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プロジェクトイベント・シンポジウムレポート

助成対象者より、現地調査活動(@カザフスタン)の報告が届きました(研究助成プログラム)

情報掲載日:2016年10月4日


プログラム研究助成プログラム
カテゴリNOctg01 ctg05

黒サクサウール ある家の敷地で育つ黒サクサウール

助成対象プロジェクト「カザフスタン共和国アラル海地域におけるサクサウール植林活動の持続性と多元性の向上―地域社会と文化的背景に着目した新たなステークホルダーの創出―」(代表者:松井佳世氏、D15-R-0022)より、プロジェクトの一環として序盤に実施した植樹活動の報告が届きましたので、お知らせいたします。

本プロジェクトの概要については。助成対象検索ページから【D15-R-0022】と入力して検索してください。

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アラル地域カラテレン管区での黒サクサウール苗植樹活動報告

松井 佳世
京都大学大学院地球環境学舎 陸域生態系管理論分野


アラル海危機と黒サクサウール
20世紀後半、旧ソ連の農業政策で展開された大規模な灌漑農業のためにアラル海の水量を支えていた二大河川シルダリア、アムダリアから大量の灌漑水が取水されアラル海は回復不可能なレベルにまで縮小した。現在は南部の小アラル海を残し、広大な湖底沙漠が広がっている。2014年10月、NASAが2000年から各年のアラル海の衛星画像を公開し、これが日本の複数のメディアでも取り上げられたため、このアラル海危機と呼ばれる人為的災害を再度認知した人も多いだろう。アラル海危機は地域生態系の破壊、広大な湖底沙漠の出現をまねき、塩を含む砂嵐や大量の移動砂が住民の健康と生活を脅かしてきた。被害の軽減と植生拡大のため、周辺の各国政府や世界銀行などの国際機関が耐乾性と耐塩性に優れた自生灌木種の黒サクサウールを植林種とし、大規模な植林事業を実施してきた。

黒サクサウール苗 黒サクサウール苗


黒サクサウールは村で大きく育つ?
黒サクサウールの自然繁殖を促すため、種子生産が可能な成木に生長することが望ましいが、旧湖底の厳しい環境条件に阻まれ、苗の活着率さえ平均20~30%と低く生長も非常に緩慢である。一方、旧アラル海沿岸に位置するカラテレン管区の村々では高さ5 ~ 7 mにもなる黒サクサウールが家庭敷地内で育っているのを見かけることがある(写真1)。大規模な植林サイトに大量に植え付けられたものとは目的が異なり、家の敷地を飾るための数本あるいは一本が植えられている様子である。住民の話を聞けば、乾燥したこの地でも勝手に育つ黒サクサウールを取り入れれば木陰で雑談やうたた寝ができるという人や、先代が植えた木で大切にしているという人、また初夏の新緑がきれい等、生活の中の楽しみを加えるための植樹。さらに環境保全の観点から見ても、たとえ一本でも大きな成木であれば種子の量は多くその貢献は大きいだろう。本プロジェクトの活動は地域に成木数を確実に増やすことで環境に放たれる種子量を増やすという目標を掲げており、環境保全目的の植林活動にはほぼ関わっていない地域住民がその役割を担う新たなステークホルダーとして大きな潜在力を持つことに着目したものである。

配布した情報ビラの片面 配布した情報ビラの片面。「サクサウールはどんな木?」というタイトルで特長や育て方がカザフ語で説明されている。


村内の予備調査〜水道インフラと家庭菜園の広がりの影響
2016年5月、黒サクサウール苗の配布規模の検討を主な目的とし、カラテレン管区内の全世帯を訪問調査した。黒サクサウール苗の植栽を希望する世帯を把握し、加えて家庭菜園の状況と水利用の実態も調査した。その結果、全体の61.7%にあたる137世帯に苗を配布することが決まった。配布対象世帯の決定においては、希望する住民と植栽場所を相談し土壌診断から苗の活着が見込めるかどうかを判断した上で、日本で砂含量を分析するための土壌採取をした。これは高い活着率を得るための目安として100 cm深までの土壌の砂含量が指標になり得ることを過去二年の黒サクサウール圃場における土壌学的研究で明らかにしているためである。ところが今回は土壌の性質だけでは場所が決定できず、居住地域における植林ならではの事情を考慮しなければならない点が興味深かった。特に影響力の大きい社会的背景は、カラテレン管区で3年前に水道インフラが整い、水道料金が格段に安くなり、栓をひねれば水が容易に利用できるようになったことで、新しい家庭菜園が急激に増加している事である。一見村内での植林を後押しする変化のように思えるが、実際はこれにより本来乾燥地で育たない観賞用の木本や花卉、果樹、野菜が灌漑により栽培可能になり、住民の家庭菜園計画に黒サクサウールが入る余地がない場合があった。それらはしばしば非常に見栄えが美しく、水さえ十分に与えれば楽に管理できるため、住民の嗜好がそちらに移り黒サクサウールは選択肢の下位になってきているようであった。また、初めて自分の庭に植えた花や野菜が何らかの理由で全く育たなかった失敗経験のショックで、菜園を持つこと自体を拒否する人もいた。これらの状況を受け本活動では、近年の水道インフラと菜園の広がり、これに伴う人々の選択について考察する必要性、また黒サクサウールを育てるための基本的な土や水に関する知識を提供する必要性を確認した。

森林局職員と・上右:カラテレン村長 上左:森林局職員と・上右:カラテレン村長と・下:カムストバス森林局にて。森林局局長(中心)と交渉補佐の方(右)


黒サクサウール苗と情報ビラの配布〜住民と行政の協同をめざして
9月中旬、植栽予定の世帯に黒サクサウール苗を植え付けに周り、4日間かけてほぼ予定通りの地点に植栽を完了した(写真2・写真3)。また当日は情報ビラも合わせて住民に配布した(写真4)。これは本プロジェクトの趣旨説明、及び学術的知見に基づく黒サクサウール苗の管理方法を市民向けに作成したものである。カラテレン管区の村長や当地域の動植物の保全管理を担う森林局(行政機関)からもこの活動に対し賛同と協力を得たため、今回の配布活動は数人の森林局職員と共に村内を回った(写真5)。またカラテレン村長からは、「皆が黒サクサウールの生長を見られるよう、村内の最適な土地を選びショーウィンドウにしよう。」との提案を受け、村中心部の広場の花壇に活動記念として黒サクサウール苗を10本植えることとなった。今後の活動予定は、今回植えつけた苗の活着率の調査とまとめのワークショップに向けた準備に加え、黒サクサウールと人々の関係や近年の地域社会の変化を文化的、社会的側面から考察できるのではないかと考えている。

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