取材・執筆:比田井純也(トヨタ財団プログラムオフィサー)
活動地へおじゃまします!
2018年11月2日、すっかり秋の気候になり過ごしやすくなってきた東京を離れ、兵庫県淡路島を訪問してきました。今回ご紹介するのは、2017年度国内助成プログラムの助成対象プロジェクト「林道の観光ポテンシャル調査─再び山と共に生きる為の里山資産の読み換え」(代表:太田明広氏)です。
- [訪問地]
- 兵庫県洲本市竹原集落(淡路島)
- [助成題目]
- 林道の観光ポテンシャル調査──再び山と共に生きる為の里山資産の読み換え
限界集落となった竹原集落
プロジェクトの活動地である竹原集落は、かつて備長炭の名産地として名を馳せた集落で、炭職人がいなくなった現在も集落の四方を囲む山林には、林道や炭窯が形を保ったまま残っています。こうした産業遺構は地域資源としての存在価値を有していると考えられていますが、現在この地域は人口がわずか8名、4世帯となってしまい、今後の集落の持続に際しては予断を許さない状況になっています。この課題を乗り越えるためには、交流・関係人口を惹きつけ、また移住人口を受け入れるために新たな産業振興の構築が急務であると考えられています。
こうした状況に対して、2015年、竹原集落における域学連携の成果としてロングトレイルの導入が提案され、洲本市役所、住民、学生との官民学連携の取り組みとして事業が進められてきました。具体的には、山林道の調査によるルートの選定や、試験的なイベントを実施しての意見収集やノウハウの蓄積、集落外の協力者の募集です。そして、同年11月には竹原町内会を母体とし、集落外の人もメンバーになって組織された「淡路島ロングトレイル協会設立推進委員会」(以下、CPPA)が発足しました。以降、竹原集落の交流人口拡大に向け、山林道の再価値化に着目し、暫定のトレイルルートの選定やイベントを実施してきました。
本プロジェクトはこの域学連携に端を発したもので、ロングトレイルを集落の新たな産業として展開していく上での観光資源の抽出と、それに関連した調査を目的としています。そうした中で考えられたプロジェクトイベントの一つが、今回参加させていただいた「歩く!直す!竹原DIYトレイル」です。
竹原集落の孤立問題
前泊していた洲本市街から竹原集落までは車で約15~20分程度。当日の朝、CPAAメンバーであり、竹原集落を管轄している洲本市役所産業振興部農政課の職員の高橋壱さんが車で迎えに来てくれました。高橋さんはとても明るいお人柄で、行政職員としていろいろと竹原集落の問題について教えてくださいました。高橋さん曰く「市街から車一台しか通れない細道で、いわゆる山道といわれる道が竹原集落まで続いているけれども、台風や豪雨が来ると道が通れなくなって竹原集落の住民が取り残されてしまうことがある。竹原集落だけの為に道を補装する予算をつけることは行政として難しい。このプロジェクトを通して竹原集落への注目が今後もっと集まれば、この道も整った道にすることができる」と行政側からの意見と共に、竹原集落へ関わるメンバーとしての思いもうかがえた気がしました。
竹原DIYトレイル
洲本市街からさほど遠くもなく、標高もそれほど高くないのですが、山間部という事もあり竹原集落の朝は11月とは思えないほどの冷え込みでした。今回のイベントには、登山やトレイルに興味がある方をはじめ、地元のテレビ局の方、そして新聞社の記者の方が取材に来られるなど、幅広い参加者がいました。また、地元淡路島の方以外に四国や外国からの参加者もあり、総勢約20名が早朝に集まって、DIYトレイルが始まりました。
「竹原DIYトレイル」の先頭をきっていたCPAAメンバーの岡田清隆さん(環境省環境カウンセラー)は、70代とは思えない身のこなしで、トレイルコースの整備のために木を切り、DIYの際の道具の使い方などを参加者に教えてくださいました。農業研究者でもある岡田さんは知見、経験がものすごく豊かで、道中にある植物の特徴や、動物の習性などあらゆることを丁寧に教えてくださいました。笑顔が素敵で豊富な経験を持つ岡田さんに、参加者の多くの方が魅了され、私も岡田さんに魅了された一人となりました。
