プロジェクトイベント・シンポジウムレポート
助成対象プロジェクトによるフィリピンでのワークショップに同行しました(国際助成プログラム)
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イベント・シンポジウムレポート
情報掲載日:2017年7月19日
7月上旬、2016年度国際助成プログラムの助成対象プロジェクト「日本やフィリピンの地方の生活様式や伝統文化の価値の再発見のための「竹」を軸としたワークショップマニュアルの制作と実践」(D16-N-0201/代表者:山下彩香)によるフィリピンでのワークショップに同行しました。
インタビューの様子:土佐山訪問時
このプロジェクトでは、日本の高知県・土佐山地区(以下土佐山)とフィリピンのルソン島北部に位置するカリンガ州・マグシーライ村が対象になっています。今回のフィリピン訪問に先立って、フィリピンチームが4月に土佐山を訪れ、すでに今回のワークショップの準備を始めていました。土佐山では、そもそも文化とは何か、伝統とは何か、といった議論を通してメンバー同士の意識をすり合わせた他、年長者に対して村での暮らしや近年の変化等について聞き取りも行いました。マグシーライ村でも、年長者の家を訪れ、インタビューを行い、地域での暮らしについて理解を深めました。
インタビューの様子:マグシーライ村訪問時
本プロジェクトは、日本とフィリピンで「竹」に着目した相互交流を行い、特に若者を対象にしたワークショップを実施するためのマニュアル制作に重点を置いています。その狙いは、失われつつある両国の山間地域の生活様式や伝統文化の価値を、再発見することを促し、そのプロセスを通じて、過疎化などの対象地域の課題解決のヒントを探るだけでなく、伝統と現代的ニーズが融合した新たな暮らし、新たな文化の可能性を提案することにあります。また、このプロジェクトを端緒として、将来的に同マニュアルをもとにしたワークショップがアジアの他地域でも行われることを念頭に置いています。
このようなワークショップが行われることは同村で初の試みで、主催者であるプロジェクトチームは、ワークショップ対象者の選定方法、協力者や資材・会場など利用可能なリソース等に加えて、地域の歴史や生活様式・環境、住民の考え方などを念頭に、プロジェクトそのもの目的と、ワークショップのコンセプトを参加者と協力者にどう説明するか等、多方面にわたって検討し準備を行いました。
議論の結果、ワークショップの対象者は高校生とし、その具体的な内容は「竹を主な材料としてミニチュアハウスを作る」ことになりました。当初は高校生10名程度および村の年長者(40〜60代)による6グループを想定していたのですが、事前の呼びかけが想像以上の関心を呼び、結果的には年長者9名を含めた総勢70名弱・9グループでの竹のミニチュアハウス作りをコンテスト形式で行うこととなりました。
グループでの議論
同村ではセメントや木材の他、現在でも竹で作られた家があります。その身近な「家」を、地元の年長者とコミュニケーションを取りながら作ることで、高校生が伝統的な技術や建築方法を教わり、そのプロセスを通じて自らの文化を振り返ることを意図したものです。そのうえで、ミニチュアハウスのデザイン等に若者の創造性(クリエイティビティ)を発揮してもらうこともワークショップの狙いでした。
竹等を切り出して資材調達
村には、のこぎりなどの工具はありますが、竹をはじめとする家造りに必要な材料は現地調達。ワークショップのオリエンテーションを終えると、高校生7〜8人と村のシニア1名という組み合わせの各グループは、竹の場所、種類、加工方法、伝統的なデザインなどの計画を練ったあと、ナタなどを手に一斉に材料調達に外に出ました。
ミニチュアハウスの制作
主な材料となる竹等の収集から実際の制作まで実質3〜4時間程度と短時間だったにも関わらず、驚くほどの速度で家が組み立てられていったことに、日比のメンバー全員が目を見張りました。竹を適切な長さに切断して骨組みを組み上げる、竹を編んだ壁を作る、ヨシなどを紐状にして各パーツを縛る、といった工程を、年長者の指導はありましたが、高校生がごく自然に行っていました。これは自然に囲まれ、普段から竹をはじめとする素材が身近にある環境にいるこの地域の人々だからこそでしょう。
各グループのプレゼンテーション
反面、当初の狙いのひとつであった創造性の発揮、つまりデザインの斬新さ等を感じる点は少なかったことも事実です。これは、伝統的な竹文化や技法が現在でも残っているからこそ、自然にそれに沿った作り方がされてしまい、創意工夫が入る余地が少なかったのかもしれません。
参加者や協力者からのフィードバックをマニュアルにどのように記載し、実施前の説明でどれほど強調すればよいのか、また、実施中にどれほど主催者が介入すべきか、といった点は、ワークショップ実施後のミーティングで重要な議論となりました。今後の課題としてプロジェクトチームで対応が検討されています。
ちなみに、ワークショップで作られた「竹のミニチュアハウス」は、チームメンバーが審査員となって採点し、1位から3位までには賞品が贈呈されました。これも対象者が楽しんでワークショップに参加できるように、という仕掛けです。こうした動機付けも、地域によって様々な工夫が必要になるでしょう。今回の賞品は、真っ暗な夜道で役立つ懐中電灯と、なんと鶏!結果発表は大きな笑いに包まれました。また、制作されたミニチュアハウスは、撮影・記録され、ウェブサイト上にアーカイブしていくことが検討されています。
土佐山の小学生宛にビデオレターを返信「Hello!」
今回の経験を経て、両チームは現在マニュアル制作を進めています。その公開を楽しみにしつつ、今後の展開にも注目したいと思います。
なお、本プロジェクトをきっかけにして、土佐山とマグシーライ村とのあいだで新たな交流の芽も生まれており、土佐山の小学生からのビデオレターに対して、マグシーライ村の小学生からの返信が撮影されました。
本プロジェクトの概要についてはこちらからご覧ください。(利根)