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JOINT29号 インタビュー4「NPOも学生もみなが成長し層の厚みを増やしていく」

JOINT29号 インタビュー WEB特別版4高城芳之

聞き手:大野満(トヨタ財団事務局長)

[助成対象者]
高城芳之
[プロフィール]
NPO法人アクションポート横浜 代表理事。認定NPO 法人 CFF ジャパン理事、NPO 法人くみんネットワークとつか理事、明治学院大学社会学部 非常勤講師。大学時代から「若者と地域をつなぐ場づくり」をテーマに活動をはじめ、 新卒でNPOの世界に飛び込む
[助成題目]
○2014年度イニシアティブプログラム「NPOへの若者定着支援事業~NPOインターンシップ及びプログラム型定着支援の実施」
○2015年度イニシアティブプログラム「NPOへの若者定着支援事業 ―NPOインターンシップ及びプログラム型定着支援の実施」
○2018年度社会コミュニケーションプログラム「NPOインターンシップラボ」

NPOも学生もみなが成長し層の厚みを増やしていく

高城芳之さん(右)と大野満(聞き手・トヨタ財団事務局長)
田中惇敏さん(右)と比田井純也(聞き手・国内助成プログラムプログラムオフィサー)

──高城さんは学生からNPOの世界に飛び込まれたんですよね。
大学は法学部に入ったのですが、1か月くらいで法学部は自分に合わないとわかってどうしようかなと思っていた時、たまたま大学祭の実行委員会に縁があって入りました。ほとんどサークルというかクラブ活動のような感じで、ずっと没頭していました。2年生の時は企画部にいて、3年生の時は部署のリーダーを担当しました。

企画部に入ったときに企画を作ることを体験して、それまで与えられた選択肢から選ぶことしかしてこなかったので、作る体験がとても面白かったんです。僕が作ったのは子ども向けの企画だったのですが、ゼロから自分で作ってこれをやりたいという思いを持って伝える経験がなかったので、それにハマってしまった。ですから大学祭が終わった後も続けたいと思って大学3年生の夏にボランティアサークルを作ったというのがきっかけですね。そのころはまだボランティアサークルがなかった時代で、僕たちは各大学で初めてサークルを作った、そんな世代でした。

その後、地域で活動を進めていると、地域から学生ボランティアのニーズがあることに気づき、地域の交流会みたいなのを作って、募集しているNPOや団体と、僕が大学から連れてきた学生のマッチング会を企画しました。それでやっていたのですがうまくいかなくて。なんでうまくいかないかというと、ボランティアを募集したいという団体と、ちょっと何かやりたいという学生、成長したいとか、将来福祉の仕事をしたいからとかちょっとぼんやりした感じなので、お互いニーズが合わなくて行っても雑用だけさせられたとか、合わなかったみたいなことになり、団体と学生双方からクレームが集まってしまいました。人をコーディネートするというのは難しいんだなというのを知って、コーディネートをしている人たちにいろいろ教えていただくようなことをしていました。みんなが就職活動をしているときに活動の方に夢中になってしまって。

──今は、ご出身の明治学院大学社会学部でも教えていらっしゃるんですよね。
社会福祉学科という明学が力を入れている学科の一つなのですが、フィールドワークという名前で、多様な福祉を学ぶ観点からNPOを見てみようという趣旨。簡単にいうとNPOインターンシップをやる授業で、今年は15人の学生がいます。

──高城さんのように、この授業から目覚めちゃう、みたいな学生さんは出てきましたか?
います。NPOでアルバイトが決まった子と、インターン後に学生スタッフになった子が2人出ましたし、そのあとも1人その道で続けているので、15人中4人が活動を続けていますから、よかったなと思っています。まだ半分以上が終わっていないので、これからもそういう学生が出てくるのではと思います。

スケジュールとしては、前期の授業で基本的な、例えばNPOって何なのかみたいなところを教科書で学びます。そして夏休みがインターン期間なんです。教科書を読んで用語としてわかったことでも、行ってみて体感して身をもって知るということも多いようです。そして後期は振り返りで、教科書でもう一度読み合わせをします。そうすると例えば非営利って言われてもよくわからなかったけど、事業体としてちゃんと回っていたよね、とか実感をもって理解できるみたいです。

