公益財団法人トヨタ財団

トヨタNPOカレッジ「カイケツ」

第5期トヨタNPOカレッジ「カイケツ」第2回レポート

kaiketsu
カイケツ


情報掲載日:2020年7月23日

「他責にしない」トヨタ式問題解決とは

トヨタ財団は7月16日、「2020年度 トヨタNPOカレッジ『カイケツ』」の第2回をオンラインで開催しました。本講座は社会課題の解決に取り組むNPOにトヨタ自動車の「問題解決」手法を伝え、組織力の強化に役立ててもらうのが目的です。今回は、11団体が3グループに分かれ、「テーマ(取り組む業務上の課題)の選定」を進めました。(オルタナ編集部=吉田広子)

トヨタでいう「問題」とは、「目指す姿」と「現状」のギャップを意味します。トヨタNPOカレッジ「カイケツ」では、このギャップを埋め、その状態を維持していくことを目指します。

問題解決の1つ目「テーマ選定」は、改善したい問題を1文にまとめるステップ。「どこで」「何を」「どのように」改善したいのかを具体的に設定していきます。

これまでのカイケツでは、「業務を標準化し、新しいことに取り組める時間を創出する」「イベントの準備日程遅れと抜け洩れの解消」といったテーマが設定されてきました。

カイケツの古谷健夫講師(クオリティ・クリエイション代表)は「目指す姿を描き、問題が見つかると、対策が思い浮かび、実行したくなってしまう。しかし、まずはギャップがどのくらいあるのか、事実を把握することが重要。本当の要因を探ったうえで、対策を取らなければ、いずれ元に戻ってしまいます」と、問題解決のポイントを説明します。

「健康には社会とのつながりも必要」

足形ワークショップ

今期のカイケツに参加するNPO法人presents(東京・足立)代表理事の佐々木隆紘さんは、理学療法士として働くなかで、「医療だけでは解決できないことがあるのを実感しました」と言います。

「『痛み』は社会的なものを反映すると言われているように、身体が健康になっても、社会的なつながりや役割がないと、人は元気になりません。健康でいるためには、肉体的、精神的、社会的な側面からアプローチが必要だと考えています」(佐々木さん)

そこで、「人々の健康を地域で支えたい」と考え、同じ思いを持つ療法士の仲間らと2017年にpresentsを設立。これまで体操教室や味噌づくりのワークショップなど、楽しみながら食事や運動、健康について学び、地域住民が集う場づくりに取り組んできました。

カイケツに参加したのは、メンバーそれぞれが本業を持つなかで、業務を標準化し、それぞれの思いを実現できる組織体制にしたいという思いからです。

カイケツ1回目の講座終了後、改めてメンバーにヒアリングを行ったところ、「療法士の可能性を広げたい」「身体に目を向ける人を増やしたい」「地域の健康の窓口になりたい」――といった意見が出てきました。「自分が自分らしくいられる社会を創りたい」という団体のミッションも再確認できたと言います。

担当の鈴木直人講師(日野自動車TQM推進室主査)からは、「問題解決にはチームの協力が必須。チーム内で良い議論をされたのではないか。『業務の標準化』とすると漠然としてしまうので、どの業務を標準化させるのか、さらなるしぼりこみが必要」とアドバイスがありました。

新型コロナウイルスの影響で、presensでもリアルな場づくりが難しくなっています。

そうしたなか、佐々木さんは「生まれた環境に関係なく、子どもたちが自分の可能性を信じられる社会を創造したい。『経済格差』は『教育格差』につながり、『教育格差』は『健康格差』でもあります。どんな人でも気軽に立ち寄れる『暮らしの保健室』になれるような『駄菓子屋』さんをいつか実現できれば」と展望を語りました。

だれでも自分らしく生きる場所に

ビーンズふくしま 子ども食堂

フリースクールをはじめ、福島市で若者の居場所づくりに取り組んでいるのが、特定非営利活動法人ビーンズふくしま(福島市)です。

若者支援事業事業長の小林直輝さんは、「事業が拡大していくなかで、改めて組織のミッションを達成するための組織体制を整えたい」という思いで、カイケツに参加しました。

各事業長にヒアリングをするなかで、「事業間の会議やコミュニケーションが機能していない」「業務量が多い」「事業の全体像が見えない」といった課題が見えてきたと言います。

古谷講師は「問題解決の基本は『見える化』。事業の計画と実績、推移を明確にし、どういう不具合が起きているのか把握することが必要。うまくいっているところとそうでないところがあるはずなので、冷静に事実を明らかにしていくことが大切」とアドバイスします。

小林さんは「これまでほかの事業を知る機会があまりありませんでしたが、みんなビジョンを持って仕事をしていることが分かりました。『見える化』を進め、組織体制を整えていきたい」と話し、「引きこもりや困窮した家庭事情など、立場や背景にかかわらず、自分らしく生きていく権利はだれにでもあります。地域の方々をエンパワメントし、孤立せずに力を発揮できるような居場所をつくってきたい」と意気込みを語りました。

人がいれば解決するのか

カイケツに参加するNPOが挙げた課題で最も多かったのが、人材不足と資金調達。常勤、非常勤、ボランティアなど勤務形態が異なるうえに、行政がカバーしきれない課題に取り組むNPOにとって、社会貢献的な事業で利益を上げるのは容易ではありません。

一方で、カイケツの講師陣は「人がいれば、お金があれば、本当にその問題は解決するのでしょうか。それらを生かせる組織になっていますか」と投げかけます。

鈴木講師は「『他責』になってしまうと、なかなか問題が解決していきません。人やお金が不足していることで、どんな問題が起きているのか。業務をスリム化するなど、ほかにできることはないのか。現状を適切に把握し、それに合った対策を実行することが大切」と強調しました。

次回第3回のテーマは「現状把握・目標設定」で、8月20日に開催されます。

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