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『協力のテクノロジー 関係者の相利をはかるマネジメント』書評

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2022年10月発行予定のJOINT40号から、助成プロジェクトに関連して出版された書籍について、類似する分野で活動されている別の助成対象者の方が読み、書評をお寄せいただく新コーナーがスタートします。

それに先駆けて、ウェブ特別版として本ページを公開いたします。対象書籍は、2019年度イニシアティブ助成で出版された『協力のテクノロジー 関係者の相利をはかるマネジメント』です。今回は、伊豆市プロジェクトチーム、平尾剛之氏、藤本穣彦氏のお三方にご寄稿いただきました。


『協力のテクノロジー 関係者の相利をはかるマネジメント』

〈書籍情報〉

書名
協力のテクノロジー 関係者の相利をはかるマネジメント
著者
松原明/大社充
出版社
学芸出版社
定価
2700円+税

〈助成対象者情報〉

[助成プログラム]
2019年度 イニシアティブプログラム
[助成題目]
「協力のテクノロジー」開発・普及プロジェクトこのリンクは別ウィンドウで開きます
[代表者]
松原明

【書評】実践者にとって自身を客観化する視点を与えてくれるだろう

執筆者 ◉ 伊豆市プロジェクトチーム

[助成プログラム]
2020年度 先端技術と共創する新たな人間社会
[助成題目]
過疎高齢化地域での先端技術を用いた地域づくり――地域包括ケアシステムと連動する情報支援ロボット運用に関する住民参加型研究
[代表者]
大門公彦

本書は、「あなたが世界を変えたいと思ったら」目的・目標の持ち方、活動を広める視座とノウハウを、「協力のテクノロジー」と称して、NPO法設立経験等を交えながら初心者向けに解説している。対象は、個人活動から組織づくり、組織連携、法制度整備まで幅広い。

先端技術を用いた地域づくり担当者の立場から、比喩を交えて要約すると、社会デザインは単色、シンメトリー、平面ではなく(「協力の組み立てる基礎を知る」)、弦楽器・木金管楽器・打楽器がバランスとコントラスト、ハーモニーにより壮大な美しい交響曲を奏でることを示している(「人はみな違うことを前提に共有の目標を作る」)。チューニングは演奏が終わるまで続く(「協力サイクルを使って協力を組み立てる」)。そして、これらを実現する「協力のテクノロジー」のアーティキュレーションを提案している(「実例に見る協力の組み立て方」「協力を応用する」)。

高齢化率が40%を超えた私たちの市では、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを最後までを共通目標に、住まい・医療・介護・予防・生活支援を提供する地域包括ケアシステムを官民協働で作ろうとしている。市の社会デザインを描く上で、「協力のテクノロジー」‘関係者の相利をはかるマネジメント’は参考になると感じた。

また、本書を通じて、我々のプロジェクトに通底するコンセプトを再認識した。

「自律分散は生命のモデル、そしてオーケストレーション:良い指揮者は、ここは(音量を)小さくとか、大きくとかはあまり言わない。どこを目指すのか、どこを音楽的高揚の頂点とし、どのようにそこに到達するのかといったポイントを、演奏者と共有する。具体的な奏法は各演奏者の感性に託されることにより、演奏者は生きいきと演奏できる」(「」内は河野美也氏より引用)。これは技術開発時から継承された概念「フィールド・ベースド・イノベーション」(井上剛伸)でもあり、本書を拝読してなおさら、大切に保持していこうと考えた。

本書は一見ノウハウ本のように見えるが、後半まで読み進めるうちに、協力を得ながら活動を広げることの背景に広がるNPOに関連した社会的課題と法制化の経緯、戦後資本主義と住民活動(社会貢献事業)をめぐる思想や変遷について知見を得ることができる。ほかの実践者にとっても自身を客観化する視点を与えてくれるだろう。


【書評】協力を醸成するための兵法であるかのよう

執筆者 ◉ 平尾剛之

[助成プログラム]
2018年度 国内助成プログラム [そだてる助成]
[助成題目]
福祉現場の就労基盤を支える―(福)業によるセカンドキャリア形成の推進
[代表者]
中村正

「彼を知り己を知れば百戦危うからず」、言わずと知れた孫子の兵法ですが、まさに本書は、協力を醸成するための兵法であるかのようです。人はみな「違う」、このことを前提にお互いの利(相利)を知ることの重要性からスタートしています。それが善行であっても、みなが同じ理解・価値観を共有している訳ではなく、前近代的な価値観の崩壊から多様な価値観交錯(マックス・ウェーバー、神々の闘争)が協力の不全の引き金になることなどを本書は示唆しています。もちろんその目的に義がなければ、協力関係も成立しません。

かつて、「協働」という日本語はありませんでした。パソコンで変換しても「共同」「協同」にしか変換できなかったのです。しかし、今や「きょうどう」は「協働」が主流となり、コラボレーション(collaboration)の和訳として社会を席巻しています。まさにワード(word)がワールド(world)を形成したのです。
では、「相利」はどうでしょうか。異なる生物が同所的に生活する相利共生という概念はあるようですが、簡単にはパソコンで変換してくれません。この協力を醸成するテクノロジーとしての「相利」もまた、新しい概念によるアプローチと言えます。

さて、「そうり」と聞いて、最初に思いつく言葉に「総理」というのもあります。周知の通り総理は内閣総理大臣の略であり、「その役割を担う人」という意味で一般的には知られています。しかし、総理もまた、「総(すべ)てを、まとめて管理すること」の意でもあり、政策的にはこの「相利」と当たらずしも遠からずの関係にあると言えます。

