HOME  >  2018年以前の助成情報  >  研究助成プログラム  >  2017年度研究助成プログラム  >  財団イベント・シンポジウムレポート  >  オープンワークショップ「社会の新たな価値の創出をめざして」@東京を開催しました(研究助成プログラム)

財団イベント・シンポジウムレポート

オープンワークショップ「社会の新たな価値の創出をめざして」@東京を開催しました(研究助成プログラム)

  • 研究助成 ctgr01 ctg01 ctg07

    イベント・シンポジウムレポート

情報掲載日:2017年5月11日

2013年度年次報告書 活発なディスカッションが展開されました

4月15日、新緑まぶしい早稲田大学の大隈記念講堂(小講堂)にて、研究助成プログラムオープンワークショップ「社会の新たな価値の創出をめざして」を、早稲田大学総合研究機構ジャーナリズム研究所との共催で実施しました(当日のプログラムはこちら)。6名の助成対象者が2人ずつ3つのセッションに分かれ、研究助成プログラムのテーマ「社会の新たな価値の創出」に対して、どのように取り組んだのか、あるいは取り組もうとしているのか、紹介しました。当日は、これらの報告を受け、選考委員長の桑子敏雄氏(一般社団法人コンセンサス・コーディネーターズ 代表理事)をはじめとするコメンテータ、そしてフロアから多くの質問や意見があり、会場全体で活発な議論がおこなわれました。約60名の参加を得たこのワークショップでは、研究活動を通じた「新たな価値の創出」はいかに可能か、さまざまな視点からの議論が展開されました。

質問に答える牧野冬生氏と佐藤宏之氏

まず、一つ目のセッションでは、“歴史・記憶の継承”に関するプロジェクトの報告がありました。牧野冬生さん(早稲田大学アジア太平洋研究センター 特別センター員)からは、カンボジアでの内戦の記憶に関して、慰霊の空間と儀礼実践についての調査を通じ、これまで「加害者」と「被害者」に二分されてきた人びとの相互の記憶の継承を可能とする、SNS型のアクティブデータベース開発を目指すことが紹介されました。また、佐藤宏之さん(鹿児島大学学術研究院法文教育学域 准教授)からは、鹿児島県出水市で実施した、戦争の記憶の継承とそのアーカイブ化、平和形成主体の育成のための学習プログラム開発について研究紹介がありました。アーカイブ化された戦争の記憶が学校や観光に利用されることにより、地域の歴史遺産として新たな価値になる、という考えが示されました。戦争を知らない子どもたちが当事者の立場で考えることができるプログラムを構築したい、とのことでした。
議論では、記録の先に活用を視野に入れる必要があること、その際に、普遍性を意識しつつも、対象地の地域性にも配慮する複眼的な視点が求められることが確認されました。そのような中、これからプロジェクトを始動する牧野さんからは、従来の切り取られた記憶の記録ではなく、例えばマッピングや旅などを組み合わせた、参加型のデータベースを作りたいといった意欲的な意見も出され、地域住民や観光客など多様な人びとを巻き込む研究成果が期待されます。

2013年度年次報告書 報告する西麻衣子氏

次に、二つ目のセッションでは、“環境保全・景観管理における価値と実践”に関するプロジェクトの報告がありました。西麻衣子さん(コロンビア大学建築・都市・保存学部大学院 大学院生)からは、石川県における事例を用いた農地の貸し借りの変化について、対面でのインタビュー調査等を通じて、農業者がどのような価値を農地に見出しているかという点に注目した研究をおこなうことが紹介されました。また、釣田いずみさん(東京大学大学院総合文化研究科 大学院生)からは、岡山県備前市の日生(ひなせ)地域でおこなわれている、漁業者による海洋保全活動に着目した研究成果の報告がありました。日生の事例では、その海洋保全活動が成功している理由として、ローカルな現場の活動を、多様な関係者がその時々の状況に沿って柔軟に支援していることが指摘されました。
そのうえで、議論では、環境保全をめぐる政策と現場には、異なる価値観が存在しており、現場での実践が政策につながっていくためには、直接的に保全の対象となっている地域やその人びとのみを考慮するのではなく、そのほかの多方面のステークホルダーへの目配りが大切であることを、会場の参加者で確認しました。環境保全や景観管理の実践において成功した事例にはどのような手続きや仕組みが鍵として存在したのか、明らかになることが期待されます。

報告する林公則氏

最後に、三つ目のセッションでは、“連帯経済の理念と仕組みづくり”に関するプロジェクトの報告がありました。似田貝香門さん(東京大学 名誉教授)からは、東日本大震災からの復興に関連する復興グッズの販売支援などの実践研究を通じ、市場経済や公共サービスとは異なる、災害時の支え合いの経済(連帯経済)についての発表がありました。また、林公則さん(一橋大学大学院経済学研究科 特任講師)からは、GLS銀行というドイツの社会的金融機関の思想と実践に関する発表がありました。GLS銀行では、お金の交換的性質や融資的性質に対して、「贈与的」な性質を重視して社会的金融の仕組みを作り多くの人を巻き込んでいるとのことでした。
議論では、2名の報告者から、いずれも連帯経済を実現するためには、さらに多数の市民基金が必要であること、また、単に寄付が増えればよいのではなく、なぜ寄付が必要なのかを社会全体のなかに位置づけ、納得して寄付できる文化の醸成が必要であるとの意見が出されました。2年間の助成プロジェクトを終えられた2名の発表から、経済という理念的になりがちな研究テーマであっても、研究と社会とのつながりを常に意識することが重要であるということがわかりました。

2013年度年次報告書 ワークショップ会場の様子

ワークショップの最後には、コメンテータから、「社会の新たな価値」につながる研究における大切な要素は何かということにつき、次のような意見がありました。

・「新たな価値をめざして」なので、“めざす”という志向性が大切。現場をベースにしながら、それが“こういうことにつながるのではないか”と常に考えることに、新しい価値があるのではないか。

・従来の「被害者」と「加害者」といった二項対立の考え方を超えた新たなつながりを生み出そうとするものや、世界がどのように新たにつながっていくのかを現場から見つけてくるものなど、実験性をもつ研究が、新たな価値につながるのではないか。

・個別の学問領域や事実の分析に終わるのではなく、理念や理想を描くもの。人びとが気付いていないような着想について、それを表現する概念を出してほしい。それが、それまで人びとが気付かなかった新しい価値になると思う。

懇親会の様子

このオープンワークショップでは、3つのセッションを通じて、研究助成プログラムが応援する“「社会の新たな価値の創出」をめざす研究”がどのような研究か、幅広く意見交換がおこなわれたと同時に、プロジェクトの実施期間を終えた方々とこれからプロジェクトを開始される方々どうしの交流の場となりました。最後に、5月21日(日)には福岡でも同趣旨のワークショップを開催いたします。まだお申し込みが可能ですので、参加をご希望の方はこちらをご覧ください。

このページのトップへ