──10年間アクションポート横浜を引っ張ってこられたわけですが、その間に苦労したこと、嬉しかったことなどを教えてください。
資金繰りは大変でした。また、僕は前身の横浜市市民支援活動センター運営委員会の時代から関わってきたので、アクションポートになったときの衝撃が大きくて。横浜市市民支援活動センターって「横浜市」がついているから企業に飛び込みで行ってもとりあえず話を聞いてくれるんですよ。でもアクションポートってなんだかわからないじゃないですか。認知度もないので営業をしても何にもなりませんでしたし、話を聞いてもらえず営業すらできないことがありました。相談もこなかったですしね。

サンタプロジェクトというのをもう10年くらいやっているのですが、これも最初は全く話を聞いてもらえなかったです。

今は100社近くの企業が関わってくれて1000人以上集まるイベントになりましたが、当時は大変でした。今このプロジェクトは企業の皆さんで企画を立ててやっていただいています。私たちは事務局という立場でお手伝いはしていますけど、ほとんど一年がかりで企業の皆さんが実行委員長を決めたりしてやってくれています。

嬉しかったことは大学生が共感してくれるところでしょうか。あとは卒業生も参加しに戻ってきてくれることもすごく嬉しいです。

──学生スタッフというメンバーが伝統的にいますよね。
インターン生とは別に学生スタッフという学生を支えるサポートスタッフがいます。インターンシップで自分で企画をやってみるという成功体験や、やるときに学生スタッフが支えてくれた、ケアされたという経験が大事です。自分が成功して楽しかったと思ったときに、支えてもらったからできたんだというのがちゃんとわかるので、そうすると自分も支えたいなと思うし、支えることに意味があるなというのがわかるので、なるべくインターン生からの学生スタッフというのを増やすようにしています。

インタビュー4高城芳之

──新しいキャッチコピーは「まちにたくさんの主人公を!」ですね。
10年間やってよくわかったのは、やはり人だな、と。人とのつながり、人との関係性というのがまちを作っていて、それが組織につながっていくと思ったので、人をどれだけ大事にできるかというところに軸を置こうと決め、このキャッチコピーにしました。今の高校や中学は特にそうですが、大学生を見ていても、正解探しばかりを学んできた感覚があります。インターン生を見てもちょっと前まではやりたいからという参加理由でした。しかし、最近の傾向は不安だから始めるという学生も多いです。正解探しの世の中で、自分がレールに乗っていないことへの不安とかなのかな。学校では輝けないけど、まちの中で輝けるというようなスポットライトの当て方ってたくさんあるなと思っていて、もっともっと活躍の場の種類が増えてもいいのではと感じています。その人なりの主人公のなり方がまちにはあると思うので、なるべくそういう舞台づくりをやっていきたいというのが目指すところです。

──トヨタ財団で支援しているインターンシッププログラムについて教えてください。
インターンシッププログラムは大学生がNPOでインターンをするというプログラムなのですが、大学と提携して授業の一環として行っています。横浜にあるNPO、法人格があるところもないところもありますが、地域に根差して地域の社会課題を解決しているような事業体に行って企画活動をするということをやっています。派遣先のNPOは事業型でやっていることと、人を雇って事務所があるという団体に限っていて、分野は子育て、まちづくり、環境、福祉……とさまざまです。10大学と提携していて、学生はそこから授業を経由して入ってきて、25くらいある団体から好きなところにマッチングをしていく。その前段階で研修会や面接をうちでサポートするというプログラムになっています。

比較的短期が多いのですが、60〜70人くらいが毎年参加して、10年で500人くらい卒業生が出ています。卒業生の中には社会人になってからボランティアをしたいという人が増えていたりします。長期にわたるインターンシップは半年間ですが、毎年10人くらい、今年は7人います。

