国内助成
contribution
寄稿
著者 ◉ 久高友嗣 (キャンプ沖縄事業協同組合 )
- [プログラム]
- 2022年度 国内助成プログラム
- [助成題目]
- キャンプが生む自治基盤組成の検証と実践 ―リアルとネット、業界や地域を往き交う共営
- [代表者]
- 久高友嗣 (キャンプ沖縄事業協同組合 )
キャンプが育む自治の芽
キャンプという一時的な共同生活は、忙しい現代での自治への助けとなるのか
トヨタ財団助成プロジェクト「キャンプが生む自治基盤組成の検証と実践」では、〝キャンプと自治〟の関係性を探っています。私たちの日常生活は、無料のSNSや公共サービス、コンビニなど、誰かが提供するサービスを受益するだけに留まりがちです。
自分たちで社会や暮らしの基盤をつくる、用意することができるという感覚は薄れてきているのではないか。「キャンプ」と「自治」の二つは、一見関係がなさそうですが、「自分たちの生活に関することを自分たちで選んでつくること」という意味で共通しています。
キャンプとは、野外や仮設の空間で一時的な生活を営むことです。テントを張り、食事を作り、限られた資源を分け合う。普段の日常生活とは異なる環境のなかで、人々は協力し、対話し、新しい関係性を築きます。この体験は、実は自治の基盤にもなりうるのではないかという仮説を持ちました。
このプロジェクトは、沖縄における防災分野でのキャンプ活用・実践から着想を得ています。災害時の避難後の生活や地域の絆づくりにキャンプの場づくりが役立ち、現在では県域での防災活動を行うテーマ型の組織(アソシエーション)が立ち上がった実例があります。その可能性を他の分野にも広げていく探究が始まりました。
分野・テーマを越境し、つなぐ触媒となる兆し
コロナ下において、主団体であるキャンプ沖縄事業協同組合が活動していくなかで、市民・民間・行政など多様なセクターの人々からの関心、土地、お金が自然な形で集まる、興味深い現象が起きたのです。そこで、アウトドアやレジャーの枠を越えた、キャンプの「屋外」「仮設」「交流」の場としての新たな可能性に着目しはじめました。
このプロジェクトには、その時に関わりが生まれた環境、社会、文化と異分野で自治的な集団を目指す7〜9名のメンバーが参加しています。奄美・沖縄ガイドネットワーク、おきなわ未来エネルギー会議、愛と希望の共同売店プロジェクト、災害プラットフォームおきなわ、久米島シェアアイランドプロジェクト、Art Initiative Okinawa、沖縄音楽制作事業協同組合(仮)など、多彩な顔ぶれが集まり、委員会として活動を共にしています。
テーマ・地域と共振するスタディツアー
1年目は、中心メンバーでキャンプの周辺について言語化・可視化の試行を行い、委員会ではキャンプや自治、沖縄の地について熱心に議論を重ね、フィールドワークも行いました。
しかしながら、普段の活動領域やキャンプ経験も異なる、3分野6領域のメンバーでの共通認識・理想像を机上の議論やボトムアップで見出す・とりあげることは難航しました。
そして2年目。実践活動により共通体験・経験を経て、分析・検証を進めます。実践の場として選んだのは、中南部・離島を拠点とするメンバーの生活圏と離れた沖縄本島北部の「やんばる」でした。
2024年5月に本島最北の国頭村で2泊3日のスタディキャンプツアーを実施。参加者は、プロジェクトメンバーを含め20人近く。対話を持ちやすい規模感のもと、共同売店とエネルギーをテーマに、地域の暮らしと自治について考えを深めました。
地域の公民館(桃原区)や森林公園が今回の拠点。区長さんによる集落案内や共同売店での買い物による地域理解。エネルギーをテーマにした専門家による講話や映画「おだやかな革命」ならび共同売店を題材とした短編映像の上映会を通じテーマについてのインプットと議論。ビーチクリーンや森の探索ツアーで、自然に触れてリラックス。充実したプログラムを共に過ごすことができました。
一連の体験を経た参加者らでの最後の振り返りは、企画の中心メンバーの想像以上に深い気づきが共有され、キャンプ体験の言語化や各テーマへの主体度の醸成としても、実りあるものとなりました。
普段の関心も生活様式も異なる集いで生まれる、ささやかな同期性・連帯感
このキャンプで、各プログラムもさることながら、大切に感じたのは、朝起きてから夜寝るまでの時間を共に過ごしたことでした。テントを張るタイミング、食事の準備、限られた電力の分配など、日常では気づかない「自治」の瞬間が、至るところにありました。
それぞれの生活リズムや価値観が交錯する中で、自然と「一致」や「連帯」が生まれ、ゆるやかな共同体のようなものが形成されていく様子は、小さな社会の縮図でした。共同売店やエネルギーについて語り合うだけでなく、キャンプが一時的な共同生活であると再認識し、その些細な判断や協力の中に、自治の本質が隠れていることに気づかされました。
今後の展開として、キャンプ体験の可視化により自治へと誘う手拭いの制作・販売を予定や、音楽・歌をテーマとしたパン屋でのキャンプイベントの計画などを行っています。
一時的な共同生活から生まれる協力と相互理解。この素朴な体験は、私たちの社会を豊かにする鍵となるかもしれません。キャンプを通じて芽生える自治の意識。その小さな芽が、着実に私たちの社会に根付くため、まだまだ試行錯誤は続きます。
公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No. 46掲載
発行日:2024年10月25日