取材・執筆:笹川みちる(トヨタ財団プログラムオフィサー)
活動地へおじゃまします!
2016年8月下旬、韓国の済州(チェジュ)島を訪れました。済州島は韓国の最南端に位置し、「韓国のハワイ」とも称される場所です。温暖な気候のため、韓国有数のリゾート地として国内外から多くの観光客が訪れ、『冬のソナタ』、『チャングムの誓い』など日本でも話題を博した韓流ドラマのロケ地としても知られています。
済州島の特徴を表す、「三多」、「三無」という言葉があります。三多とは、「石」、「風」、「女」の3つが多いという意味です。島の地質は、火山の噴火により流出した火山岩が多くを占め、米作りには適さない石だらけの土地が広がっています。また、たびたび台風が通過するうえ、季節風の通り道にあたり、風の吹かない日はないといわれているほどです。漁業の島としても知られ、かつては海で遭難する男性が多かったこと、さらに「四・三事件」と呼ばれる1948年〜54年の間に起きた政治闘争で多くの男性島民が犠牲になったことから、女性の割合が高いといわれ、一家の生計を支えることも多い済州島の女性は働き者として有名です。「三無」とは、「泥棒がいない」、「物乞いがいない」、「門が無い(必要無い)」という意味です。済州島では、 住民同士の助け合いが暮らしに根づいており、治安がよいことが島の自慢のひとつだそうです。
今回は、2015年度国際助成プログラムのフォーラム助成対象プロジェクト「高齢化時代の『エネルギー自治』─再生可能エネルギーを活用したコミュニティの自立をめざして」(代表 中山琢夫氏)の一環として行われた日韓交流ワークショップの後半に同行しました。このプロジェクトでは、日本、韓国、タイ、ベトナムの再生可能エネルギー分野の研究者と実践者から成るチームが、相互訪問による各国の現場視察と意見交換を通して、今後につながる知見の共有とネットワークの構築をめざすものです。
- [訪問地]
- 大韓民国 済州特別自治道
- [助成題目]
- 高齢化時代の「エネルギー自治」 ── 再生可能エネルギーを活用したコミュニティの自立をめざして
カーボンフリーアイランドをめざして
今回、視察及びワークショップ開催地として済州島が選ばれた背景に、同島で進められている「カーボンフリーアイランド構想」があります。済州島の人口は現在55万人で増加傾向にありますが、産業は観光や柑橘栽培が中心で製造業に乏しいため、再生可能エネルギーは気候変動への対応策というだけではなく、新しい産業の柱として島の経済活性化に貢献することが期待されています。2030年までに「カーボンフリーアイランド」の実現をめざすチェジュ・グリーン・ビッグ・バン構想の下で、風力を始めとする再生可能エネルギーの導入や電気自動車の実証実験などが行われています。今回は、済州道庁で構想の概要を伺ったあと、風力発電団地施設・スマートグリッドの実証事業施設を訪問しました。
現在、島内の風車は約100基で、電力供給量の8%を占めています。今後さらに陸上で30基、洋上で140基増設の計画があるとのことで「風が多い」という島の気候特性を活かした再生可能エネルギープロジェクトが進んでいます。また、電気自動車の保有率は2018年には10%に達する見込みです。現状では、中央政府が主導して特別自治道である済州島で先駆的な取り組みを進めているという印象で、中央政府からかなりの予算と人員が投入されているとのことでした。地域企業や住民の参加についても取り組みは始まっていますが、まだ一般の認知度は低いようで、同行した現地ガイドの方も具体的な取り組み内容については初めて知ったと話されていました。
多様なセクターの参加者によるディスカッション
視察の前後には助成プロジェクトのメンバーと現地の政策担当者、研究者によるワークショップとシンポジウムが開催されました。今回の特徴は、研究者、実務者、行政関係者、市民団体、企業関係者、メディア関係者などさまざまな立場の日韓の専門家が一堂に集まり、議論が行われたことです。中央政府レベルの政策の成果と課題、再生可能エネルギーの普及を進めるための自治体・企業・市民の役割についてそれぞれの立場から事例紹介が行われました。
私が参加した3日目のワークショップでは、「再生可能エネルギーと地域再生:日韓の国民意識の比較を題材として」というタイトルで、法政大学サステイナビリティ研究所の白井信雄教授から話題提供があり、それを踏まえて日韓の再生可能エネルギー普及における課題と協力について、意見交換が行われました。
白井氏からは、日本の9地域と、韓国での再生可能エネルギープロジェクトへの住民意識調査について比較した報告がありました。日韓それぞれの特徴として、日本では災害リスク軽減という視点で再生可能エネルギーを活用したコミュニティ自治に対する女性の関心が高いのに対し、韓国では産業振興や技術の発展という視点で再生可能エネルギーに関心が払われており、その中心となっているのは50代以上の男性が多いことが分かりました。また日本では、住民が最も脅威に感じている自然災害が地震であるのに対し、韓国では水害や干ばつがあげられました。韓国での調査はまだスタートしたばかりということで、手法は都市部でのウェブアンケートにとどまっていましたが、これまで韓国では同様の調査事例がないとのことで韓国側参加者の関心は大変高く、今回の訪問後に済州島住民を対象とした意識調査のプロジェクトが新たにスタートしたという報告をいただきました。
滞在最終日の午後には、マグマが冷えて固まる際にできる「柱状節理」が見られる天帝淵瀑布や火山の海底噴火によってできあがったという巨大な岩山「城山日出峰」、国際平和研究所のミュージアムや民俗村を見学しました。実際に島の特徴的な自然にふれたり、背景にある歴史・文化を知ることで、観光としての楽しみはもちろん、地域における再生可能エネルギーの経済的・文化的価値についても広い視点で理解することができたように感じました。
1年間を通じた本プロジェクトの大きな意義は、日本・ベトナム・タイ・韓国の4か国での再生可能エネルギーに関する地域主体の取り組みの現場に各国のメンバーが足を運ぶことで知見を共有し、現地の多様なセクターと直接議論を交わしたことだと思います。私が同行した済州島訪問に先立っては、京都でのキックオフシンポジウム、ベトナム・ハノイでのワークショップが開催されました。また、10月には京都でのシンポジウムとタイ・チェンマイ近郊でのワークショップ、現地視察が行われ、プロジェクトは完了しました。今回共有された成果と課題、培われたネットワークを活かして、今後各地でコミュニティ自治につながる持続的な再生可能エネルギーの取り組みが発展することを期待しています。
旅のアルバム
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公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No.23掲載
発行日:2017年1月27日