国内助成プログラム
国内助成プログラムの選考について
選考委員長 萩原なつ子
「未来の担い手と創造する持続可能なコミュニティ― 地域に開かれた仕事づくりを通じて―」
国内助成プログラムは、「未来の担い手と創造する持続可能なコミュニティ― 地域に開かれた仕事づくりを通じて ―」というテーマのもと、地域に暮らす一人一人が地域課題の担い手として主体的に活動できる「仕事」づくりとその担い手となる人材を育てるプロジェクトへ助成をしています。
昨年度より、事業に対して助成を行う「そだてる助成」に加えて、調査・関係構築・事業戦略立案など、本格的に事業を実施する前の段階に対して助成を行う「しらべる助成」の枠組みを新設しました。事業を実施する前に課題の調査・分析、関係者の巻き込みを丁寧に取りくむことが重要であるという考えのもと設定したものです。
さらに本年度は、過去の助成対象プロジェクトに限定して、プロジェクトの成果を社会に広く発信し、既存の社会の仕組みや価値観を問い直すとともに、それらを変えていくことを目指す政策提言・社会提案に対して支援を行う助成枠「発信・提言助成」を設定しました。
選考結果について
本年度は、9月1日から9月29日まで公募を実施し、「しらべる助成」171件、「そだてる助成」230件、「発信・提言助成」3件の応募がありました。
選考委員会は、6名の選考委員で喧々諤々の議論が行われ、「しらべる助成」16件、「そだてる助成」10件、「発信・提言助成」1件を助成対象候補として決定いたしました。助成対象候補となったプロジェクトについて特徴的なものをここに紹介します。
<しらべる助成>
「鹿児島の多文化共生基礎調査 ―在留外国人も共に主体となる地域づくりへ」
(鹿児島県多文化共生推進ネットワーク)
鹿児島において研究者、NPO、企業が連携して、在留外国人(特に外国人技能実習生)の置かれた状況とそれを支える資源について調査を行います。調査を通じて企業、NPO、行政などのプラットフォームを構築することをめざすプロジェクトです。
重要かつ緊急性の高い課題であり、他地域への波及効果について期待する意見があった一方、出口対策にとどまらずより根本的な状況改善に結び付ける視点も期待したいという意見がありました。
<そだてる助成>
「関に若者が戻り、住み続けられる地域へ」
(せき・まちづくりNPOぶうめらん)
昨年度「しらべる助成」を受けて、岐阜県関市にUターンして暮らし続けるための問題構造図を作成しました。今回はその調査結果を踏まえ、(1)高校卒業までに地域を支える産業が何なのかを知るための事業、(2)市外に出た後も34歳まで関の情報を提供し続ける仕組みづくり、(3)Uターン希望者が働く場所を探すことができる事業に取り組むプロジェクトです。
「しらべる助成」により問題構造を丁寧に分析したうえで企画された事業であり、全国的なモデルとなり得るのではないかと期待する意見がありました。さらなる期待として、地域エゴにならない若者の目線に立ったコミュニケーションを常に意識してほしいというコメントがあげられました。
<発信・提言助成>
「内陸部からの海ごみ発生抑制 ―地域から始める脱プラスチック社会への挑戦」
(特定非営利活動法人プロジェクト保津川)
過去の助成で、地域住民が参加して、保津川流域で川ごみの調査、清掃活動の充実や環境教育などを実施してきました。それだけでは限界がある中で、今回のプロジェクトでは(1)日本国内の多くの河川のごみでもっとも多くを占めている飲料用ペットボトルの散乱を抑制するためのデポジット制度の導入、(2)レジ袋の使用禁止も視野に入れた包括的な無償配布の禁止、(3)ごみの散乱のリスクが高い野外イベントにおけるリユース食器の利用促進の3点について亀岡市や関西圏で提言することを目指します。SDGsに対するアプローチに欠かせない取り組みを地域レベルで実現しようとするプロジェクトであり、日本のみならず世界に発信できるプロジェクトとして期待したいという意見があがりました。
次に、今年度の選考を振り返り、選考委員から挙げられたコメントを紹介します。今後の応募の際の参考にしていただきたいと思います。
<しらべる助成>
・過去の事例を調べると参考となる情報がたくさんあると思うので、積極的に調べてほしい。
・「問い」の立て方が弱いものが多い。何が足りないのか。なぜそうなっているのか。どうすれば今ある状況が変わるのか。こうした視点が調査の「問い」となっていなければいけない。
・何がその事象の原因だと考えているのか、という説明が求められている。現象に対する記述はあるが、原因と構造の説明(または仮説)が不十分なものが多いので、意識して記載してほしい。
<そだてる助成>
・既視感がある提案が多い。アイディアに震えるところがないと、事業を実施して検証することの必要性を十分に理解することができない。
・そだてる客体(対象・ターゲット)の特定とその結果客体に起こる事象が重要。やりたいことありきの提案では、その取り組みの魅力は伝わらない。
最後に
3年目を迎えた「未来の担い手と創造する持続可能なコミュニティ―地域に開かれた仕事づくりを通じて」のプログラムへ、今回もたくさんの応募を全国からいただきました。地域活性、地域創生を推進するうえで不可欠な「担い手」育成を実現するには、多様な主体との連携・協働が求められます。「そだてる助成」の提案にはそのような視点をこれまで以上に重視にしたものが目立ちました。また昨年から新たに加えた「しらべる助成」を受けた団体がその成果をもとに提案してきた事業も複数あり、大変嬉しく思いました。地域課題の解決の基礎には地域の課題や地域資源の発見、そして担い手の発見にもつながる「しらべる」ことの大切さを改めて確認することができました。二年目となる「しらべる助成」にも多くの応募をいただきました。来年の「そだてる助成」の事業提案につながるような成果を大いに期待したいところです。
選考委員会では、一人でも推薦のあった提案も含めて、ひとつひとつの提案に昨年にも増して時間をかけ、丁寧な審査を行いました。成果が期待できる提案の選考ができたのではないかと思っています。助成対象となられた団体のみなさんには、選考委員会からのコメントやプログラムオフィサーからのアドバイスを参考に提案事業の実現に向けて大いに頑張っていただきたいと思います。
また、惜しくも助成対象とならなかった団体のみなさんも選考については、結果はあくまでも今後の可能性における相対的な評価の結果であり、ご提案いただいたプロジェクトについては評価する意見もありました。今後とも地域を「しらべる」活動や持続可能な地域社会を担う人々を「そだてる」活動を展開していただくことを願っています。