HOME  >  2018年以前の助成情報  >  研究助成プログラム  >  2016年度研究助成プログラム  >  プロジェクトイベント・シンポジウムレポート  >  国際シンポジウム「EthniCities: The Art of Seeing Diversity」が開催されました(研究助成プログラム)

プロジェクトイベント・シンポジウムレポート

国際シンポジウム「EthniCities: The Art of Seeing Diversity」が開催されました(研究助成プログラム)

情報掲載日:2016年5月16日


プログラム研究助成プログラム
カテゴリNOctg01 ctg05

助成対象プロジェクト「東アジアにおける『越境的多文化主義』―国境を越えた文化シティズンシップの構想と実践に向けた国際恊働プロジェクト―」(代表:岩渕功一氏、D14-R-0042)より、国際シンポジウム(@台湾)の実施報告が届きましたので、お知らせいたします。

本プロジェクトの概要については、助成対象検索ページから【D14-R-0042】と入力して検索してください。


シンポジウムの様子

2015年度研究助成対象プロジェクトの一環として、2016年4月23日と24日の二日間、台北において国際イベント "EthniCities: The Art of Seeing Diversity" が開催され、日本、台湾、韓国、香港から招聘された16人の報告者と100人を越える聴衆が参加した。本助成プロジェクトの大きな目的は、1)多文化主義は主に欧米社会において国家の社会統合の問題として論じられてきたため、多文化状況をめぐる問題と草の根の実践を東アジアの文脈から捉え直して新たな知見と実践を提示すること。2)そのうえで、(文化表現活動を中心に)越境的交流と連繋を育むことで、一つの社会のなかで実践されてきた活動と実践に新たな進展の可能性やこれまで持ち得なかったより開かれた視座を喚起し、文化多様性と共生することの価値をそれぞれの社会で醸成していくという、東アジアの越境多文化主義を構想し実践することである。本イベントはプロジェクト1年目の締めくくりとして開催され、タイトルが示すように主に移民、エスニックマイノリティによる/関する視覚表現を中心に、そうした表現活動をとおした当事者の自己エンパワメント、社会へのメッセージ発信について日本、台湾、韓国、香港からの参加者がそれぞれの事例について相互に発表するとともに、その活動のさらなる発展に向けて国境を越えた連繋の可能性について意見の交換を行った。

参加者の記念撮影

両日では5つのセッションを企画開催した。最初のセッション(SHARING)では移民・エスニックマイノリティとしての自らの体験と社会の多文化状況に関しての映像表現を行っている4人が自らの作品を見せ合い、映像表現の意義とそれを通した自らのエンパワメントについて相互の経験を話し合った。次のセッション(PRACTICING)ではプロフェッショナルとして映像表現活動に従事している4人が自らの作品と活動を紹介しながら、社会的な使命とプロとしての活動をいかに両立させているのかについて話し合った。この二つのセッションには台湾の映画監督・侯孝賢氏が参加してコメントをした。三つ目のセッション(EMPOWERING)では4つの社会で移民・エスニックマイノリティの若者の映像・アート表現活動を支援しているNGO、NPO関係者がそれぞれの支援活動について報告するとともに、今後さらに越境的な連繋を発展させていくのかについて意見を交換した。四つ目のセッション(PERFORMING)では映像以外の方法―舞台パフォーマンスと音楽表現―で移民・エスニックマイノリティとしての自らのアイデンティティや葛藤を表現している人たちがそれぞれのパフォーマンスを披露して、その意義を語り合うとともに、越境して共同作業をする可能性について論じ合った。

パフォーマンスも行われた

イベントは研究者の枠を越えて4つの社会の当事者とそれを支える人たちが一同に会する初めての機会であった。限られた時間のなかではあったが4つのセッションでは相互交流と意見交換が活発に行われた。文化表現実践が東アジアにおける下からの多文化主義の促進に重要な役割を担っていることが共有されるとともに、4つの社会でそれぞれ創造的な多文化実践が同じように行われているのを知ることで、参加者は自らの社会の状況と自分自身の考えや活動を振り返り、言語や国境を越えた対話と連繋が新たな視座や活動の展開をもたらすことに気付かされていた。また、最後のセッション(DOING)では報告者とオーディエンスが参加して、協働してアートを実践するという社会教育(public pedagogy)ワークショップを行った。参加者が五つのグループに分かれ、「習慣」「食物」「結婚」「服」「居住空間」というテーマで数分間のビデオを制作して上映し合った。言語も多様で今回のイベントではじめて顔を合わせたメンバーが、制限された時間内で行った協働作業そのものが「多様性と向き合う技法」を学ぶプロセスでもあった。「多様性と向き合うこと」の最初の「めんどくささ」を越えたところにある「楽しさ」とは何なのかを探り、それを伝える技法の構想が必要なことをそれぞれが実感して二日間を終えた。

本イベントは相互の活動紹介が中心となり今後の連繋のあり方について深く議論することはできなかったが、国境を越えた交流を深め共同作業を押し進めることでさらなる創造的な実践と開かれた視座をもたらし、ますます進展する人の移動と文化多様性の問題を共に考える対話的な学びの場を創出する、東アジア越境多文化コミュニティの構想という本プロジェクトの目的と意義を参加者の間で共有する機会となった。本プロジェクトの2年目では、越境的な視座と連繋がいかに文化多様性との共生について新たな意識と価値観を芽生えさせ、それぞれの社会での活動をより豊かにしていくのか、そのためにはどのような連繋を深めて行くべきなのかに焦点をあてて、より効果的な越境連繋と対話のあり方を構想し実践していきたい。

※シンポジウムのプログラムにつきましては、こちらをご覧ください。

このページのトップへ