──やってみると面白さ、気づきがあるんでしょうね
やはり人間関係をちゃんと作れたところは続いているなという印象です。学生たちから聞いた感想では、こんなに話を聞いてもらえたのは初めてだとか、こんなに多世代と話した経験がなかったから楽しかったとか。一人っ子の学生は、年上でそこまで話すのは親くらいしかいないし、バイト先でもそんなに深いところまでは話さないし、なのにインターンではプライベートなことまで話してきたと言っていました。子育てのNPOだとお母さんたちと年齢が近いこともあるせいか、夫を選ぶときはここに気を付けるといとか、何歳までに結婚しなさいと言われたとかいうのがあって、そういうのが面白いなと思いました。

有名な子育て系のNPOだと保育士になりたい学生がうちみたいなところを通さず直接インターンに来ることが多いらしいのですが、うちがお世話になっているNPOだと普通の子が来るので、こんなに赤ちゃんを抱っこしたことないのか、とか、今の子はこういうことを知らないんだっていうのに驚くと言われます。団体側も新鮮な気づきがあるようですね。

──団体側も単なる人手とは思っていないんですよね?
受入NPOと、なんで受け入れているのかを共有する会を開催しました。共に生きる社会の実現が大事、学生も団体もNPOの価値を自覚するのが大事だという意見が出てきて共有しました。この会が感動的で、団体同士もやっぱりそれだよね! こういうことを目指してやっていきたいんだ、NPOや地域のコミュニティだからできる価値を気づいてもらいたいんだよね、みたいな。地域密着で次世代の人材育成も大切ですね。だから地元の大学生が参画してくれるのはいいことだと思いますし、社会人を数年やって戻ってきたという人もいます。

──今年、NPOインターンシップラボもスタートさせましたが、そのあたりのことを教えてください。
トヨタ財団の助成金を受けて9月15日にキックオフシンポジウムを開催しました。人材育成は続けることが大事だというような基調講演があったりして非常に面白かったです。分科会はプログラムの作り方、お金について運営の部分の話、あとは学生とNPOの本音対談という3つがあって、どれもすごくよかったと思います。

──どのように発展させたいですか?
いろいろチャレンジをしてみたいですね。オーダーメイドで作っていく。地方は地方でまた違う課題があると思うので、そういう方々が普段思っているようなこととか、地方に若い人をどう増やすのかというのはぜひやってみたいです。

どうやって若者とNPOと地域のいい関係を作っていくかということと、彼らをその中で育てていきながら次の世代につなげていくかという話なんです。テーマを決めれば大学も巻き込めると思いますし、NPOも行政も企業も巻き込むことができるので、切り口を変えていくことでいろいろな人を巻き込むことができると思います。

インタビュー4高城芳之
アクションポート横浜スタッフの長浜さん(右)

──せっかく学生スタッフで深くかかわっておられる長浜さんに同席していただいているので、長浜さんから見た高城さん評をおきかせいただけますか。高城さんってどんな人ですか?
長浜 すごくいいなと思うのは、私たち学生一人ひとりに接するのがとても丁寧なところです。最初出会った頃、高城さんに声をかけていただいて参加したイベントが終わった当日、ありがとうということと、こういうところが良かったよ、というようなフィードバックを送ってくださったことがあったんです。そういう丁寧なコミュニケーションを、しかも当日するのって大変だと思うんです。でもそういうことをすることで人との関係性を築けますよね。これを当たり前と感じるか、すごいことだって感じられるかというのは人それぞれだと思いますが、私は尊敬しています。今後の進路としては一般企業に就職が決まりましたが、せっかくNPOの世界にも浸ったので、イベントの時にお手伝いするとか、関われるだけ関わりたいと思っています。

──10年後のアクションポート横浜は?
10年後は今の学生スタッフ世代が活躍しているといいなと思います。次の10年では次世代コミュニティを育てていかないといけない。NPO職員だけ育ててもダメで、それを一緒に支えていく仲間を作ってみんなで育ちあっていかないといけないと思います。層の厚みを増やしていくというのかな。

カリスマが一人いるというよりは、今日同席している学生スタッフの長浜のような人が5人くらいいて、一つのものを作っていったりとか新しい何かをつくっていくというのが地域に増えていくのが理想。そうなればNPOインターンシップはコミュニティづくりにかなり貢献できるのではと。そういうふうになっていくと地域が面白くなるだろうなと思います。

公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No.29掲載(加筆web版)
発行日:2019年1月25日

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