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JOINT35号 WEB特別版「研究助成プログラム オンラインとリアルのハイブリッドを期待して」

JOINT35号「オンラインとリアルのハイブリッドを期待して」

オンラインとリアルのハイブリッドを期待して

研究助成プログラム・特定課題「先端技術と共創する新たな人間社会」
「研究助成×先端技術」オンライン カフェ ミーティング

2020年10月から研究助成プログラムと特定課題「先端技術と共創する新たな人間社会」の助成対象者を中心に、オンラインによる交流の場としてカフェミーティングを始めました。第1期は10月15日から11月25日まで全7回開催しました。トヨタ財団ならではの分野横断的な交流の場について、ご紹介させていただきます。

オンライン カフェ ミーティング

オンライン カフェ ミーティングとは
新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、本年度は贈呈式や研究報告会などの開催が見送られ、助成対象者の方々の情報交換など交流の場をもつことができませんでした。そこで新たな試みとして「お茶を片手に気軽な集まり」をイメージして、オンラインのカフェミーティングを始めることにしました。

話題提供者による冒頭10分程度のプレゼンの後、参加者同士で自由なディスカッションをしていただきます。通常はランチタイムの12時〜13時の約1時間、飲食自由で気軽に参加できるものにしました。海外在住の方が話題提供の場合は、時差を考慮した時間帯に変更し、国内外を問わずどこからでも集まっていただくことができるようにしました。参加者は助成対象者に限定して非公開で行い、自由に活発な議論ができるよう1回あたり5〜6人と少人数にして、週1回ペースで開催してきました。

最初は研究助成プログラムと先端技術の助成対象者のみで小さく始めましたが、国内・国際助成プログラムの実践の方にも参加いただいたほうが議論が深まるのではないかということで、どの助成プログラムの方でも参加できるようにしました。


カジュアルな対話から生まれる偶発的アイディアを楽しむ
新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、人が集う機会が極端に制限され、私たちの働き方も生活様式も一変しました。今までとは全く異なる景色と先行きの見えない状況に、不安を抱いた人も多かったと思います。一方、オンライン環境でのコミュニケーションは飛躍的に広がり、場所を選ばず、海外の方とも容易に繋がれるようになったことは利点の一つと捉えることができるかもしれません。オンラインカフェミーティングも、このような状況にならなければ実施しなかったことでしょう。

そしてオンラインの会合を重ねることにより改めてリアルな対話のありがたさを強く感じました。シンポジウムなどでの討議はもちろん、その後の懇談会での雑談から新しいアイディアが生まれることがある、という話はよく耳にします。しかしそのようなちょっとした会話がコロナ状況下では難しくなり、偶発的なひらめきや気づきが少なくなっていることへの懸念がありました。変革の時代だからこそ、新たな視点や柔軟な発想が必要と言われています。そこで私たちは、オンライン上であっても助成対象者の皆さんが気軽に話すことができる場をつくれないかと思い、このカフェミーティングを始めました。

プログラムオフィサーにとって助成対象者の交流の場づくりも大切な役割であり、そのネットワークは財産であると考えています。このような場を通じて、研究者と実践者がそれぞれの視点から社会的課題をとらえ、新たな価値を社会に示す活動を、私たちはこれからも応援していきたいと思っています。当面はオンラインで続けていく予定ですが、しばらくすれば従来のように対面で安心して話ができる時が来ることでしょう。その時にはオンラインとリアルのハイブリッド型のカフェミーティングが実現できればおもしろいかなと思っています。堅苦しいものではなく、ちょっとした遊び心のあるカジュアルな場として、皆さんの意見も取り入れながら、進化させていきたいと思います。助成対象者の方のご参加をお待ちしております。

【参加者からの声(アンケートより一部抜粋)】
● 違う立場、違う取り組みをされている方のお話を聞くのは、とても新鮮で、学びも多かったです。オンラインカフェミーティングを通して異業種交流できることは、安心、有意義、新たな繋がりになります。
● 他の採択者と直接お話する機会となり、楽しく貴重な機会でした。新型コロナウイルスの影響により直接お話する機会が困難になりましたが、距離に関係なくオンラインでお会いすることのメリットもありました。話が盛り上がってきたところで、次の予定でお先に失礼しなくてはいけなかったことが残念です。

特定課題「先端技術と共創する新たな人間社会」
公開ワークショップ「コロナ時代における先端技術と社会」

2020年度で3回目となる特定課題「先端技術と共創する新たな人間社会」の公募開始に合わせて、2020年10月7日に「コロナ時代における先端技術と社会」と題しオンライン公開ワークショップを開催しました。

