公益財団法人トヨタ財団

活動地へおじゃまします!

27 「しゃべって、演じて、近くなる――みんなで考える共生社会への基盤づくり」北海道江別市を訪ねて

会場となったアンモナイトレストラン野幌店
会場となったアンモナイトレストラン野幌店

取材・執筆:武藤良太(プログラムオフィサー)

活動地へおじゃまします!

開催チラシは日本語表記と英語表記の2種類を準備
開催チラシは日本語表記と英語表記の2種類を準備

先日、ある研究者の方が「海外では“diversity”というと人種やルーツといった文脈になることを体験する機会がありました。日本の《ダイバーシティ》は意味や用いられ方がまた異なりますよね」と仰っていたことをふと思い出しながら、多文化共生を市民目線、草の根から考え、アクションにつなげていくプロジェクトを実施している「SHAKE★HOKKAIDO」の「みんなでつくる多文化えんげきワークショップ in Ebetsu(第4回)」に参加をしてきました。

江別市は、北海道の県庁所在地である札幌市に隣接する人口12万人弱のまちで、農業・酪農に加えて製造業も盛んな特性や背景を持ちます。2010年代からは外国人の就労者の割合が増加し、近年の技能実習生の受入れも合わさり、現在は約900人の外国人住民が暮らしています。一方で、多くの地域に共通するように、日常生活を送る中で日本人と外国人、それぞれの住民の接点や交わりはごく限られており、今後の人口動向を見据えた際に共生社会の基盤づくりや相互の関係性づくりが非常に重要となります。

本プロジェクトチームの中心メンバー/組織の一つである「江別国際センター」では2018年度から日本語教室を開講していますが、多文化共生に向けた取り組みとしてはそれだけで完結・充足するわけではありません。そこで、本プロジェクトでは言語の壁を超えたコミュニケーションを可能にする「演劇ワークショップ」によるアイスブレーキングを入口とし、「草の根政策カフェ」の実施などを通じて当事者が対話を通じて自分たちに必要な共生策を考える機会を創出し、「住民コメント(パブリックコメント)の募集」「行政への提言」などにつなげていく計画を立てています。
 

[訪問地]
北海道江別市(アンモナイトレストラン野幌店)
[プログラム]
2022年度 国内助成プログラム
[助成題目]
演劇を通じて作り上げる!当事者による当事者のための草の根共生政策このリンクは別ウィンドウで開きます
[代表者]
平田未季

日本人と外国人の住民が出会う場所

今回お邪魔したのは、これまでに3回開催され今回が一区切りの第4回となる「演劇ワークショップ」=「みんなでつくる多文化えんげきワークショップ in Ebetsu」です。当日は現地の方からすると暖かいと言える1桁後半の温度の中、最寄り駅である野幌駅からバスで開催場所となる「アンモナイトレストラン野幌店」に向かいます。本店は20代後半のパキスタン人の店長さんが営んでいますが、本プロジェクトに関心を寄せてくださり、第4回のワークショップの会場提供のみならず、参加者には無料でチャイと3種類のナン(チーズ、ガーリック、チョコ)も振舞っていただき、僕もちゃっかり? 存分に? ご馳走になりました。

このワークショップは、日常的に接点のない日本人と外国人の住民が出会う場、そして一緒に地域社会を支え、一緒に暮らしていくためにどういったことが大事であるかを考える機会づくりです。ワークショップの構成は、【STEP 01】アイスブレーキング→【STEP 02】劇団の寸劇を見る→【STEP 03】 グループに分かれて話し合う→【STEP 04】他のグループの話し合いの結果を聴く、という4段階の構成になっています。
 

【アイスブレーキングの流れ 1】

[1]じゃんけん
[1]-1:「じゃんけん」を知らない外国人住民の方にルールを教える
[1]-2:納谷さんとのじゃんけんで、(後出しで)「あいこにする」「わざと勝つ」「わざと負ける」

[2]他の参加者とぶつからないように空間を埋めながら歩く
納谷さんからの掛け声に合わせて決められた動作を以下4つのステップに移しながら行う
[2]-1:「Go」→歩く、「STOP」→止まる
[2]-2:「Go」→止まる、「STOP」→歩く
[2]-3:「CLAP」→手をたたく、「JUMP」→その場でジャンプする、の2つが追加
[2]-4:「CLAP」→その場でジャンプする、「JUMP」→手をたたく、入れ替わる

[1]-2、[2]-2~[2]-4は、右脳と左脳を使うアイスブレーキングという解説があり、「直感的に判断していることを敢えて一回考えて違う行動としてアウトプットする」というところに参加者の皆さんが戸惑ったり思わず苦笑いして行動を変えてみたり、といった様子が窺えました。

参加者同士は言語の問題以前に、そもそも初対面の人同士がほとんどであるため、先ず参加者同士で打ち解ける仕掛けや工夫が重要となりますが、そこを担っているのが札幌を拠点に活動している「劇団ELEVEN NINES」を主宰する納谷真大さんや劇団員の皆さんです。

当日は、日本人10名、外国人8名(通訳役の方も含む)の参加者に劇団員3名が混ざり、非常にボリューミーで楽しいアイスブレーキングが展開されました。(本記事に掲載した写真と共に、当日の様子をお感じいただければ幸いです)

