国内助成プログラム
国内助成プログラムの選考について
選考委員長 萩原なつ子
「未来の担い手と創造する持続可能なコミュニティ― 地域に開かれた仕事づくりを通じて―」
2018年度国内助成プログラムは、「未来の担い手と創造する持続可能なコミュニティ ―地域に開かれた仕事づくりを通じて―」というテーマのもと公募を行いました。
本プログラムでは、地域に暮らす一人一人が地域課題の担い手として主体的に活動できる「仕事」づくりとその担い手となる人材を育てるプロジェクトへ助成をしています。
事業に対して助成を行う「そだてる助成」、そして調査・関係構築・事業戦略立案など、本格的に事業を実施する前の段階に対して助成を行う「しらべる助成」の二つの枠組みがあります。また、昨年度からは過去の助成対象プロジェクトに限定して、プロジェクトの成果を社会に広く発信し、既存の社会の仕組みや価値観を問い直すとともに、それらを変えていくことを目指す政策提言・社会提案に対して支援を行う助成枠「発信・提言助成」も設定しました。
選考結果について
本年度は、9月1日から10月10日まで公募を実施し、「しらべる助成」147件、「そだてる助成」162件、「発信・提言助成」9件の応募がありました。公募期間には事務局が、岩手・福島・新潟・長野・東京・島根・福岡・岡山で公募説明会を実施しました。
選考委員会は、6名の選考委員で行われ、「しらべる助成」20件、「そだてる助成」14件、「発信・提言助成」2件を助成対象候補として決定いたしました。助成対象候補となったプロジェクトについて特徴的なものをここに紹介します。
<しらべる助成>
「若手社会人のための「地域同期」-自分らしく地域で働くためのつながり」
(一般社団法人 ISHINOMAKI2.0)
宮城県石巻市圏域(主に石巻市、東松島市、女川町)で働く20~30代前半の若手社会人をターゲットに、地域の若手社会人が会社や業種を超えてつながるネットワーク「地域同期」をつくることを目的としたプロジェクトになります。「しらべる助成」では、石巻圏の企業を対象としたアンケートやヒアリング調査によるニーズ把握、パイロット事業での効果測定を行い、来年度以降の本格実施を目指します。
地域の中小企業が抱える課題解決の一助になり、そして近年注目されている早期離職や都市部への流出を防ぐための「同期プロジェクト」として、事業への展開の可能性もあるという点も期待したいという意見がありました。
<そだてる助成>
「ママが笑顔の街、気仙沼プロジェクト-みんなで日本一の幸せな子育て世帯を」
(特定非営利活動法人 Cloud JAPAN)
昨年度「しらべる助成」を受けて、子育て世代へのアンケートを実施した結果、「子育て世帯が元気でいられる」街を実現する上で、「自分の時間をもてる」ということが重要な要素であることがわかりました。その上で民間で取り組めることとして今回のプロジェクトでは担い手(子育てしている母親)が、不定期かつ一時的に子どもを預ける場所を運営します。子育てをしながらも一人の人として平等で自由な時間を得られる、子育て世帯が住みよい街を実現するプロジェクトです。
「しらべる助成」により当事者が抱える課題、既存の法律、制度の限界について丁寧に調べられており、分析から導き出された課題解決に向けて必要となるプロジェクトという意見がありました。
<発信・提言助成>
「もりのようちえん認可制度提案 -国への政策提言を目指して」
(特定非営利活動法人智頭町森のようちえんまるたんぼう)
過去の助成で、鳥取県智頭町で子育て世代と職人、ヨソモノとジゲ(地元民)など様々な力を集めて、古民家を森のようちえんの園舎としてよみがえらせる取り組みを通し、智頭への移住の促進や地元理解を図る仕組みを構築しました。「発信・提言助成」では全国の森のようちえん団体を組織する「NPO法人森のようちえん全国ネットワーク連盟」や学識経験者等と連携し、①森のようちえんの教育的効果、行政支援の効率化の妥当性(待機児童対策への効果)、移住促進への効果等の検証(調査研究)、②地方自治体向けの勉強会、③国に対して新しい認可制度の提言、④自治体や一般市民向けのシンポジウムを行うことを目的としています。
未来世代への投資として必要な取組であり、潜在層も含めて関心を持つ層は多い、発信することで広い波及効果が見込まれるプロジェクトとして期待したいという意見がありました。
次に、今年度の選考を振り返り、選考委員から挙げられたコメントを紹介します。今後の応募の際の参考にしていただきたいと思います。
<しらべる助成>
・全体的に何について「しらべる」のかという調査仮説の立て方が弱いものが多い。
・助成を受けて調査を実施している方同士の学び合いが効果的。中間段階で集まれる場を設定することを事務局に提案したい。
<そだてる助成>
・今の日本の持っているテクノロジーの力や科学技術の力を活かした申請書がもっと増えてもいい。
・「しらべる助成」から「そだてる助成」へと進む場合には、そだてる助成では「事業」と「担い手」が育つことが期待されているということを理解して応募してもらいたい
・社会的意義のあるものをどうやって稼げるものにしていくのか永遠の課題である。
・稼ぐことは大事だが、一方で稼ぐ仕組みで成功してしまったがゆえ、社会保障にならないケースがある。むしろ稼ぐ方向にいってはいけない活動もある。
最後に
本年度も「しらべる助成」、「そだてる助成」ともに、当事者性のある、地域の特性や特徴を生かした「仕事」を創りだそうというアイディアにあふれる提案が寄せられました。また「発信・提言助成」への提案はこれまでの活動にもとづいた堅実かつ社会の変革を目指すものでした。選考委員会ではひとつひとつ丁寧に評価作業を行い、活発に意見交換しながら選考いたしました。
残念ながら助成対象から外れてしまった提案のなかにも、変化する社会に対して真摯に向きあい、地域課題の解決をめざす意欲に満ちたものが多くありました。引き続き歩みを止めることなく、再度チャレンジをしていただきたいと思います。