公益財団法人トヨタ財団

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食で地域がつながる「おしゃべり食堂」

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国内助成
contribution
寄稿
おしゃべり食堂の笑顔

著者 ◉ 石田雅一(社会福祉法人呉竹会)

[プログラム]
2023年度国内助成プログラム
[助成題目]
保育を起点とした新しい自治のかたち「みまもりあう児玉」
[代表者]
石田雅一(社会福祉法人呉竹会)

食で地域がつながる「おしゃべり食堂」

みまもりあうまち、児玉

埼玉県の北部のまち本庄市児玉町。本庄市の中心部は、かつては中山道の最大の宿場町として多くの人や物が行き交った歴史があります。児玉町は本庄市に合併された地域ですが、もともとは養蚕のまちとして栄えた農村で、自然に人がつながりあう、異質なものも受け入れるやさしいまちだったそうです。

昔はあたり前だった地域の人のつながりや、ちょっとしたおせっかい。顔見知りがたくさんいて、困ったら声をかけあえるあたたかい空気。児玉には、そんな日本の懐かしい姿があります。しかし、近年の少子高齢化とともに地区の子どもは減り、暮らしを支える商店や施設も減るなか、人のつながりも希薄になっています。これまで以上に地域の人たちが主体となった、まちづくりが求められている状況なのです。

「児玉の森こども園」は、約65年前に地域の農家の繁忙期に子どもたちを預かる保育所として設立。その後、時代とともに専業農家は減り、保育の役割も、未来を担う子どもたちの成長をみまもる場へと変化していきました。現在は、こどもたちの「じりつときょうりょく」を保育理念に掲げ、自主性を引き出す「みまもる保育」というメソッドを実践。子どもたちの創造性とやさしさにあふれる姿が日々生まれています。

「食×おしゃべり」で人がつながり合う

「おしゃべり食堂」は、地域の人が集まり食とおしゃべりを楽しむイベントで、毎月こども園で開催されています。みんなで食事を作って食べることで、さまざまな違いによる壁がなくなり、自然とおしゃべりが生まれます。そのなかから、自分たちがつくりたいまち、やりたいことを自然と見つけて小さく実践していく、それがおしゃべり食堂です。

こども園では、子どもたちの力を伸ばすためのさまざまな工夫をしています。この特徴を「おしゃべり食堂」でも活かすことで、さまざまな出来事が生まれています。

[1]セミバイキング:園の給食では、食べる量を自分で選択します。自然にコミュニケーションがとれ、自分で決めた責任感から食べ残しも減るのです。おしゃべり食堂では、高齢の方は量が食べられない、子どもは苦手な野菜がある、など人による違いがあります。食べ物を大切にしながら楽しく食べられることに加え、他人のことを想像し思いやることにもつながります。
[2]主体性を大切にする:保育の現場では、保育者が手を出さずに見守ることで、子ども自身が考えて決めていく力が育ち、たがいに協力するようになっていきます。おしゃべり食堂では、ボランティアさん一人ひとりがどんなことがしたいのかを考え、自分で毎回役割を決めることで、負担を感じず気軽にチャレンジを楽しむことができるのです。
[3]デイリークッキング:日々の給食では、0歳児から、発達によって調理に関わっています。さまざまな食材に触れることで好き嫌いなく楽しく食べられるようになります。おしゃべり食堂では、みんなで相談して食材からメニューを決め、協力して食事を準備します。年齢の壁を超えた会話が自然に生まれ、発想や経験の違いが化学反応を起こして、新しい発見がたくさん生まれます。
[4]異年齢保育:子どもたちは異年齢が関わり合うなかで過ごしています。他者との関わりは2歳くらいにならないと起きづらいと言われますが、園では0歳児から見られます。年下の子にやさしく配慮したり、年上の子を真似てみるなど、刺激と学びを得て、心も頭も育っていくのです。おしゃべり食堂では、高齢者はより元気に、若者は優しくなり、どちらにもプラスになるシーンがたくさん生まれています。

おしゃべり食堂を支えるみなさん

おしゃべり食堂は、地域のたくさんの人たちに支えられています。食材の提供、音楽や腹話術、テーブルを飾る花々、写真を撮ったり荷物を運んだり、関わり方は実に多様。新たな仲間に声をかけあい、お世話になってまた関係が生まれたり、あたたかな循環が広がっています。

たとえば、元保育士のベテランお母さん、アコーディオンと腹話術が得意で場を楽しくしてくれるおばあちゃま、八百屋・農家・ガソリンスタンドなど商店の方々、行政や地域団体など、地域の人たちは実に多様です。また、若い年代も多く、卒園児の小学生、近くの児玉高校の生徒さん、上武大学の野球部のみなさん、保育士をめざす学生など、世代を越えたつながりが、この場を支えてくれています。

保育施設を起点としたまちづくりへ

「おしゃべり食堂」https://oshabely.net/
「おしゃべり食堂」https://oshabely.net/

保育施設は、長年にわたり子どもをつうじて地域の関係性を築いてきました。これを生かした食の場をつくることによって、まちの人たちの新たなつながりや役割が生まれ、まちに必要なことは自分たちの手で作るという意識が育っていきます。そして、活動はまちへと広がり、日々の暮らしをゆたかにし、災害などの有事の助けとなっていきます。

地域への広がりの例
・食の場の広がり(イベント、ワークショップなど)
・災害対応力の強化(炊き出し、避難場所を知る、助け合う関係)
・空き家の活用による、お店や居場所づくり
・学校の授業や部活との連携による若者の参加
・高齢者の未病や介護への効果

全国の保育施設は、子どもの減少や施設の老朽化などによって統廃合が進んでいます。小さなまちでは子育ての環境がなくなり、人がいなくなることが危惧されています。

子どもの成長には、自由度の高い環境や関わる人の多様性が必要です。保育施設をまちに開くことで、子どもたちにとってのゆたかな経験機会が広がり、まちの人たちとの出会いも増えます。まちには活気とつながり、新しい取り組みが生まれ、成長した子どもたちは、将来の担い手となっていくのです。私たちは、児玉の「おしゃべり食堂」から、こうした取り組みが社会全体に広がってほしいと考えています。
 

公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No. 47掲載
発行日:2025年1月24日

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