公益財団法人トヨタ財団

トヨタNPOカレッジ「カイケツ」

第6期トヨタNPOカレッジ「カイケツ」第2回レポート

kaiketsu
カイケツ


情報掲載日:2022年2月28日

トヨタの問題解決、現状をどう把握するか

トヨタ財団は2月22日、トヨタ自動車の問題解決手法をNPO向けに伝える連続講座2021年度「トヨタNPOカレッジ『カイケツ』」第2回を実施しました。同講座は、社会課題解決の担い手である非営利組織のマネジメントを改善し、より大きな成果を出してもらうことが目的です。第2回は問題解決の「テーマ選定」を進めるとともに、現状把握のポイントを紹介しました。

トヨタの問題解決は、「テーマ選定」「現状把握」「目標設定」「要因解析」「対策立案」「対策実行」「効果の確認」「標準化と管理の定着」の8ステップからなります。第6期は全国から9団体がオンライン参加し、参加団体は約7カ月間かけて問題解決のプロセスをA3用紙1枚にまとめていきます。

問題解決の1つ目「テーマ選定」は、改善したい問題を1文にまとめるステップ。「どこで」「何を」「どのように」改善したいのかを具体的に設定していきます。

これまでのカイケツでは、「業務を標準化し、新しいことに取り組める時間を創出する」「イベントの準備日程遅れと抜け洩れの解消」といったテーマが設定されてきました。

カイケツの古谷健夫講師(クオリティ・クリエイション代表)は「目指す姿を描き、問題が見つかると、対策が思い浮かび、実行したくなってしまう。しかし、まずはギャップがどのくらいあるのか、事実を把握することが重要。本当の要因を探ったうえで、対策を取らなければ、いずれ元に戻ってしまいます」と、問題解決のポイントを説明します。

不登校児や外国ルーツ児童を取り残さない

おるたの家のプログラム「ぼるだりんぐ」を楽しむ子どもたち
おるたの家のプログラム「ぼるだりんぐ」を楽しむ子どもたち

カイケツに参加する稲葉祐一朗さんは2016年9月から、栃木県小山市で「小山フリースクールおるたの家」を運営しています。一軒家を使って、学校に行かない子どもたちにとって居心地のよい空間作りに取り組んできました。

同じ小山市で外国籍・外国ルーツ児童の高校進学ガイダンス事業を行ってきた佐藤孝俊さんらとともに、互いの強みを生かしたキャリア教育事業「ビジョンスクール」を立ち上げることになりました。

小山市は外国人集住地域で、全人口のうち外国人が4%を占めています。一方で、日本の高校進学システムについての基本的理解がないまま受験年齢を迎える外国籍・外国ルーツ児童が少なくないといいます。

そこで、稲葉さんと佐藤さんは、外国籍・外国ルーツ児童や日本人を含む不登校児童が将来のビジョンを自ら前向きに考え、夢を持てる社会を実現することをミッションに掲げ、2022年度中の事業開始とNPO法人どあのぶの設立を目指し、現在準備を進めています。

「そもそも一般的に就職活動に苦しむ子たちが多いという問題があります。なかでも、不登校児や、言語の壁がある外国ルーツの子どもたちは、うまく就職のレールに乗ることができず、支援が求められています。このままでは、社会の損失になります。実情にあった学校教育やキャリア教育の再構築が必要です」(稲葉さん)

佐藤さんは「どあのぶとして、やりたいことはたくさんあるのですが、NPO法人としてどうあるべきかを考え、事業を整理していきたい」という思いから、カイケツに参加しました。

担当する鈴木直人講師(元日野自動車TQM推進室室長)は、「トヨタの問題解決手法は、基本的に既存事業の改善に使うものですが、その手法を新規事業の立ち上げにも生かせます。例えば、業務プロセスを整理するガントチャートを作成すれば、計画と実際のギャップが『見える化』されます。計画の実行に役立つだけではなく、その先の問題解決にもつながっていく」とアドバイスします。

「現状把握」のポイントは

現状把握のポイントを紹介する中野講師
現状把握のポイントを紹介する中野講師

講座の後半では、「テーマ選定」の次のステップ「現状把握」に向けて、中野昭男講師(のぞみ経営研究所代表)がポイントを紹介しました。

中野講師は、「現状把握とは、現状をデータで表すこと。現状→目標→改善成果といったデータの連鎖が大切なので、まずはデータで考える習慣を付けてほしい」と話します。加えて、現状把握の前に、正しく「あるべき姿」を描くことの重要性を説明します。

「『問題』とは、『あるべき姿』と『現状』のギャップ。このギャップを解消することが問題解決につながります。そもそもこの『あるべき姿』が揺らぐと、ギャップが大きくなったり、小さくなったりしてしまう。だからこそ、現状把握の前に『あるべき姿』を正しく描いておく必要があるのです」(中野講師)

NPOが抱える問題で多いのは、代表の業務負担です。NPOは常勤スタッフの人数が限られている場合が多く、団体を設立した代表者本人に業務が集中する傾向があります。

現状把握では、この業務の負担をデータで示します。ステップとしてはまず全員の業務時間を把握し、それぞれ何の業務に時間を割いているかを記録します。例えば、資料作成に月33時間使っていたとしたら、何の資料に時間がかかっているのかを細分化して把握します。そのなかでも重要な業務を選定して、作業時間削減の目標を設定していきます。

目標はできるだけ数値で表し、「何を(項目)」「いつまでに(期日)」「どれだけ(目標値)」を明確にします。

「問題の解決には、関係者を巻き込み、全員参加で取り組むことが大切。コミュニケーションも活発になり、職場の良い風土づくりにもなります」(中野講師)

参加者からは「自分が感じる問題にフォーカスしていましたが、客観的な視点が重要なことに気付きました」「数値化の重要性を再認識できた」「これから可視化していくなかで、どんな気付きが得られるかが楽しみ」といった声が寄せられました。

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