プロジェクトイベント・シンポジウムレポート
「国際水協力年/ソムニード設立20周年記念シンポジウム『地域コミュニティがつくる水の未来』(大阪会場)」が開催されました。(アジア隣人プログラム)
情報掲載日:2013年8月28日
「国際水協力年/ソムニード設立20周年記念シンポジウム『地域コミュニティがつくる水の未来』(大阪会場)」が開催されました。(アジア隣人プログラム)
8月17日(土)にNPO法人ソムニード主催による「国際水協力年/ソムニード設立20周年記念シンポジウム『地域コミュニティがつくる水の未来』(大阪会場)」が開催されました。
本プログラムは、当財団2012年度アジア隣人プログラム特別企画「未来への展望」の助成の一環で開催されたものです。特別企画「未来への展望」は、国際協力NGOを中心とするアジア各地で実践活動をしてきた団体がその経験を振り返り、その過程で明らかとなった知見や未来に向けた提言を報告書としてまとめ、広く社会に発信する企画に対して助成するプログラムです。
今回のシンポジウムは、岐阜県飛騨高山に本部をおくソムニードが、活動の中心となっている「水、土、森、コミュニティ」をテーマに主催し、活動地域である南インドの現地スタッフが参加、水やコミュニティに関する国内の活動団体とも連携して開催されました。シンポジウムは大阪会場の他、名古屋会場でも開催、さらにシンポジウムに先駆けたクローズドプログラムとして、インド現地スタッフによる日本国内でのフィールドワークも実施されました。ここでは当財団スタッフが参加した大阪会場シンポジウムの様子をご紹介します。
シンポジウムは3部構成となっており、第1部の佐久間智子氏(アジア太平洋資料センター理事)による基調講演「世界と日本の水事情」に続き、第2部ではソムニードのインドでのプロジェクト事例報告、第3部では質疑応答及びパネルディスカッションが行われました。
佐久間智子氏による基調講演
第1部の基調講演では、マクロな視点から見た世界規模の水問題が扱われ、都市化や森林減少・砂漠化と連動した陸地の保水力の低下や我々のライフスタイルの変化に伴う一人当たり水使用量の増加がもたらす「水危機」、バーチャルウォーターの視点に立った水資源分配の不平等などについて具体的な数値を基に話が展開されました。バーチャルウォーターとは、食料を輸入している国において、もしその輸入食料を生産するとしたら、どの程度の水が必要かを推定したものです。また、農業が水に与える多大な影響とそれに伴って水自体が投機対象となっている現状についても指摘がなされました。
一見、水が豊かで水危機とは無縁に感じられる日本が実は640億トンという世界有数のバーチャルウォーター輸入国であり、国外の水資源なしには我々の生活が成り立たないことや、本来、生きていくための基本的権利であるべき水へのアクセスが市場原理によって支配されている現実を改めて認識させられました。
南インドの事例報告より「流域(watershed)」の概念図
第2部ではMudnuru Ramaraju氏(ソムニードインドプロジェクトオフィサー)、前川香子氏(ソムニード海外事業チーフ)より、ソムニードが2007年より南インド、アーンドラ・プラデシュ州で取り組んでいるコミュニティを主体とした小規模流域保全(Small Watershed Management)プロジェクトの経過・現状・展望が報告されました。
100〜150世帯規模の流域を単位とし、住民との徹底的な対話を通じて、コミュニティの自然資源を再認識することからスタートし、どのような保全策が必要か、そのための行動計画をコミュニティ主体で作り上げていくプロセスが丁寧に示され、実際に実践され効果をあげている様子が紹介されました。コミュニティ主体の持続的管理への移行、そして周辺地域へ取り組みを広げていくことが次の段階の活動として予定されているとのことでした。
ソムニード和田氏、中田氏を加えたパネルディスカッション
第3部の質疑応答とディスカッションでは、南インドをはじめとするアジア諸国と日本をつなぐ、コミュニティが直面する共通課題として「水」が重要なファクターになっていること、今後のソムニードの活動の展望として、人材育成に力を入れコミュニティと対話しながら資源管理の方針と行動計画を策定していく方法論の継承と普及に力を入れていくこと等が話題にのぼりました。
また「Sense of place」という表現を用いて、身近な場での資源の循環・つながりを責任持って感じる力の重要性が提起され、特に都市のライフスタイルにおいてそれが失われている現状への危機感と、マクロでの自然資源管理は小さな単位での資源管理のあり方を元にしたネットワークになっていかなければいけない、その維持のために、開発途上国で積み上げてきた知見が日本の中山間地域でも活かせるのではないか、ソムニードとしてこれからもう少し腰を据えて国内のプロジェクトにも関わっていきたいという言葉が印象的でした。
国際協力活動の積み重ねの中に、国内での地域活性化活動で活きる知恵や技術が豊かに蓄積されており、またその逆も言えるのではないか、今後、双方の交流と共有がますます重要になってくるのではないかと思われます。また、地球規模でのマクロな水危機と我々のライフスタイルのつながりと、ミクロなコミュニティ単位での水管理を意識した時に我々のライフスタイルが抱える問題を改めて考える機会となりました。(国際助成グループ 笹川記)