今回の主なDIY作業は、トレイルコースの足場の整備でした。参加者全員でまだ足場がない傾斜をならし、鉄杭を打って、登山者が分かりやすいように木でコースの整備を行いました。ルートを間違えないためのルート看板を設置するなど、参加者が一緒にDIY作業をすることによって自然とコミュニケーションが発生し、一体感が生まれていました。DIYトレイルの魅力はこういったところにもあるのかもしれません。DIYに必要な道具の使用方法や、看板の作り方などを知ることは参加者の良い経験になるので、DIYスキルを学ぶ場にもなっていたように思います。
冒頭でもご紹介した通り、竹原集落は備長炭の名産地として名を馳せた集落であったため、頂上へ向かう山中には炭窯が残っており、「炭窯跡」として見どころの一つになっています。まだ炭窯が現役で使用されていた頃、どのように活用されていたか現場で詳細に説明をしていただきました。炭窯周辺の地面の土を掘ってみると、真っ黒な炭が出てきます。昔は炭窯で作られた備長炭を運ぶために馬も山中を歩いていたと聞き、今でさえしっかりと舗装されていない山道を、馬と一緒に人間が歩いて運んでいたと思うと、相当な苦労をされていたであろうとしのばれます。また、もう一つの見どころとなっている「山の神様」は、枝分かれした大木が立っている真ん中に神様が祀られており、とても神聖な場所になっていて、同時に歴史を感じることもできました。当日は非常に恵まれた天気だったため、最終地点である頂上から淡路島の山々と海、明石海峡大橋や関西国際空港などを見ることができ、最高の達成感を得ることができました。
竹原集落の持続のために
印象に残っているのは、CPAAのメンバーとなっている限界集落の竹原集落住民の方々がトレイルイベントの実施に非常に積極的であり、行政、そして大学関係者の方々と非常に良好な関係を築き、密なコミュニケーションを取っていたことです。また、プロジェクトに関わる一人ひとりが専門的な知識を持っており、今後のイベントや竹原集落をどのように活性化していくかについて議論が活発に行われていました。
首都大学東京、龍谷大学の学生が積極的に事業に参加し、在学中はもとより、卒業後にも竹原集落に深く関わって定期的に活動を行っているとの話をうかがい、竹原集落と、そこに関わる人たち両方の魅力が新たな人を惹きつけているのだと思いました。そしてプロジェクトの主体メンバーは年配者が多い中、洲本市地域おこし協力隊や、学生などの若い世代の人々がうまく巻き込まれており、次代の担い手となる方々の力強さを感じることが出来ました。CPAAのメンバーである野田満さん(首都大学東京助教)が、「ここの地域の方から教わることが多くあり、少しでもみなさんに貢献したいと思う」と力強く語っていたのが印象的でした。プロジェクトのイベントである今回の「歩く!直す!竹原DIYトレイル」は参加者の方々から好評であり、プロジェクトメンバーの皆さんも確かな手ごたえを感じているようでした。当事者である地域住民、行政、そしてプロジェクトに関わるメンバーの協働が不可欠ですが、今回の訪問で非常に活発な協働事業を垣間見ることができました。
今回、淡路島、竹原集落を初めて訪問させていただき、淡路島の魅力、みなさんのあたたかなお人柄に触れ、私もこの期間ですっかり淡路島ファンになりました。淡路島のいちファンとして「淡路島ロングトレイル協会設立推進委員会」を応援するとともに、プログラムオフィサーとして微力ですが、プロジェクトに一生懸命伴走させていただきたいと思います。
旅のアルバム
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公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No.29掲載
発行日:2019年1月25日