国内助成
contribution
寄稿
著者◉ 赤松隆滋 (NPO法人そらいろプロジェクト京都 理事長)
- [助成プログラム]
- 2020年度 国内助成プログラム[しらべる助成]
- [助成題目]
- 理美容からのバリアフリー社会の構築 ―発達障害児・者の理美容の現状と課題調査
- [代表者]
- 赤松隆滋 (NPO法人そらいろプロジェクト京都 理事長)
多様な誰もが、お互いに優しくなれるコミュニティづくり
スマイルカット事業
NPO法人そらいろプロジェクト京都では、主に発達障害等が理由で理美容室でのヘアカットが難しいとされる子どもたちのための「スマイルカット」に取り組んでいる。子どもたちが安心してヘアカットできるよう、全国の理美容師への啓発活動も行ってきた。
全国各地での講習会では、参加した理美容師から多くの共感を得るものの、講習会に参加した理美容師の数は、のべ約2,000人。全国の理美容師の数はおよそ76万人(2021年3月末時点の美容師数は54万9,935人、理容師数は21万849人。厚生労働省令和2年度衛生行政報告例より)。全国の理美容師たちに講習会でスマイルカットの活動を知ってもらうことに限界を感じていた。そこで、次に注目したのが理美容師養成施設だった。
現在、全国の理美容師たちが障害者に対しての合理的配慮を学ぶ機会はなかなかない。ならば理美容師になる前の段階で、学べる環境があれば良いのではないだろうか。理美容師養成施設の学生が国家試験に向けて勉強する教科書に、「障害者に対する合理的配慮」に関連する項目を追加できれば、今後社会人になったときに、理美容の面からのバリアフリー社会を作っていくことができるはずである。
厚生労働省と公益社団法人日本理容美容教育センターへ問い合わせたところ、教科書を改訂することは容易なことではないとの返答を得る。そこで、当NPO法人と社会福祉法人南山城学園が主体となり、教科書掲載を進めるためにチームを立ち上げた。メンバーは理美容師だけでなく、福祉関係者や大学の先生、当事者の会代表や美容専門学校の校長にも参加していただいた。
実態調査と今後への展望
2020年度トヨタ財団「しらべる助成」事業として、「理美容からのバリアフリー社会の構築 ─発達障害児・者の理美容の現状と課題調査」を実施。発達障害児・者のヘアカットの困難さには、理美容師の発達障害に対する認知・理解・意識が低い背景から、理美容室の受け入れ状態が整っていないことに課題があることを明らかにするのが目的。調査対象は地域の『理美容室』と『美容専門学生』、『理美容室経営者』と3つに分け、アンケートとヒアリング調査を行った。
いずれも、発達障害に対しての認知度は比較的高かったが、発達障害の人たちと出会う機会、学ぶ機会、情報を得る機会が少なく、関心度が高いとはいえなかった。
『理美容室』と『美容専門学生』ともに、「学校で学ぶ機会がなく、ふだん発達障害の人たちを支援している福祉・教育関係者から情報を聞く機会もほとんどない」と回答している。また「技術や工夫をしながらヘアカットを進めている団体がある」ことは、あまり知られていなかったが、「研修機会が持てれば、積極的に取り組みたい」という意見が7割程度あった。
『理美容室経営者』からは、「解消すべき社会全体の課題」、「多すぎる営業への不安要素」、「発達障害に対するわからなさ」、「当事者、家族、専門機関との距離の遠さ」等の問題提起が出されたが、「誰でもお客様であるというプロの姿勢」からヘアカットを望む人に分け隔てなく対応したいとの意見もあった。
今回の調査では、「理美容師が発達障害の知識を得る機会がないこと」、「発達障害児・者へのヘアカットについて学ぶ機会がないこと」が大きな障壁になっていることが確かめられた。「ハサミで傷つけないか」、「コミュニケーションが心配」、「経営上の影響」など、理美容師側も多くの不安を抱えていたことがわかった。これらの課題に応えるため、これからも「スマイルカット」の普及啓発に取り組まなければならない。
これらを踏まえ、今後の展望として次の3点を考えていきたい。
[1]理美容師養成課程においても、発達障害への理解を深め、ヘアカット技術を学べる工夫。
[2]理美容師国家資格取得後も、発達障害の子どもたちとの出会い、経験者から学べる機会を増やす。
[3]理美容室から広がる発達障害への理解と共生社会の実現を目指す。
心のバリアフリーを求める時代へ
私たちが子どもの頃、階段等の段差がある建物は、「車椅子では入れないね」と諦めるのが普通だった記憶がある。その後、バリアフリーという言葉が一般的に認知されるようになり、今では「この建物はバリアフリーではないのか」と言われるまでになった。
理美容面ではどうだろう。今は障害を理由に「ヘアカットができない」と断っていることがまかり通っていても、近い将来「理美容業界は障害を理由に断るのか」と揶揄される時代はもうそこまできているのではないだろうか。
物理的なバリアフリーだけでなく、心のバリアフリーを求める時代に世の中は変わろうとしている。これは理美容業界だけの問題ではない。障害児・者に対しては、福祉・教育業界に任せてばかりはいられないのではないだろうか。あらゆる業界のプロフェッショナルたちから、障害者はじめ困りごとを持った人たちに笑顔で手を差し伸べられたら、この世の中は、もっと優しさで溢れるはずだ。「多様な誰もが、お互いに優しくなれるコミュニティづくり」の実現を目指していきたい。
『いろんな花があるから野原がきれいなように
いろんな雲があるから空を見上げたくなるように
いろんな子がいるからこの世界はキラキラまぶしいんだ』
今私たちにできることは、キラキラまぶしい世界を未来に繋げることではないだろうか。
公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No.41掲載
発行日:2023年1月24日