取材・執筆:高橋 勝
活動地へおじゃまします!
- [訪問先]
- 立命館大学 地域情報研究センター(代表:鐘ヶ江秀彦)
(2008年度研究助成プログラム助成対象者) - [助成題目]
- 「バイオマス炭化物によるCO2発生抑制」を通じた都市部から農山村部への資金還流モデル設計─ポスト京都議定書を見据えた排出量取引、農産物エコブランド化、エコポイントとの連携を通じて
- [訪問者]
- めざみの里協議会 (代表:小松誠一郎) 高橋 勝
(2006年度地域社会プログラム助成対象者) - [助成題目]
- ひまわり家族認定制度による環境と共生した暮らしづくり
いざ出発! しかし不安だらけ……
春の兆しも束の間、急に冷え込んだ2021年2月28日の夜。プロジェクトの節目となる二日間のオンラインでの国際会議を終え、私はいまこの原稿に向かっています。modern ASEAN architectureプロジェクト、略してmASEANa(マセアナ)プロジェクトと呼んでいる私たちの活動は、東南アジアの9か国(ベトナム・ミャンマー・インドネシア・カンボジア・タイ・マレーシア・シンガポール・フィリピン・ラオス)の人々と一緒に、各国諸都市に遺る近代建築の価値を見直し、その保全を促進しようというものです。2015年に活動を開始し、2016年から2期にわたって、トヨタ財団国際助成プログラムから支援をいただいています。
毎年、東南アジアの2か国でワークショップをおこない、日本と東南アジアそれぞれで全10回におよぶ国際会議を開催してきました。ワークショップでは、現地と日本の学生、専門家らが一緒になって街を歩き、近代建築のリストを作成します。日本と東南アジアの学生や研究者、実践者が、近代建築の価値を議論し、それぞれが抱える課題をお互いに共有してきました。
画期的な農法に感動感銘、「クールベジタブル」の虜に!
今回案内していただいたのは、立命館大学の柴田晃・産官学コーディネーター。亀岡市内でトヨタ財団からの研究助成プログラムで実証実験を進める中心人物である。京都駅近くのホテルで合流し、立命館大学衣笠校へと車で向かった。会場には、立命館大学地域情報研究センターの鐘ヶ江秀彦センター長(政策科学)と学生3人がいらして、午前中は双方のプログラムを紹介し意見交換を行った。
まず私から自身の活動を紹介し、鐘ヶ江さんから色々とアドバイスをいただいた。わが町で建設中の木質バイオマス利活用施設。採算性、需要と供給のバランス、燃料としての供給体制、雇用の場など各方面について意見交換を行った。着眼点として「エネルギー収支」があること。結局は、できるだけエネルギーを使わないこと、移動距離を使わない(縮めること)が、「エネルギー収支」をよくすることにつながる。この視点から町の「木質バイオマス利活用施設」を検証してみてはどうかと意見をいただいた。
また、私たちの飯豊町のような「寒い地域の中山間地域」の方が環境に配慮した生活をしやすいとも言われた。それは自然エネルギーを効率よく使えるからとのこと。小電力発電(水力)やヒートポンプ、太陽光などを使うにしても、熱を下げる(冷房)のには熱移転分に(コンプレッサーの)発熱が加わる二重苦があるのに対して、熱を上げる(暖房)方は熱効率が良いからだ。その結果として「外の人からみて住みたくなる地域を目指すべき」との話があり、産学官の連携でデータ(数値)を計測し、エコビレッジ構想(バイオマスタウン)の最終形であるゴールのビジョン、目的を達成する為の手段を明確に示せるようにとアドバイスを受けた。
次に柴田さんから、「バイオマス炭化物によるCO2発生抑制を通じた都市部から農山村部への資金還流モデル設計」のことをお聞きした。研究概要は「農山村部で地域バイオマスの炭化物を農業利用することによって埋設・炭素隔離を行い、その見返りとして都市部から農山村部に資金がながれる新たな仕組みを設計し、その実効性を検証する」とのこと。頭を抱える私。
まず「カーボンニュートラル」の先をいく「カーボンマイナス」。カーボンニュートラルが「地表循環炭素」に対して、カーボンマイナスは「炭素隔離」。地中貯留・海洋隔離を行うことだった(ここの取り組みでは地中貯留)。地域未利用廃棄バイオマスを炭化(無機化)し、堆肥と混合して炭化物を物理的利用(肥料)で炭素隔離(地下蓄積炭素量の増加)を行う。これが「炭素埋設農法」だ。さらにCO2排出権が不足する企業へ「カーボンクレジット販売」を行う。CO2排出権取引のこと。そこで生産された農産物を「クールベジタブル(地球を冷やす野菜)」として5〜10%の価格を上乗せし販売する(案)といった循環システム。説明を聞くうちに「なるほど! 納得!」と頭も気分もすっきり。「炭素埋設農法」の虜になってしまった。
しかしまだ課題もあるそうで、CO2排出権が不足する企業へのキャップ(規制)を国がはっきり示さないと、このシステム内のCO2排出権取引の部分は完結しないとのこと。何かを始める、開拓、創設(言い出しっぺ)には、パワーと情熱、そして仲間たちの必要性を感じた。
午後は亀岡市に移動し、現場をみることになった。早速、生産者(保津町の農業法人)の方と合流し小麦、水稲、ねぎの実験圃場(炭堆肥の投入量による収穫量の違いをみる)をまわった。私が訪ねた時(4月下旬)には小麦も成長し穂が実っていた。話をきくと昔この一体は「保津小麦」の生産が行われていたそうで、現在は外国産の低価格小麦の輸入で採算が合わず、栽培をやめてしまった農家が多く出たとのこと。この炭肥料で「保津小麦」の生産が最盛期のように復活すれば、地域にとっても生産者にとっても大きな喜びになるだろう。そしてこの「炭素埋設農法」が新たな農産物への付加価値となる日が近いことを私は確信した。
やはり「人」が大事! 終わりなき旅はつづく……
最後に亀岡市役所を訪問し、お話をきくことができた。その中で担当者からの言葉が印象に残った。「都市近郊型農業では担い手が育たない」というのだ。理由は、「ここ亀岡市は、京都市内・大阪市内が通勤圏で農業に頼らなくても仕事場がある」とのこと。私は「京野菜というブランドがあるし、大消費地が近く有利かと思っていた」と担当者に話したが、「必ずしもそんなことはない」と言葉を返されてしまった。少しショックを受けながら最後の取材を終えた。
帰りの新幹線の中、いろんな思いを胸に山形に向かった。この取材で、「炭が地球を救う」という最先端の農法を目の当たりに感銘を受け、「担い手不足」に自分をも奮い立たせてもらった気がした。また地元に帰り、農業─食料─環境のつながりを通した事業を展開できればと強く思った。そのためにも「人」とのつながりを大事にし、未来に向けて歩き出す決意をした。
公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No.1掲載
発行日:2009年7月14日