公開ワークショップ「コロナ時代における先端技術と社会」

コロナ時代における先端技術と社会
新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、AIをはじめとする先端技術への関心が高まりをみせています。この難局に立ち向かうためには、先端技術をどう活用し、何に留意すればよいのでしょうか。

そこで今回は、コロナ時代における先端技術と社会とのかかわりについて技術・人間・自然の共創という視点から議論しました。登壇者は「先端技術と共創する新たな人間社会」の助成対象者3名と「研究助成プログラム」の助成対象者1名とし、トヨタ財団ならではの分野横断的なワークショップを試みました。


ワークショップ
江間有沙氏からは「AIガバナンスがもたらす包摂と排除」と題し、人と技術の関係性に焦点をあてた発表をしていただきました。日本を含め世界各国でAI倫理の原則がつくられている状況と、実装レベルにおけるさまざまな課題、そしてそれらを解決していくためのガバナンス構築の必要性が示されました。

髙岡昂太氏には「子どもの幸福を守る社会インフラとしてのAI処方箋」について発表いただきました。情報化社会において「子どもの幸福を守る」ためのデジタル技術の活用を、社会インフラと考えることはできないかという提案について、児童虐待防止のためのAIシステムを事例に説明していただきました。

標葉隆馬氏の「先端科学技術をめぐるガバナンスの在り方:重要課題を理解するということ」では、先端技術が世の中に出る前段階の取り組みについて、分子ロボットを具体例に挙げて発表いただきました。ある技術が将来的に社会にどのような影響を与えるか、倫理的・法制度的・社会的課題(ELSI)の側面から、ポジティブとネガティブの両面を踏まえて洞察する試みが紹介されました。

森田敦郎氏からは「気候変動が迫る『社会的変容』とは何か:地球システムの加速的変化と2050年排出ゼロ目標が意味するもの」と題し、先端技術を気候変動という問題から捉えた発表がありました。人新世の時代に要求されるものは、テクノロジーに関する発想の転換で、イノベーションを追求するばかりでなく、テクノロジーを使った修理・ケアを重視するような脱成長(degrowth)の視点ではないかという問題提起がありました。

助成対象者4名による発表の後、ファシリテーターの城山英明先生、コメンテーターの平川秀幸先生、木村康則先生、岩田悟志先生から貴重なコメントをいただきました。今回のコロナ禍で明るみに出た社会的不合理や無駄を、今日の社会に適したものに変えていく先端技術の可能性や、気候変動のような大きな問題にどのように向き合うのかなど、助成対象者との質疑により議論を深めることができました。


技術・人・自然が競争する社会に向けて
今回の公開ワークショップでは、コロナ時代に改めて考えるべき課題として、先端技術と人間社会の話題にとどまらず、もう一つの重要な要素として自然環境を加えて議論することにより、新たな視点を皆さんと共有できたのではないかと思います。技術、人、自然、これらはいかにして「共創」することができるのでしょうか。特定課題「先端技術と共創する新たな人間社会」では、このような問題意識をもつプロジェクトを支援し、未来社会への貢献を目指したいと思っています。

【参加者からの声(アンケートより一部抜粋)】
● 先端技術がもたらす社会課題や、先端技術をもって社会課題解決に導くものなど、いずれの報告も刺激を受けるもので良かった。特に森田先生の報告について、地球環境のサスティナビリティを基礎に先端技術や人間社会を考えなければならないと切実に思った。
● 領域横断的な研究テーマ(特に人文社会系の研究がしっかりあるもの)を伺える機会は少ないため、各方面での先端の研究を拝聴させていただき、大変感謝しております。現在の自分たちの研究活動について、社会的位置づけや射程範囲、意義、課題の捉え方等を考える良い視点をいただきました。

【本ワークショップ登壇者】
江間有沙(東京大学未来ビジョン研究センター特任講師)
2018年度特定課題「先端技術と共創する新たな人間社会」。[助成題目]人工知能の倫理・ガバナンスに関するプラットフォーム形成

高岡昂太(株式会社AiCAN CTO/産業技術総合研究所人工知能研究センター主任研究員)
2018年度特定課題「先端技術と共創する新たな人間社会」。[助成題目]福祉分野における自治体のデジタルトランスフォーメーション促進の課題整理

標葉隆馬(大阪大学社会技術共創研究センター准教授)
2019年度特定課題「先端技術と共創する新たな人間社会」。[助成題目]分子ロボットロードマップ構想に向けた分野間・国際間共同研究

森田敦郎(大阪大学人間科学研究科教授)
2019年度研究助成プログラム。[助成題目]気候危機と草の根インフラストラクチャーの実験─経済とテクノロジーのローカル化と自律性の探求

公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No.35掲載
発行日:2021年1月22日

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