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選考委員長 桑子敏雄
(東京工業大学大学院社会理工学研究科  教授)

研究助成プログラムの選考について

新たな世紀を迎えてから早くも15年になろうとしています。なかでも昨年来世界は大きな変動の渦中に突入したといってもいいでしょう。資源や国境をめぐる紛争ばかりでなく、民族や宗教の根幹に位置する価値が対立し、解決の困難な問題となって社会と個人の内面の両方で顕在化しています。
 「社会の新たな価値の創出をめざして」は、既存の価値観に安住していては、このような危機の時代を乗り越えることはできないという認識を共有できる研究者に対し、トヨタ財団が支援しようという研究助成プログラムです。
 昨年度までの研究助成プログラムは、「社会の新たな価値の創出をめざす研究(共同研究助成A1)」、「社会的課題の解決に資する研究(共同研究助成A2)」、「よりよい未来を築くために(個人研究助成B)」という三つのカテゴリーによって構成されていましたが、本年度は、「社会の新たな価値の創出をめざして」というテーマで一本化し、このテーマに果敢に挑戦しようという研究者の支援に力を入れることにしました。このテーマに沿いつつ、本年度も従来型の学問研究を超え出るような野心的な研究プロジェクトを求めています。
 本年度の応募内容を見ますと、上記のような本財団の助成理念が少しずつ理解いただけてきたように思います。価値の創出を明確に盛り込んだ研究計画書が多く見られたからです。このことは、選考委員一同、非常に喜ばしく思っています。
 応募総数691件(そのうち、共同研究助成351件、個人研究助成340件)で、助成対象となったプロジェクトは、31件(共同研究助成17件、個人研究助成14件)と、例年と同様に、相当厳しい競争率ですが、それにもかかわらず多くの応募をいただいたことは、選考委員会としても、この研究助成の重要性を再認識しているところです。
 本年度の特色としては、海外からの応募が多かったことです。しかも、外国籍の研究者と日本人の研究者がプロジェクト・チームを組み、本財団の助成の本旨をよく理解して応募していただいていることは、海外にも目を向け続けてきた本財団のこれまでの努力の成果と考えています。結果的には、海外案件の採択は少数にとどまっていますが、本プログラムは、新たなステージに入ったものと思います。

 採択されたプロジェクトの内容としては、大きく「持続可能な社会の形成」、社会的弱者へまなざしを据えた「高齢者・障がい者福祉の推進」、さらには「社会的不平等・格差の是正」などのカテゴリーにくくることができると思います。
 採択されたプロジェクトにはつぎのようなものがあります。


【持続可能な社会の形成】
D14-R-0256 ルパート・コックス(マンチェスター大学社会科学部  上級講師)
「市民的価値として聞く沖縄の環境音――健全なコミュニティの形成と世代間の関係構築に資する自然資源・歴史的資源として環境音を捉えるための共同プロジェクト」

 米軍基地による騒音など、ネガティブにとらえられがちな沖縄の環境音を、沖縄の風土に根ざした、市民的価値を生む地域の重要な資源としてとらえなおそうとするユニークなプロジェクトです。単に音を聞くための手段を提示するだけでなく、世代を超えて人と人、人と自然を結びつける、新たな価値の創出につなげようとしている点が高く評価されます。

【高齢者・障がい者福祉の推進】
D14-R-0201 ジュリアン・CH・リー(ロイヤルメルボルン工科大学デザイン・社会関係学部  講師)
「移住の拡大と東南アジアにおける『孝』の概念――アジアの核心的価値に与える移住の影響」

 アジア的な価値としての「孝」とその実践がグローバル化と人の移動の増大によりどのように変容し、どのような新たな価値を生んでいるのか、理論研究とフィールドワークの両面から探る野心的なプロジェクトです。アジアの未来を考える上で重要な示唆が得られ、また、各国の福祉・介護政策に対する実践的な貢献も期待されます。

【社会的不平等・格差の是正】
D14-R-0139 範懿(九州大学大学院芸術工学府  大学院生)
「中国農村部における自由で豊かな学校建築に関する研究――教育格差是正及び震災復興を目的として」

 中国の農村部・都市部を対象として、多様な価値を持つ創造的な人材を育成するための新しい学校空間のモデルを確立し、格差是正や震災復興などの課題に取り組もうとする、意欲的な若手研究者のプロジェクトです。災害と学校の関係は、東日本大震災での経験からも重要な課題であると言えますが、本プロジェクトは、その課題に取り組むためのユニークなアプローチの一つとして期待されます。


 選考委員会での議論では、「価値の創出」という理念については、共通の理解が得られ、高い問題意識をもつプロジェクト提案もあるが、他方、この目標をどのような方法によって研究し、その成果を得るのかという、方法論の点で、説得力を欠いているものも見受けられるということも指摘されました。
 また、トヨタ財団は、従来から「市民性と社会性」を重視してきました。今年度の研究助成の審査においても、研究と実践の両輪を意識した構成をもつプロジェクトであり、その研究成果が目に見える形で社会に届くような、コミュニティ・エンゲイジメントのあるものを優先して採択したつもりです。
 本年度の助成事業に採択された研究プロジェクトにおかれましては、上記のような点をとくに意識していただき、理念を実現してゆくための方法論の研究と、その成果の社会還元について考慮していただきたいと思います。

 トヨタ財団の研究助成プログラムは、優秀なプログラム・オフィサーを擁するスタッフによって強力な支援体制をとっていることで、これまで大きな成果を挙げてきました。採択されたプロジェクトのみなさんは、事務局と密な連絡をとり、その研究が円滑に進むように努力していただきたいと思います。
 財団では、今年度もプロジェクト間の交流にも力を入れていきたいと考えています。本プログラムの他の研究がどのような進め方をしていて、どのような成果を挙げつつあるのか、お互いに刺激しあいながら、より高度な研究成果を挙げることのできるような環境を整備したいと思っておりますので、そのような機会もぜひ活用していただきたいと思います。
 よい研究成果を期待しています。

(括弧内は昨年度)

応募件数 助成件数 採択率
(A)共同研究助成 351件(310件) 17件(14件) 4.8%(4.5%)
(B)個人研究助成 340件(327件) 14件(19件) 4.1%(5.8%)
合計 691件(637件) 31件(33件) 4.5%(5.2%)

以上

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