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新しい生活様式の構築を目指す─「私」でも「公」でもない「共(コモン)」の領域創り

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寄稿
新しい生活様式の構築を目指す─「私」でも「公」でもない「共(コモン)」の領域創り
コミュニティホッピングツアー「ふるえる書庫」
コミュニティホッピングツアー「ふるえる書庫」

著者 ◉ 丑田俊輔(シェアビレッジ株式会社 代表取締役)

[プログラム]
2022年度 国内助成プログラム
[助成題目]
新たな自治のあり方を探究するエコシステムの構築 ―実践・学習・研究開発の循環
[代表者]
丑田俊輔(シェアビレッジ株式会社 代表取締役)

新しい生活様式の構築を目指す─「私」でも「公」でもない「共(コモン)」の領域創り

シェアビレッジとは

シェアビレッジ町村_茅葺古民家
シェアビレッジ町村、茅葺古民家

「シェアビレッジ」は、“みんなで暮らしをつくる”を、人類最高の遊びにするための協同組合型チームである。2015年に、秋田県五城目町の茅葺古民家を仮想の村に見立てたコミュニティづくりを開始(右写真)。住民票にとどまらない新たな共同体の形を試行し、2,000名以上のデジタル村民が参加しながら、二地域居住や関係人口といったライフスタイルが普及する一助となった。

また、その実践の中で、テクノロジーと遊休資産活用という切り口を通じて、現代社会に「私」でも「公」でもない「共(コモン)」の領域を創り出し、地域社会に新しい自治のあり方を示した。

この経験をベースとして、2021年に共創型コミュニティプラットフォーム「Share Village」を立ち上げ、全国各地の実証パートナーと共にコミュニティ運営の実践とプラットフォーム開発を進めている。

助成プロジェクトについて

助成プロジェクトにおいては、これらの土台の上で、「プラットフォーム参加者同士の学習・支援関係構築」と「オープンなシステム開発環境の構築」に取り組んでいる。また、既存の枠組みにとらわれない自治を実践する全国のプレイヤーと共に、「実践知のナレッジ化」を図っていく。

実践・学習・研究開発が循環し、一つの民間企業から始まった取り組みを越えて、新たな自治のあり方を探究するエコシステムへと変容させていく。そして、これら3つの領域が相互にフィードバックし合い、そのナレッジを社会へと発信することで、地域や暮らしを自治する、コミュニティづくりの民主化を全国規模で下支えするエコシステムとなることを目指す。

これまでの活動内容

各地のコミュニティでの実践(EAT LOCAL KAGOSHIMA)
各地のコミュニティでの実践(EAT LOCAL KAGOSHIMA)

一つ目に、全国各地のコミュニティ同士の相互学習・ネットワーキングの場として「ラーニングビレッジ」を創設した。コミュニティ運営やコモンズ(共有資源)の管理に関するゼミやレクチャーの開催、各地の現場を共に旅するコミュニティホッピングツアーを実施してきた。

コミュニティ内の合意形成の取り方や、地域住民との円滑なコミュニケーションの仕方、コモンズの持続的な管理に向けた資金面を含む試行錯誤など、各コミュニティ運営者が抱える悩みは共通しているものも多く、かつその相談が行える場所は依然として少ない。ラーニングビレッジはこうした課題感を持ち寄り、学び合う場として機能しはじめている。

二つ目に、各地での実践やラーニングビレッジでの学び合いを受けて、プラットフォームのさらなる普及促進と共に、継続的なバージョンアップを図っていく活動である。各地のコミュニティから持ち寄られてくる要件をもとに新たに実装したいくつかの機能は、他のコミュニティも利用可能なものとなっている。

それに加えて、基本機能の一部のAPI化(Application Programming Interfaceの略。ソフトウェアやアプリケーション間で機能を共有するための仕組み)をはじめ、オープンな開発環境を整備したことで、他のシステムとの連携もはじまっている。

三つ目に、これらの実践・学習・開発の循環を、形式知化して発信する活動である。SNSでの発信に加え、note記事やYouTube動画などのオウンドメディアでのコンテンツ化を行ってきた。

現在は、より幅広い層へと知を届けていくべく、各地のステークホルダーと共に編集チームを組成し、書籍化を進めている。

今後の展望

グッドデザイン賞2024においてBEST100を受賞した「森山ビレッジ」
グッドデザイン賞2024においてBEST100を受賞した「森山ビレッジ」

全国各地のコミュニティ群が、日々の実践と学び合いの中で、新たな自治のあり方としての「コモンズの再発明」を着実に推し進めてきた。

一方で、コモンズの共同管理や参加型コミュニティ運営を円滑にするシステム「Share Village」の普及、持続可能な事業モデル化においては一定の課題に直面した(2024年末には、当初想定のtoCの事業モデルからの転換を図った)。

しかしながら、オープンな開発環境の構築を進めたことで、自治体によるシステム活用(公民連携モデル)や、企業とのデータ連携による活用も進んできた。

また、2023年に秋田県五城目町で発生した豪雨災害においては、多種多様なコモンズとコミュニティの存在が、復旧・復興を下支えしたことも評価されており、能登の災害へのフィードバックや、研究者による形式知化もはじまっている。

こうした一連の活動は、書籍「Community Based Economy Journal」での掲載をはじめさまざまなメディアでも紹介され、認知が広がりはじめている。また、コミュニティオーナー達との協働による社会実験として生まれた「森山ビレッジ」(21世紀の新たな住まい方を実験する集落)は、グッドデザイン賞2024においてBEST100を受賞した。

日本における自治型社会の兆しは確かに見え始めているが、まだまだ一歩目を踏み出した段階でもある。

既存の枠組みにとらわれることなく、それぞれの日常にコモンの領域を創り出していく(=暮らしを共有化(コモニング)する)営みが広がることで、生産/消費、提供する/されるという関係性に二項対立化した現在の社会構造が、新たな自治の仕組みとしてアップデートできると考えている。

こうした営みをより幅広い層へと届けていく(日常化していく)ためのアプローチ、コミュニケーションデザインのあり方については、引き続きの試行錯誤が必要である。

だれもが自分たちのコミュニティをつくることができる。さまざまなコミュニティに参加する。コミュニティ同士がつながり、小さな経済圏が共鳴する。そんな新しい生活様式をあたりまえにしていきたい。そして、小規模かつ自律分散的にコミュニティが生まれ育まれるプラットフォームShare Villageは、それ自体が社会を自治するためのコモンズとして存在するものでありたい。

公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No. 48掲載
発行日:2025年4月8日

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