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選考委員長 桑子敏雄
一般社団法人コンセンサス・コーディネーターズ  代表理事
​東京工業大学 名誉教授

研究助成プログラムの選考について

トヨタ財団の研究助成プログラムは、人類共通の崇高な理念への情熱が褪せ、自己中心的な個や国家への傾斜が高まってゆく潮流のなか、「社会の新たな価値の創出をめざして」というテーマを掲げつつ、激変する世界の未来を照らすべき新しい価値の灯火を求めて、研究に志す人びとの意欲に期待してきました。
期待される研究は、その成果が優れたものであり、「社会の新たな価値の創出」を実現すること、その意味で社会に貢献する研究であることはいうまでもありません。しかし、トヨタ財団による研究助成のねらいは、それだけではありません。もう一つ、助成対象者が自身のプロジェクトを前進させることを通して社会に貢献することができる研究者として大きく成長していけるように支援するということも、研究助成プログラムの大切な目的です。
本年度の選考を終えて特に感じることは、採択されるプロジェクトの主体となる研究者が以前よりも確実に若くなっているということです。研究助成プログラムでは、毎年、若手の研究者に期待しながら選考を行ってきましたが、これまでは個人研究助成の枠に若手の応募が集まる傾向がありました。本年度は、共同研究助成の枠にも優れた応募が多く、なかにはかつて個人研究助成の枠で助成を受け、そのときの成果を発展させて、今回は共同研究プロジェクトのリーダーとして、あるいはメンバーとなって応募し、最終的に採択されたケースもあります。
本年度の研究助成プログラムでは、採択された31件の内、40代以下の研究者が代表者を務めるプロジェクトは29件と圧倒的多数を占めました。メンバーに20代から70代まで幅広い年齢の参加者が含まれるプロジェクトのリーダーとなっている研究者が43歳という例もありました。
もちろん、個人研究助成の枠でも、若い研究者の優れた応募が多数採択されました。大学院生による果敢な応募もあり、3件が採択されました。
また、今日の男女共同参画社会においては、女性が研究で活躍することが強く期待されています。今回の選考では、共同研究助成の枠で採択された18件の内、9件が女性の代表者によるプロジェクトとなりました。
さらに、もう一つ特筆すべきことがあります。「社会の新たな価値の創出」をめざす研究というと、人文・社会系の研究に偏りがちになってしまいます。しかし、医学系、理工系などの研究者であっても、社会との関係を避けることはできません。このような場合、社会とのかかわりは人文・社会系の研究者に委ねられる傾向もありましたが、今回は人文・社会系の研究者をメンバーに迎えながら、医療・看護の現場で活躍する研究者がリーダーとなるプロジェクトなども採択されました。
例年どおり、国内外から多数の応募が集まりました。海外からの応募が多いことがトヨタ財団の研究助成プログラムの特徴ですが、そのなかでは日本人研究者をメンバーに含むプロジェクトも目立つようになっています。国際的協働という形が目に見えるように多くなっています。
選考委員会としては、応募された研究計画の内容も評価しますが、同時にプロジェクト・チームの陣容にも注目し、多彩な分野での協働によって新たな研究が生まれるのではないかという期待をもって選考を行っています。研究助成プログラムへの応募に当たっては、このようなことも考慮し、多彩な分野の研究者を組織した斬新なプロジェクトを立案してほしいと思います。

本年度は、合計31件のプロジェクトが採択されました。さまざまな研究の分野が含まれていますが、「社会の新たな価値の創出」に向けた貢献が期待されるプロジェクトとしては、共通の特徴を見出すことができます。以下、多数の選考委員による支持を集めたプロジェクトの例を紹介します。


(A)共同研究助成
D17-R-0540    尾崎  章彦(南相馬市立総合病院外科  科長)
「福島県におけるWell-beingを高める保健医療体制の追求―福島原発事故からの真の復興を目指して―」

本プロジェクトは、福島県相馬市・南相馬市を対象に、東日本大震災および福島原発事故後のがんのリスクを包括的に評価した上で、地域住民のWell-beingを高める保健医療体制のあり方を解明しようとするものです。若手の医療従事者・研究者が中心となり、原発事故による健康影響の全容を把握し、将来の地域・社会像につながる議論を推し進めようとする意欲的なプロジェクトであり、具体的な成果の提示が期待されます。


(B)個人研究助成
D17-R-0128    パワン  ディープ  シン(ディーキン大学文学・教育学部  次世代ネットワーク研究員)
「インドにおける生体認証プロジェクト―デジタル時代のプライバシーと新しい社会的自由―」

生体認証制度の導入をめぐる議論が熱を帯びるインドをフィールドとして、そのなかで、プライバシーの観念がどのように生成され、制度化されるのかということを明らかにしようとするプロジェクトです。情報技術の活用と人権の問題に関し、正面から取り組もうとする野心的な研究であり、丁寧な資料調査と聞き取り調査を通じ、インドの場合にとどまらず、広く社会のための新たな価値の創出につながる知見が得られることが期待されます。

(括弧内は前年度)
応募件数 助成件数 採択率
(A)共同研究助成 452 (429) 18 (17) 4.0% (4.0%)
(B)個人研究助成 393 (449) 13 (23) 3.3% (5.1%)
合計 845 (878) 31 (40) 3.7% (4.6%)
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