国内助成プログラム
2014年度国内助成プログラム東日本大震災特定課題 選後評
選考委員長 安藤 雄太
東日本大震災特定課題の狙い
発災から3年半以上が経過した東日本大震災の復興は、次のステージに移り始めている。これまで仮設住宅での生活を余儀なくされていた被災者住民の方々が、復興(災害)公営住宅-以下、復興公営住宅-に移動を始められた。これと共に、「復興公営住宅における住民のコミュニティ形成」という新たなテーマが登場する。これに鑑み、2014年度トヨタ財団東日本大震災特定課題は、その先導的な事例から、適切な教訓と効果的なコミュニティ形成ならびにその支援の方法をとりまとめ、復興公営住宅の住民や行政や社会福祉協議会、NPOなどの周囲の支援団体に対して発信することを助成プログラムの狙いに設定した。このテーマを選択した理由は、復興公営住宅への被災者住民の方々の移動が、次のような3つの喫緊の課題を抱えているためである。
●発災以前とは異なる住民構成によるコミュニティ-中心となるのは自治会―を復興公営住宅に迅速に作る必要がある。
●復興公営住宅の住民の高齢化率が高い-一般に40%以上―ことが予想されるため、住民自身と外部行政や支援団体の連携による、見守り体制を作る必要がある。
●建設される復興公営住宅周囲には、既存のコミュニティが存在している。今後それらの既存コミュニティからの支援が必要になるため、復興公営住宅住民と既存コミュニティの間の協力関係を作る必要がある。
これらは、いずれも住民自身と周囲の行政、支援団体双方にとって取り組まなければならない課題となることは間違いない。更に言えば、被災地における復興公営住宅の建設は、2015年度から本格化し、2017年度まで続くこととなっているため、今回の先導的な事例から得られるコミュニティ形成・支援の教訓と方法の必要度は高い。
公募と選考について
2014年6月9日(月)から7月11日(金)まで公募を行った。河北新報社、福島民友社などのメディアと、現地中間支援組織を通じて、被災地に向けて公募情報の周知を行った。その結果、25件の応募があり、7月28日(月)に選考委員会を開催し、6件の案件を理事会に上程することとした。応募案件の評価の際には、「当事者性があるか」、「住民、行政、社会福祉協議会、NPOなどの間の連携体制が作られているか」、「コミュニティ形成に向けての企画内容が求心的に組織されているか」といった点を重視した。
応募件数・採択件数の県別の分布は次のとおりである。
岩手 | 宮城 | 福島 | その他 | 計 | |
---|---|---|---|---|---|
応募件数 | 3 | 14 | 4 | 4 | 25 |
採択件数 | 1 | 4 | 1 | 0 | 6 |
採択案件とその特徴
採択案件とその特徴は以下のように整理できる。
実施チーム名 | 活動地域 | 立地 | 住民構成 |
---|---|---|---|
(特活)3.11被災者を支援するいわき連絡協議会 | 福島県 いわき市 |
沿岸部 | 地元被災者と原発被災者混成 |
石巻仮設住宅自治連合推進会 | 宮城県 石巻市 |
沿岸部 | 地元被災者 |
DANDANふるさとプロジェクトチーム | 宮城県 大崎市 |
内陸部 | 各地からの被災者混成 |
カリタス釜石「安心コム」 | 岩手県 釜石市 |
沿岸部 | 地元被災者 |
あすと長町共助型コミュニティ構築を考える会 | 宮城県 仙台市 |
都市部 | 各地からの被災者混成 |
(一社)復興みなさん会 | 宮城県 南三陸町 |
沿岸部 | 地元被災者 |
復興公営住宅でのコミュニティ形成がどのように進むのか、について強い影響を与えると考えられる2つの点、第1に立地-沿岸部、内陸部、都市部-、第2に住民構成-地元被災者、各地からの混成被災者、原発被災者-の双方について、バランスを取った案件群となっている。これは、今回の助成プログラムの先導的な性格に鑑み、得られる教訓と方法の今後の応用可能性をできるだけ広げるためである。
今後のプログラム運営-発信に向けて
今回の東日本大震災特定課題助成プログラムの枠組みは、実施から得られる教訓や方法の取りまとめと発信に力点を置いている。この点で、助成対象となる団体の活動を助成金によって支援するという慣例的な助成プログラムとは異なる性格を持つ。この点を踏まえ、トヨタ財団事務局には、次の3点に留意ならびに注力していただきたい。
●上記6団体間の相互学習の機会を積極的に作る。所在地、立地、住民構成は異なるとはいえ、復興公営住宅におけるコミュニティ形成という同じテーマに取り組む以上、活動や発信のスキルに関して相互に学ぶ効果は高い。
●上と重なるが、教訓と方法の取りまとめと発信のための枠組みを並行して作り、そこで6団体から提供される情報の分析、整理を行う。外部有識者の巻き込みは不可欠である。
●また、被災地のどのような団体が、今回の助成プログラムから発信される教訓や方法を必要としているかについて、キーパーソンから聞き取りを行う。有益な情報でも、それを必要とする適切なエンドユーザーの元に届かなければ、意味がない。