公益財団法人トヨタ財団

活動地へおじゃまします!

26「アジアの学生たちが現場で学び考える」カンボジア・シェムリアップを訪ねて

運河に面して家が並ぶ水上集落
運河に面して家が並ぶ水上集落

取材・執筆:笹川みちる(プログラムオフィサー)

活動地へおじゃまします!

2023年9月上旬、国際助成プログラムの対象プロジェクトの一環としてカンボジア・シェムリアップで開催されたユース・サミットにおじゃましました。助成プロジェクトは、アジア5か国(カンボジア、インドネシア、ラオス、韓国、日本)を対象に、各国の大学生が社会的に不利な現場を訪問し、教育支援を体験することで自国にある格差を認識し、共に問題解決をしていくことを目的としています。助成開始から約1年間、それぞれの国での活動とオンラインでの交流を進め、今回対面では初めての合同ワークショップとなりました。

プロジェクト代表者の兵庫県立大学・乾美紀氏は直前の体調不良でオンライン参加となりましたが、ワークショップは、カンボジアチームをリードする上智大学の荻巣崇世氏、現地パンニャサストラ大学の中川香須美氏を中心に運営され、5か国から総勢22名が参加しました。

[訪問先]
カンボジア・シェムリアップ
[助成題目]
2022年度国際助成プログラム「アジアの大学生をChangemakerにするための国際交流と教育プラットフォームの構築」このリンクは別ウィンドウで開きます
[代表者]
乾 美紀(兵庫県立大学環境人間学部 )

アジア5か国の大学生が集うユース・サミット

カンボジアの大学生による活動報告の様子
カンボジアの大学生による活動報告の様子

アジアの国々では、貧困や家庭環境、国を越えた人の移動による影響など社会的背景は異なるものの、共通して「学校に行けない子どもたち(OOSCY=Out of School Children and Youth)」が社会課題となっています。しかし、各国の大学生にとっては、その状況は自分たちの生活からはかけ離れた世界とも感じられ、現場に触れたり、問題解決につながる行動を起こしたりする機会は少ないのが実情です。

プロジェクトでは、そのようなごく普通の大学生にアプローチし、経験を通じて社会変化を起こす「Changemaker」の育成をめざしています。今回のユース・サミットには大学生の代表とその活動をサポートする研究者、NGOスタッフが参加しました。1日目は各国の活動報告が行われ、カンボジアからは寺院に子どもたちのための図書館を設置した取り組みの紹介がありました。この活動では、資金集めも学生自身によって行われ、QRコードを使ったオンラインでの募金等に挑戦、蔵書約900冊の図書館を設置し、子どもたちを対象にリーディングプログラムを実施した様子が報告されました。ラオスでは山間地域の村で親を対象に高等教育の重要性を伝えるビデオ製作を行った様子、日本からは外国にルーツを持つ子どもたちの学習支援活動に参加し、大学訪問のイベントを企画して将来の選択肢をより広く捉えてもらう取り組みなどが報告されました。

これらの大学生の活動がそのまま各国の社会課題解決に直結するわけではありませんが、活動のプロセスで彼ら自身が大きく変化した様子や、関わった地域の変化につながる手応えを得ている様子を伺うことができました。

ディスカッションでは、言葉の壁がありながらも「教育とは?」「Changemakerになるとはどういうことか?」「変化がもたらす負の影響とは?」といった抽象的なところまで議論が及んでおり、対面でじっくりと時間を過ごしながらコミュニケーションを取ることの意義を改めて感じることができました。

ユース・サミット参加者(荻巣崇世氏提供)
ユース・サミット参加者(荻巣崇世氏提供)

多くの子どもたちが暮らす水上集落

高床式の住宅や店舗が並ぶ集落内を歩く
高床式の住宅や店舗が並ぶ集落内を歩く

2日目の午前中は、フィールド視察が行われ、カンボジア、ラオス、日本のメンバーでシェムリアップ近郊トンレサップ湖付近の水上集落、カンポンプルックを訪問しました。集落の人口は約5700人、うち約3800人が18歳以下と、子どもの数が非常に多くなっています。カンボジアの水上集落の成り立ちとして、ベトナムからの移住者が不法に滞在し形成されたものが多いそうですが、今回の訪問先の住民はほぼクメール人で、観光地化が進んでいるということでした。

カンポンプルックへは、幹線道路を外れて赤土の道をしばらく走った後、運河を船で移動して到着しました。集落では、区長とコミュニティの実務を取り仕切るリーダーに面会しました。訪問した9月半ばは、まだ運河の水位が低く陸上の移動もできたため、高床式の店舗や住宅が並ぶ通りを歩きながら、ごみ処理、給排水、観光などについてお話を伺いました。

水上集落の小学校でのインタビュー
水上集落の小学校でのインタビュー

集落内には、小学校、中学校、高校が設置されており、今回は小学校を訪問して校長先生にインタビューを行いました。以前は、教師は集落の外から通ってきており、悪天候だと学校が開かれないこともあったそうですが、現在は小学校については集落出身の人が学業を終えた後、戻ってきて教師になるケースが多くなっているとのことでした。

やはり家業の手伝いなどで学校に来なくなってしまう子どもたちがいるけれども、そういった家庭には教師が直接訪問して教育の意義について話をすることもあるそうです。

今回のユース・サミットでは、学生のセッションと並行して、研究者と実務者の間では、取り組みのプロセスを共有し、互いの事例に学び合いながら活動を持続していくための実践ガイドの作成と、ウェブ上の情報共有プラットフォーム構築についての議論が行われました。学生を中心とした活動は、参加者に与えるインパクトが大きい一方、短期間に人材が入れ替わっていくという困難さを抱えています。コーディネーター側が連携することで活動の一貫性を高めていくこと、また学生間だけでなく地域ともつながりを作り、多様なアクターと共に課題解決に取り組む仕掛けを作っていくことが重要だと感じました。

アンコール・ワットの玄関口で

訪問地シェムリアップは、カンボジア北西部に位置するシェムリアップ州の州都で、アンコール遺跡群の観光拠点として知られています。私も半日休暇を使って、主要な遺跡とされるアンコール・ワット、アンコール・トム、タ・プロームを見学するスモール・ツアーに参加しました。

スモールと言ってもたっぷり5時間ほど、トゥクトゥクで遺跡の間を移動しながら、ガイドさんの説明を聞きました。個人的に興味があったのはアンコール・ワットの水利用です。現地は雨季に入ったばかりでまだ雨は少なめとのことでしたが、アンコール・ワットの周囲はシェムリアップ川から直接水路がつながっているので、いつも水は豊かなのだそうです。内部には、昔は雨水を貯めて生活用水に使っていたという4つの貯水槽跡がありました。

遺跡群の修復・保全には日本も関わっており、アンコール・ワットの西参道修復工事には、過去にトヨタ財団の助成を受けられたこともある上智大学の石澤良昭教授が力を尽くして来られました。2023年9月の訪問時にはまだ工事中でしたが、11月に無事完成したとのこと。コロナ禍も落ち着き、ますます多くの訪問者が現地を訪れることと思います。

アンコールトム
アンコールトム
アンコールワット貯水槽跡
アンコールワット貯水槽跡

公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No.44掲載
発行日:2024年1月25日

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