HOME  >  2018年以前の助成情報  >  国際助成プログラム  >  2014年度国際助成プログラム  >  プロジェクトイベント・シンポジウムレポート  >  ワークショップ「多文化共生社会形成における地方自治体の役割」が開催されました(国際助成プログラム)

プロジェクトイベント・シンポジウムレポート

ワークショップ「多文化共生社会形成における地方自治体の役割」が開催されました(国際助成プログラム)

情報掲載日:2014年10月14日

イベント・シンポジウムレポート

ワークショップ「多文化共生社会形成における地方自治体の役割」が開催されました(国際助成プログラム)

フィールドビジットの様子。ミャンマーなどからの移民の子どもたちが通う学校を訪問した。

9月23日(火)に、バンコクのマヒドン大学人口社会調査研究所で、ワークショップ「多文化共生社会形成における地方自治体の役割」が開催されました。

このワークショップは、アジア工科大学院(AIT)の日下部京子氏を代表とし、弊財団2013年度国際助成プログラムの助成を受けた企画「多文化共生社会形成における地方自治体の役割―県/市レベルの移民政策と実践についての日タイ対話」(D13-N-0026)の一部として実施されたものです。このプロジェクトは、移民の移住先での住民との関係や、子供の教育、伝統や文化の継承、アイデンティティの形成といった、移民が日々直面する社会的な課題に焦点をあてています。具体的には、日本の横浜市とタイのサムットサコーン県を対象に、地方自治体が住民としての移民に対して、いかに社会的サービスを提供しているか、その取り組みと努力を比較・検討します。このワークショップは、前日に行われた対象地へのフィールドビジットと合わせて、地域で活動するアクターの取り組みを見たうえで、改善に向けた課題やニーズを議論し、政策提言に反映させることを目指したものです。

フィールドビジットでは、バンコクから車で1時間ほどのところにあるサムットサコーン県に訪れました。同県はタイ有数の港町であり、水産加工を行う工場が多数存在します。そうした工場ではミャンマーをはじめ、周辺国からタイに来た多くの人々が働いており、その子どもたちは地元の学校で学んでいます。移民の支援に携わるNGOのコーディネーションのもと、ある公立学校を訪問しました。

その学校では、多くの子どもたちが一緒に勉強し、遊んでいました。学校を案内してくれた職員から「誰がタイ人で、誰がミャンマー人だか、わかりますか?」と聞かれました。制服を着て元気に走り回る子どもたちの国籍や民族のバックグラウンドは多様であるはずですが、外見からはまったくわかりません。

教室では、15歳程度までの子どもが、タイの言葉や生活習慣・文化などについて、学年・年齢別ではなく、習熟度別のクラスに分かれて学んでいました。日本の参加者が習熟度別クラスに驚いていると、「日本ではどうしているのですか?」という質問がありました。日本からの参加者が、「日本語の能力に関係なく、年齢に応じて学年に割り振られるため、いきなり高度な国語(日本語)の授業を受けることになり、ついていくことが非常に難しい」という状況を説明しました。

ワークショップの様子。2グループに分かれて議論し、研究者やNGOが個々の取り組みや経験を紹介しながら、意見交換を行った。

この学校には、地元の民間企業からの支援も入っています。子どもたちの親の主な雇用主である地元企業が昼食費や文具・制服等をサポートしているとのことでした。この地域の企業にとって、移民は貴重な労働力であり、同時に地元での顧客でもあります。彼らは、住民登録等の行政手続きについても、身元保証などの面で雇用している従業員をサポートしているそうです。事実、ミャンマー人が多く住む地域を歩くと、行き交う人々の多くが、ある水産加工を行う企業名が書かれたポロシャツを着ていました。こうした企業は欧米にも加工品を輸出していることから、国際社会のなかで企業の社会的責任が求められていることは事実だそうですが、こうして民間企業が地域の重要なステークホルダーとして存在し、公立の学校にも支援が行われているという一面は興味深いものでした。

ワークショップには、タイ、インドネシア、シンガポール、日本での対象地である横浜からの研究者、NGO関係者に加え、前日に訪れたサムットサコーン県の学校関係者や入国管理官も参加し、各国・地域の事例発表の後に議論が行われました。周辺国からの移民について、国籍等に関わらず、未来ある子どもは教育を受ける権利があるという認識が共有され、彼らがタイ社会に参画できるようにするための学校の重要性と、その方策に関する意見が多く出されました。学校だけでなく、タイ人を含めて多くの移民に共通する仏教文化に着目して、寺院を教育の場として活用しているという事例も共有されていました。また、習熟度別のタイ語クラスを設けるといった個々の学校の努力に加え、親の事情で繰り返しミャンマーと行き来する子どもたちのために、ミャンマーの教育カリキュラムとどのように合わせればよいか、単位の認定などをどうすべきか、といった制度・仕組みに関する議論もありました。

ワークショップとフィールドビジットを通して、他国の現場の取り組みを見て議論したことで、日本を含む他国からの参加者が学んだことは大きかったと思われます。特に地元の学校での習熟度別クラスの導入といった柔軟性に対しては、日本の参加者から「うらやましい」という声も聞かれました。訪問したサムットサコーン県には、周辺国からの移民の他にも、歴史的にモン族が多く住んでおり、もともと多文化的な背景を持つ同地域の取り組みを、そのまま他の地域に援用することは出来ないかもしれません。しかし、そうした地域であっても、いまなお移民を地域社会に受け入れるために努力が必要とされていることは、多分化共生を進めようとする多くの国・自治体にとって学ぶところが大きいのではないでしょうか。

今後、これまでの調査とワークショップをふまえ、プロジェクトメンバーが日本の横浜市とタイのサムットサコーン県の双方で政策提言をまとめます。横浜市では、多文化共生について同市の課題や現状に関するデータを掲載する参加型のウェブサイトであるローカルグッドにおいて政策提言を公開し、広く意見と議論を募る予定です。タイでは、学校への支援などを含めた政策提言をタイ語と英語でまとめます。10月中にサムットサコーン県の知事に同提言を手渡し、議論をするとともに、マヒドン移民センターのウェブサイトでも公表し、広く意見を求める予定です。

本プロジェクトの概要は、「助成対象検索」から「日下部京子」と入力して検索してください。

このページのトップへ