公益財団法人トヨタ財団

助成対象者からの寄稿・「私」のまなざし

「私」のまなざし◎宮崎とバングラデシュの架け橋となるために

バングラデシュでの採用面接
バングラデシュでの採用面接

著者◉ 荻野紗由理(株式会社B&M)

[助成プログラム]
2019年度 特定課題「外国人材の受け入れと日本社会」
[助成題目]
高度外国人就労者受入れ支援に関する産学官金の地方モデルの研究・実証活動
[代表者]
荻野紗由理(株式会社B&M)

宮崎とバングラデシュの架け橋となるために

海外に関わる仕事がしたい! と高校卒業後に地元宮崎を飛び出しましたが、東京ではそういった仕事に就けず、13年後に地元に戻りました。そのきっかけとなったのは、宮崎でバングラデシュのプロジェクトに参画する機会を得たからです。

宮崎空港でお出迎え
宮崎空港でお出迎え

現在、当社(株式会社B&M)では「宮崎─バングラデシュモデル」と呼ばれる、バングラデシュのITエンジニアの育成と就職支援をする産学官の事業に携わっています。その中での当社の業務はバングラデシュITエンジニアと宮崎企業のマッチングです。このバングラデシュでのIT人材育成は2017年から2020年まではJICAが主体となり実施され、2021年から宮崎大学を中心とする連携団体に引き継がれました。バングラデシュ現地でITエンジニア向けに宮崎大学の日本語講座が開講され、その受講生を雇用した宮崎市の企業には宮崎市から助成金が入る仕組みになっています。産学官が連携した高度人材の雇用促進モデルとして全国から注目を集めています。

当社では2017年からバングラデシュITエンジニアを受け入れる宮崎県内企業の面接や受入準備に立ち会ってきました。ほとんどの企業にとって、バングラデシュITエンジニアは初めての外国籍社員となります。そのチャレンジに踏み切った熱い思いを持つ経営者の方、面接をしながら彼らの熱意に涙する面接担当の方、里子を受け入れるように生活支援をしてくれる人事担当者の方、そして右も左も分からない外国で働き始め、周りの支援に丁寧に感謝を伝えるバングラデシュ籍のエンジニアたち。地方宮崎と新興国バングラデシュは「人が好き」という共通点があると感じます。

ビジネス的な付き合い以上に、人と人として色々な熱量と愛情が混ざりあいながら受け入れが進んでいくのを見させていただいています。

宮崎市長を表敬訪問
宮崎市長を表敬訪問

そんな日々を過ごしていた折、知り合いからトヨタ財団の特定課題「外国人材の受け入れと日本社会」の公募について聞きました。それまで人材紹介会社として雇用の機会を作ってきましたが、かねてより「もっと何かできるはず」と感じていた「受け入れ」面について調査・実証ができるチャンスと捉え、応募させていただきました。

関係者で集まり、企画を練っていたのは2019年11月。まだ新型コロナウイルスという言葉を聞かない頃でした。今後入国してくるエンジニアたちの生活支援について、調査・整理し、新しい持続可能なサービスとしての構築を目指していこうとワクワクしながら作戦を練っていたのを覚えています。そして採択いただいたのは2020年4月頃。日本では7都道府県に緊急事態宣言が発令された時期です。さて、困りました。その頃、水際対策として海外からの入国規制が敷かれており、新しいバングラデシュ籍のエンジニアが入国できなくなっていたのです。まずは不安を抱えている彼らにオンラインで面談などを行い、不安を払拭することが必要でした。

宮崎大学や受け入れ予定の企業の方々からも彼らと多くのコミュニケーションをとっていただき、彼らの気持ちが離れないように日本側の連携も密にしました。先行きの読めない不安、オンラインでしかコミュニケーションがとれないもどかしさを感じる日々でした。

日本語の授業の様子
オリガミアーキテクチャー:一枚の紙から世界の近現代建築を折る」展。2021年4月9日~6月3日、東京、ギャラリー・エー・クワッドで開催

さて、本助成事業の方はというと、できることをやろう、と既に受け入れをしてくれている企業や宮崎で働いているバングラデシュ籍のエンジニアにヒアリングを行いました。来日してから長くて3年、短くて半年程度のメンバー及びその受入企業に話を聞きました。当初こちらで想定していた生活の立ち上げ(住居探しや各種手続きなど)については想定していたほど課題がでてきませんでした。「手間はかかったけど、やり切れた」というコメントが多かった印象でした。他には、移動手段の確保や私生活の充実、お祈りの場所やハラル対応のお店がないといった声が聞かれました。

また、それよりも印象に残っているのは企業とエンジニア双方から聞かれた日本語スキルを含めたコミュニケーション面やキャリアについての不安感です。特に、企業側からはバングラデシュ籍エンジニアがキャリアをどう考えているのか、また会社としてサポートしていけるのかが不安。バングラデシュ籍エンジニア側からは、企業が自分をどう評価しているかが分からないといった不安が聞かれました。

当時、私はヒアリングをしながら企業側やバングラデシュ籍エンジニアの不安感に深く共感できるものの、どうすればいいか仮説さえ立てられずにおり、ぐるぐる頭を悩ませていました。そこで、調査事業からは外れますが、私自身「国家資格キャリアコンサルタント」を取得するに至りました。そのノウハウを活かしてキャリアをどう考えるか、それをどう伝えていくかといったツールを本事業内で開発させていただきました。今後、検証・改善していき企業やエンジニアがキャリアに対する不安感を払拭するための一助になれればと願っています。

本事業の企画の中では他にも多文化共生イベントやシンポジウムの開催などを盛り込んでいます。申請当時と状況が一変した今、オンラインなどを用いて何をどうバージョンアップさせて実施するかが本事業での次の課題になっていると感じています。

また、2022年2月10日は日本バングラデシュ国交成立50周年となり、メモリアルなことをしたいと感じています。これまでチャレンジを続けてきた企業やバングラデシュ籍エンジニアに敬意を込めて、本事業を最大限に活かしながらこれからも奮闘していきたいです。

公益財団法人トヨタ財団 広報誌JOINT No.38掲載
発行日:2022年1月20日

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