡先や名前を告げずに帰ってしまったりと、さまざまなハードルからイベントへの参加を通じて定常的な関係性を育んでいくことの難しさにも直面していたそうですが、クミコさんのように、当事者の視点を持たれた支援者の協力・サポートがあることで、外国人の方の(イベントに対する)心理的ハードルが軽減されたという点はとても大きかったのではないでしょうか。

言語も文化も風習も異なる人々が、互いの違いを認め合い、地域の構成員として共に活動できるようになるまでには、長い期間を要するということは容易に想像できますが、今回のような種まき的な活動がなければなかなか芽も出なければ花も咲きません。何気ない日常の中で、互いの文化や考えの違いに触れ、交流する機会が一つ二つと地域内に増えていくことで、地域を共に築いていく仲間意識が次第に築かれていくことの重要性を改めて認識させていただいた機会となりました。そして同時に、それは「多文化共生」という外国人と日本人という関係性に関わらず、現代の他者との交わりが減りつつある日本各地のローカルコミュニティにおいても同様に求められていることのようにも感じられました。
 

公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No.47掲載
発行日:2025年1月24日

ページトップへ