プロジェクトイベント・シンポジウムレポート
「歴史的カイロにおいて歴史的建造物と伝統的居住様式を軸として持続的コミュニティを考える」より、講演会ならびにワークショップの報告が届きました(研究助成プログラム)
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研究助成 ctgr01 ctg01 ctg05
イベント・シンポジウムレポート
情報掲載日:2017年7月24日
5月21日の熊本でのワークショップの様子
助成対象プロジェクト「歴史的カイロにおいて歴史的建造物と伝統的居住様式を軸として持続的コミュニティを考える」(代表者:深見奈緒子氏、D15-R-0158)より、講演会ならびにワークショップの実施報告が届きましたので、お知らせいたします。
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5月24日の京都の街歩きの様子
2015年度研究助成プログラムより助成を受けたプロジェクトの一環として、プロジェクトメンバーのアラー・エルハバシー(モノフェイヤ大学建築工学部歴史的建造物修復担当教授)を2017年5月18日〜28日まで日本に招聘し、各地で講演会、ワークショップを行った。
プロジェクトでは、エジプトの首都カイロのダルブ・アフマル地区のスーク・シラーフ(武器市場通り)に面する歴史的住宅バイト・ヤカーン(ヤカーン邸)で月に一度のペースで2017年5月までに8回にわたりワークショップを開催してきた。アラー氏はダルブ・アフマル地区において、2000年代に考古局の修復に関わったことに加え、現在ワークショップが会場としているバイト・ヤカーン(主としてオスマン朝期、ムハンマド・アリー期、部分的にマムルーク朝時代の遺構を含む)を修復中である。バイト・ヤカーンでプロジェクトのワークショップを開くことにより、周辺コミュニティの遺産や歴史に対する意識の変革が順次計られている。彼は今後この地区のコミュニティと公的権力との仲介者となれる人物であり、日本での経験が本プロジェクトの継続性に与える影響は大きいと考えている。
今回、熊本、川越、京都、東京の谷中といった日本の伝統的な建造物を保存・活用している地区を中心に見学と地域の担当者および住民との会合をもうけ、意見交換を行い、日本での文化遺産保全に関する住民参加の状況、また街並み保存の実例の見学を行った。これを通して、文化遺産保全の日本における蓄積をカイロでの問題解決に適応することとなり、また公的権力と住民とのあり方のエジプトと日本との差異が明確になりつつある。
熊本には5月19日〜22日まで滞在し、鶴嶋俊彦(熊本市経済観光局熊本城調査研究センター文化財保護・主幹)及び伊藤重鋼(熊本大学工学部・教授)の案内による熊本城の復旧作業の見学、冨士川一裕(熊本まちなみトラスト・事務局長)及び伊藤の案内による、新町古町の街づくりと被災状況の見学を行った。5月21日には、熊本のPSオランジュリにて、熊本まちなみトラストと共催し、ワークショップ「エジプト・カイロの歴史的街区と生活環境の共生-新町古町の共通点を踏まえた展望」を開催した。講演は、原田怜(東京藝術大学美術学部・特任研究員)、アラー(モノフェイヤ大学建築工学部・教授)(以上プロジェクトメンバー)、冨士川が行った。司会は、プロジェクトメンバーの岡田保良(国士舘大学イラク古代文化研究所・教授)が担当し、また、ディスカッションには同じくプロジェクトメンバーの宍戸克実(鹿児島県立短期大学生活学科・准教授)が加わり、合計13名でディスカッションを行った。(プログラムはチラシを参照)
次に、京都に移動し、5月22日〜25日まで滞在し、プロジェクトメンバーの布野修司(日本大学生産工学部建築工学科・特任教授)の他、魚谷繁礼(魚谷繁礼建築研究所)、森田一弥(森田一弥建築設計事務所)の案内により京都の都市組成と歴史的住居のリノベーション例の見学を行った。5月24日には、京都のもやし町家にて、講演会「カイロと京都 歴史都市と建築」を主催した。講演は、アラー、魚谷、森田、川勝真一(RAD)、文山達昭(京都市役所)が行った後、コメンテーターとして布野、深見を迎え、柳沢究(京都大学大学院工学研究科・准教授)のコーディネーターにより、30名以上の参加者とともに進めた。(プログラムはチラシを参照)
最後に、東京に移動し、5月25日〜28日まで滞在した。5月27日には、川越の伝統的建造物群保存地区を荒牧澄多(NPO法人全国町並み保存連盟・常任理事)の案内により見学した後、川越市立博物館にて、川越蔵の会と共催し、講演会「歴史的地区における持続的コミュニティとは?」を開催した。講演は、アラー、深見、荒牧によって行い、52名が参加した。(プログラムはチラシを参照)
5月27日の川越の街歩きの様子
5月28日は、NPOたいとう歴史都市研究会の案内による上野公園と谷中の街づくりを見学した後、朝倉彫塑館において、アラーと椎原晶子(NPOたいとう歴史都市研究会・副理事長)が講演を行い、NPOたいとう歴史都市研究会、谷中地区まちづくり協議会環境部会、一般社団法人谷中のおかって等の担当者と、プロジェクトメンバーのアラー、深見、原田で意見交換を行った。
5月28日の谷中での講演の様子
招聘中多くのアイディアが生まれ、プロジェクトメンバーの中で活発な意見交換を行った。この結果、一年目の活動は、地域の人が今ある環境に目を向けるためのワークショップのテーマを設定していたが、二年目の活動目標としては、地域の人が今ある環境をどのように変化、活用させていきたいかを考えるテーマを中心としたワークショップにしていくこととした。また、これらのワークショップや講演会を通して、現在カイロの当該地域で芽生えつつある住民の文化遺産に対する意識をどのように持続させていくのかということが、大きなテーマとなることが判明した。そのために、1)将来リーダーとなるような若い世代(中学生や高校生)と情報交換を行うこと、2)現在コミュニティを主導している壮年・青年層とのワークショップを開くこと、3)日本の外務省によるODAプロジェクト(草の根・人間の安全保障無償協力)に応募することなどを、2年目の活動目標とした。本プロジェクトがカイロ遺産地区における一つのモデルケースとなるよう、今後とも努力したい。