アイスブレーキングの後は、劇団員3名による寸劇となりました。ここでは、ある曲をカラオケで熱唱してみんなで盛り上がっていた……はずなのに、歌自体は「好き」「嫌い」「どちらでもない」という意見に割れたり、大雪で車がスタックしてしまい助けに来てもらった友人たちも次々とスタックしてしまう状況下でJAFを呼べばという提案に「お金で解決するのは嫌」「サービスを頼れば良い」という意見に割れたり、というこの後のグループディスカッションに向けたお題の頭出しがされました。
 

【アイスブレーキングの流れ 2】

[3]全員と自己紹介して、全員の名前を覚える
[4]挨拶した人と名前を交換し、5人以上と交換したら自分の名前(を持っている人)を探し出し、自分の名前を獲得できたら椅子に座る

[3][4]はディスコミュニケーションが起きていることを体感するアイスブレーキングで、[3]ではそれぞれの名前が正確に覚えられていなかったり発音できなかったり、[4]では何故か1人の名前を3人が持っていたり誰かの名前が行方不明になっていたり、カオスな状況を皆さん楽しんでいました。

[5]生まれ月(1月~12月)が一緒の人同士でグループに分かれる
[6]四季(春・夏・秋・冬)のうち好きな季節が一緒の人同士でグループに分かれる
[7]「犬が好き」or「猫が好き」、どちらが好きか一緒の人同士でグループに分かれる
[8]「愛は勝つ」or「愛は勝たない」、どう考えるかが一緒の人同士でグループに分かれる

[5]は事実に基づくもの、[6]~[8]は嗜好を問うもので、特に[8]は目に見えない事象をどう考えているか/どう向き合うか、という敢えて抽象度の高いお題が、ワークショップの【STEP 02】以降に向けた布石にもなっていました。

[9]青いボールがあるとイメージして隣の人に回す
[9]-1:最初に回したボールから重たくなる(1.5kgの仮定)
[9]-2:重たいまま熱くなる

多言語で書かれたカード
多言語で書かれたカード

そして、参加者が4グループに分かれて、チャイと3種類のナンを一緒に食べ飲みしながら、本日のテーマである「みんなで江別で一緒に生活するためには何が必要か」に紐づくトピックが記載された3枚のカードを手元に話し合います(3枚目のカードのみ後から配布)。ディスカッションの出口となる3枚目のカードには「困ったときには(1)お金で問題を解決できるまち、(2)みんなで助けあうまち、みなさんはどちらが住みやすいですか?」というトピックが記載されており、各グループで話し合った結論を最後に発表しました。今回はレストランの小上がり席で行ったため、その場で発表することが難しく、運営スタッフの他、劇団の方にも協力いただき、各グループの結論を聴き取り代理で発表する方式を採られていました。

最後の発表を聴きながら非常に興味深かったのが、カードには「(上記(1)と(2)の)どちらか1つに決めてください」と書かれていたにも関わらず、どちらかには決められないといった意見やどちらも重要(場面場面で選択できる方が良い)といった意見が挙がったことでした。参加者同士での話し合いのプロセスやそこから挙がった意見を尊重しながら対話がなされていた一端が窺えました。
 

【アイスブレーキングの流れ 3】

[10]手裏剣を隣の人に回す(飛ばす→キャッチする→飛ばす→……の繰り返し)、どんどん速く
写真を撮り忘れるほど皆さんのアイスブレーキングに魅入ってしまいました。[9]-2では手をつかわず洋服を風呂敷代わりにして受け取る方がいたり、[10]では納谷さんからの激励に応えて最後は1周するのに3秒を切るタイム設定を見事にクリアしたり、全員でイメージを共有しての協同が見られました。

[11]4グループに分かれてペーパータワー製作(2回)
[10]までを踏まえて実際の協同作業がアイスブレーキングのトリを飾ります。先ずは各グループでどうしたら高く積めるかを「紙を触らずに」=みんなでイメージをすり合わせながら、話し合う時間が取られました。その後にペーパータワー製作を行い、1回目の経験を基により高く積めるように再度話し合って2回目にチャレンジする流れでした。4グループ何れも1回目より高く積み上がっており(2グループは最後の最後で崩れてしまいましたが)、各グループともイメージをすり合わせた上で協力して取り組んでいらっしゃいました。

草の根での共生社会の基盤づくり

最後に、今回を含めた4回のワークショップの振り返りや今後に向けて、プロジェクト代表者の平田さんにお話をうかがいました。1回目は平田さんがまちづくり関係の取り組みや活動を行っている方々に声掛けをし、参加者のSNS等での発信などを通じ徐々に認知度が高まり、4回目となった今回は初めて直接の案内をしなくても定員まで参加者が集まると共に、定員オーバーでお断りせざるを得なかった方もいたとのことでした。

また、「劇団ELEVEN NINES」を主宰する納谷さんが、4月に札幌にオープンする劇場の芸術監督に就任することから、その劇場の活用などを含めて引き続きの協力関係を構築していくことや、今回の会場提供などに協力いただいたパキスタン人の店長さんとも、今後も規模は小さくともお店をお借りしてワークショップやイベントなどを開催していくことを相談中(前向きに検討いただいている)とのことでした。

各地域や日本社会が直面する人口減少や少子高齢化という大きな課題にも深く関わる多文化共生の取り組みにおいて、丁寧な対話とコミュニケーションから生まれる草の根での共生社会の基盤づくりがどのように展開していくか、改めて現地をおうかがいできる機会も含めて楽しみにしています。
 

公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No.45掲載
発行日:2024年4月12日

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