筆者は「相利」を、「それぞれの利益が共に実現されること、その相利性のある関係を相手の成功が自分の成功にとって不可欠であると双方が理解している関係」と定義づけ、新しい世界観を提示しています。また、筆者のNPO法設立までの原体験による何もないところからのスタートは、これからの社会(world)を形成するためのプロセスを明示し、本書は、「世界をより良く変えたいと思ったら……、このたった一つの問いに答えるために」の手引書として、多様な事例を挙げながらその問いへの理解に誘ってくれます。

本書は協力のメカニズムを科学的に解析しながらも、実に哲学的・社会学的な視座に富んでいます。人であること、人と人の関係性であることに対して多角的に頑なにアプローチが施されています。協力という社会関係資本(ソーシャルキャピタル)の集積のあり方が、多様に影響し合っている様を捉えています。

本書にて、協力による目的を実現させるためのイメージとして、重要なキーワードを順序よく拾っていくと、協力のメカニズムを理解するための初心者向け入門書として読むことができます。また、協力のメカニズムを実践的にイメージしながら、熟読すると協力醸成に向けた専門書的な側面を覗かせてくれます。

多様な事例に彩られた本書は、読み手の意図や目的に合わせて、その問いに対する答えを多様に導いてくれます。さらに協働やまちづくりをテーマとしたワークショップやKPIの設定、SWOT分析などを行う際の参考テキストとしても活用でき、マルチタスクな器用さを持ち合わせた一冊でもあります。

NPOなどが活躍する非営利セクターは、善意の搾取が常態化し、相利システムが機能しにくい環境にあると言えます。実現したいことが、誰かの一方的な犠牲により成り立っていることや、持続性を欠く滅私奉公を強いることは戦略的な協力醸成手法とはいえません。「一人一人の幸福のための国家のマネジメント」……、う~ん、ぐっときます。より良く社会を変えたいのであれば、本書を指南書のひとつとして、協力を社会資本とする変革のあり方を手繰ってみてはいかがでしょうか。


【書評】見知らぬ人とも作れる「協力」、スクラムを組んで前へ、前へ!

執筆者 ◉ 藤本穣彦(明治大学政治経済学部)

私たちは、協力することが苦手になっているようです。家族、学校、仕事、あるいはスポーツや趣味の集まりでも、暮らし、社会的に活動するためには、協力することが不可欠なはずなのに。なぜでしょうか。

本書『協力のテクノロジー』では、「協力の技術をもっていないために、人々は、孤立化し、無力化していっている」とされ、「考えや価値観が異なる多様な人々がいかにしてより良い関係を築いていけるか」を、技術的に解くといいます。

著者の松原明さんは、1998年の特定非営利活動促進法(NPO法)設立の立役者で、30年にわたって日本の市民活動が隆盛する舞台を作ってきた人。パートナーは、元京大アメフト部で、芸術文化観光専門職大学教授の大社充さん。この2人がタッグを組んで、経験に基づいた協力の技術論を展開しています。

さて、「お金や命令、お願いだけで動かない人々」や、見知らぬ人、会ったことのない人が、自然に、次第に協力してくれるとはどういうことでしょう? フリーライダーは「観客」。「フリーライドしてもらえるだけでも」と、彼らの手にかかれば、たちまち関心層として協力者に列席することになります。自分の利益になればと功利的に情報収集に来ていた人も、周辺的な参加者となり、知らない間に学習し、気がつけば推進者に転じています。

こうした協力の技術のヘソは、「相利(そうり)」という考え方にあるといいます。では、それぞれに異なる利益を支援し合う「共有の目標」は、いかにしてつくれるのでしょうか。これを自/他の2者関係ではなく、「世界の利益(=直接の関係者の外部にある世界の人々の利益)」を交えた3項関係、つまり「3項相利」で設計していくのだそうです。「世界の利益を第3項に入れることで、直接関係していない人や組織を、関係者にしていくことができます。なぜなら、世界の利益は、万人の利益となるから」、とのこと。

次に、この3項関係をマネジメントする「調整者」がクローズアップされます。松原さんは、「NPO法成立を推進するシーズ=市民活動を支える制度をつくる会」を設立し、立法・制度化の過程をつくった調整者です。その経験を省察して体系化した「協力構築サイクル」が論じられます。

物事を成す際には、かならず反対者がいます。いかにしてその対立を協力に転化するのでしょうか。その際も「適切な第3項を設定することで、敵対関係を競合関係や棲み分け関係に変えていくことができる」といいます。協力の技術のポイントは、第3項をその都度開発する、この調整者にあります。調整者をテコとして、目標→役割→脚本→相利→調整→舞台→帰属→目標に戻る、この協力構築サイクルがぐるぐると回ることで、協力の関係性が組み立てられます。本書では、その実際が、NPO、企業、自治体、スポーツなどの事例を用いて解説されています。

現代の公共性や公共政策を担う担い手は、国家・行政のみではなく、NPO・NGO、企業を含めた広い市民社会、ひいては世界市民にいたる広がりをもっています。市民的公共性を実現する個々の政策技術には、経験論的で、社会工学的な検討が求められます。つまり、立法や政策立案の制度論的な経験や政策実施の現場レベルでの検証、それらの蓄積を市民社会の内側に束ね、ノウハウとし、学習可能な「型」を構築することです。その「型」を学び、応用し、制度デザインに生かし直していきます。これをくり返すことで、協力のスクラムは大きくなります。前へ、前へ。市民社会形成のための政策・制度技術のひとつの「型」として、本書の意義は非常に大きいと言えます。

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